第4話 白昼の誘拐劇
***
「いい天気ですね!」
燦々と降り注ぐ陽光を浴びて、アルムは「んーっ」と伸びをした。
「他に必要なものはないか?」
「思いつきません!」
アルムは「えへへ」と笑って兄に買ってもらった服を包んだ紙包みを抱きしめた。ミラが持つと言うのを断って自分で持たせてもらっている。
「天気はいいですが、少し暑いですね」
アルムに日傘を差しかけながらミラが言う。
「そうだな。何か飲み物でも買おう」
ウィレムはカフェのオープンテラスの席にアルムを座らせ、ミラを伴って店の中に入っていった。
ちょこんと座ったアルムは紙包みを膝の上に置いて街ゆく人々を眺めた。王都の大通りには人々の活気が溢れている。着飾った女性達や駆け回る子供達、並んで歩く恋人達。
その人々の流れの中を、ガラガラと音を立てて馬車が走ってきた。
人々が驚いて道を開ける。ほどなくして、物々しい兵士に囲まれた馬車が通りかかった。
護衛を引き連れているところを見ると、よほどの高位貴族かあるいは王族が乗っているに違いない。
そう思って目で追うと、アルムの前を少し通りすぎたところで馬車が停まった。
何の気なしに眺めていたアルムの前で馬車の扉が開き、中から筋肉の塊が現れた。
「そこにいるのは聖女アルムではないか! 奇遇だな! ふははは!」
「ひえ」
馬車から降りてきた筋肉の塊、もとい、この国の第二王子ガードナーは白い歯を光らせて高らかに笑った。
突然現れた筋骨隆々な大男に、アルムの頭が真っ白になった。
いきなりの筋肉に戸惑うアルムにかまわず、ガードナーは筋肉を見せつけつつ迫ってくる。
「ちょうどいいところで会った! これも何かの縁だ! 一緒にきてもらおう!」
「ふえ?」
ガードナーはひょいっとアルムを小脇に抱えると、のっしのっしと歩いて馬車に乗り込んだ。
「アルム!?」
店から出てきたウィレムが妹が連れ去られる瞬間を目撃して声をあげる。
「ふははは! アルムは預かった!」
ガードナーが悪者のような台詞を残して、馬車が走り出す。
白昼堂々、男爵家の娘を誘拐する第二王子。大事件である。
「何考えてんだ。あの脳筋!!」
王族への敬意も忘れて青筋を立てたウィレムは、近くに停まっていた乗り合い馬車に乗り込んだ。
「前の馬車を追ってくれ!」
「全速力でお願いします!」
ウィレムとミラに急き立てられて、乗り合い馬車の御者は困惑を浮かべながらもとりあえず言われた通りに走り出した。
幸いなことに、走り出してすぐに前方の馬車が強烈な金色の光を放って輝きだして停まったため、乗り合い馬車の御者は無茶な走行をせずにすんだのだった。
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