第3話 白熱の赤青論争





 ***



「アルムが赤い服を着れば周りがぱっと華やかになるだろう! アルムの愛らしさを引き立たせる色は赤をおいて他にない! ほら、見てみろ!」


 ウィレムは試着室から出てきたアルムをミラの前に突き出した。


 ウィレムが選んだのは白い襟に施された小花模様の刺繍と、袖口とスカートの裾を縁取るフリルが印象的な赤いワンピースだ。くるりと回るとふわりとふくらんだスカートがやわらかく揺れて、腰に結ばれた大きめのリボンが後ろ姿まで可愛く見せる。

 赤い色はアルムの紫の瞳を引き立ててより鮮やかに見せた。


「どうだ! これ以上にアルムに似合う色はないだろう!」

「いいえ! これを見てから言ってください!」


 自信満々に自説を主張するウィレムに、ミラは自身が選んだ青い服を手にアルムを試着室に戻した。


「青の持つ落ち着きと気品こそアルム様の魅力を倍増する効果があります! そして青は神秘的な色。清浄な光に愛されたアルム様には青こそがふさわしいです!」


 ミラは手際よくささっと着つけて試着室からアルムを押し出す。


 青と白のストライプのワンピースは、すとんとまっすぐなスカートがすっきりしたシルエットを作る。フリルなどがない分動きやすそうで飾り気のない服だが、首元の細い黒のリボンタイと前立てに並ぶ大きめのボタンが十分に可愛らしい印象を与える。

 青い色はアルムの銀髪によく映えて、少し大人びた雰囲気を醸し出している。


「どうです? これ以上にアルム様を魅力的に見せる色はございません!」


 ミラは自信たっぷりに胸を張った。


「赤の方が可愛い!」

「いいえ、青です!」


 両者、一歩も引かず。


 店の真ん中で言い合いをはじめられると当然邪魔なのだが、貴族らしき客に文句を言うわけにもいかず、店主はひたすら壁と同化して気配を消していた。

 赤だ青だと言い合う二人の真ん中では、小柄な少女が目をぱちぱちさせている。


「アルムは赤と青、どっちが好きだ!?」

「お好きな方を選んでください!」


 しまいには二人から詰め寄られて、かわいそうに少女は「あうあう」と呻いていた。



 白熱した議論は小一時間ほどで終了した。

 赤青論争は「アルムは何を着ていても可愛い」という結論で決着し、赤い服と青い服の両方を購入することになった。

 なんのための争いだったんだ? と呆れる内心を押し隠して笑顔で客を送り出した店長は、ひょこひょこと男爵の後ろについて店を出ていくアルムの後ろ姿に声を出さずに語りかけた。


(強く生きろよ……)


 赤だ青だと言い合う二人に挟まれて目をぱちくりさせていたアルムの姿は、店長の目にはか弱い小動物のように映ったのだった。



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