第28話 第七王子の憂鬱
とりあえず王弟サミュエルはワイオネルの監視下で軟禁となった。
事情を説明したヒンドとドミは驚いていたが、ワイオネルの好意で時々サミュエルと会えるようになったという。二人とも貧民地区を出て、信用の置ける者の家に預けられている。
ワイオネルは十年前の真実を調べている。
結果によっては、第三妃と第四妃は王弟宮に火をつけた罪で裁かれることになるだろう。
第二妃については直接手を汚していないし、国王と王妃を扇動したという証拠もない。裁きを受けさせることは出来ないかもしれないが、犯した罪が事実であれば相応の対処はするつもりだ。
国王と王妃には、『病気』で退いてもらうことになるかもしれない。それはきっとそう遠い日ではない。
ワイオネルが即位する日が近づいている。
それに協力しながら、ヨハネスは憂鬱な気分を消せないでいた。
この国の貴族はクズだと常々思っていたが、国王と妃達は漏れなく畜生以下だった。七人も兄弟がいるというのに、誰か一人の母親ぐらい、慈愛に満ちた人物であってくれたら……いや、普通の正義感を持ち合わせてくれていたら。そう思わずにいられない。
「はあ〜あ……」
重い溜め息の理由はアルムだ。
あの王宮と大神殿を襲った瘴気をたちどころに祓った聖女として、アルムの人気がうなぎのぼりだ。
どれくらいかっていうと、「アルム様こそワイオネル殿下の妃にふさわしい!」と皆が口にするぐらい。
「ぐぐぐ……アルムのすごさに最初に気づいたのは俺なのに〜……」
アルムは相変わらず廃公園のベンチでだらだら過ごしているが、王宮と大神殿でのアルム人気は日々募っている。このままだと本当にワイオネルの正妃になってしまうかもしれない。
「ワイオネル様も乗り気っぽいんだよ……今回のことがあったから、「やはり妃に迎えるのは慈愛の心を持つ清らかな者でなくてはな」とか言ってた。聖女のアルムと結婚したがっているんじゃあないだろうか……あああ……アルムの力を誰よりも理解しているのは俺だぞ! 俺は初めてあった時からアルムを見ていた! アルムは誰にも渡さないっ!!」
「邪な気配!」
思いの丈を叫んだ途端に筆頭聖女に聖水をかけられた。だが、これまで様々な試練を受けてきたヨハネスは最早それぐらいでは動じない。
「アルム……アルム、アルムが必要なんだ。俺には……くそぉぉぉ何故アルムがここにいないんだぁぁっ」
ヨハネスは頭を抱えて呻いた。
「まあ……なんて見苦しい……」
「うるさい! なんとでも言え! ああ! もう我慢できるか!」
ヨハネスはキレた。アルムが出て行って以来、聖女達にいびられてたまりにたまっていたストレスが爆発した。
「アルムと結婚して隣国までハネムーンに行ってやるーっ!!」
叫ぶなり、ヨハネスは執務室から駆け出て行く。
「殿下! お待ちを! そんな無謀な計画を叫んではなりません! 末代までの恥になりますよ!!」
親切心で止めるキサラの声も届かず、ヨハネスは大神殿を飛び出していった。
***
さて、ワイオネルが国王を裁くために動き始めて以来、宰相クレンドールはその動きを察知して今後の方策を立てていた。
「どうやら、第五王子の即位を止めることは出来ないようだな……であれば、少しでもこちらが優位に立つためには」
先ほど目の前でいちゃつく第一王子とその婚約者を仕留めるために使用したペンを机に置き、クレンドールは思案した。
ちなみにクレンドール候の必殺技その47「乱蜂百ペン無双」は、投げ放たれたペン先が針を刺す百匹の蜂のごとく獲物に突き刺さる大技である。若い頃はこれで幾多の政敵を葬ってきた。
「やはり、聖女アルムをこちら側に引き込むのが一番か。どうやら第五王子のみならず、第七王子も聖女アルムにご執心と聞いた……」
第一王子をオギャらせ、第二王子を福祉に目覚めさせ、第五王子と第七王子を虜にした恐るべき手腕の聖女だ。一筋縄では行くまい。
「ふむ。ここらで一度、顔を合わせておくべきだな」
クレンドールはとある書類を手に立ち上がった。
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