第26話 王弟の復讐〜早期決着〜





「ふう……第七王子が出没するなんて大神殿は物騒だなぁ……」


 リモートを終えたアルムは額の汗を拭って息を吐いた。危なかった。あれ以上第七王子の姿が視界に入ったら吐いていたかもしれない。第七王子は共演NGです。


「でも、久々の大神殿だったけど、なんかちょっと違和感があったような……」


 アルムは首を傾げた。さしものアルムもリモートでは空気の違いまでは感じ取れない。


「でも、キサラ様達も普通だったし、気のせいか」


 アルムはいつものようにベンチにごろりと寝転がった。そこへ一人の青年が公園の前に姿を現した。

 第五王子、ワイオネルである。


「アルム」


 アルムはちょっと警戒した。何せ、この前は腹立ち紛れに王宮まで吹っ飛ばしてしまった相手なので。


「この前は悪かった。いきなり部屋を与えるなどと言うべきではなかった」


 反省したらしく、ワイオネルが謝罪を口にする。


「その前に、お前をどこか高位貴族の家に養子にしてもらおう。アルム、俺の妻となりこの国を支えてくれ」


 反省していなかった。グレードアップしてきた。


「アルム。お前はこの国の王妃となるにふさわしく……」


 第五王子が何か言いかけたその時、アルムはざわりと空気が変化するのを感じて王宮と大神殿の方角に目をやった。


「これは……」

「どうした?」

「ものすごい量の瘴気が王宮と大神殿を包んでいます」

「何?」


 アルムは目を閉じて念じ、再びリモートで大神殿を見れるようにした。

 聖騎士達が床に倒れて苦しんでいるのが見える。さらに、キサラ達聖女も具合が悪そうに座り込んでいる。

 アルムはすぐに、この間の感染病と同じだと気付いた。

 しかし、先程まで元気にお茶を飲んでいたのに、突然全員が病に倒れるのは不自然だ。


「キサラ様、キサラ様。何があったのですか?」

『あ……アルム……』


 リモートアルムに気付いたキサラが苦しげに眉根を寄せながら口を開いた。


『それが、わからないの。突然、皆が苦しみ出して……』

「わかりました。とりあえず治しますね」


 言うが早いが、アルムが軽く手を動かすだけで、遠く離れた大神殿の聖女達は即座に回復した。

『ありがとう。アルム』

「いえいえ」

『でも、他にも倒れている人が……』

「では、一気にやっちゃいますね」


 アルムは再び目を閉じて集中すると、大神殿と王宮を思い浮かべた。王宮には入ったことがないので自信がないが、大神殿と同じ要領で倒れている人々の気配を探る。


「うーん。ちょっと人数が多いけど、やれないこともないか。よっ」


 軽い掛け声と共に、アルムの全身から光が放たれた。



***



「エリシアを殺したのが、俺達の父と母とはどういう意味です?」

「だから、そのままの意味だよ。国王と王妃と、側妃達が共謀して王弟宮に火をつけてエリシアと子供達を殺した。私は死なない程度の毒を盛られて、治療の名目で王宮に運ばれたため無事だった。目覚めた時には、何もかも手遅れだった……」


 サミュエルが悔しそうに唇を噛んだ。


「……そんな馬鹿な。王弟に毒を盛ってまでして、両陛下と側妃達がエリシアを殺したかったとでもいうのか?」

「そうさ。ちゃあんと動機はあるよ」


 サミュエルが前髪をかきあげて言った。


「動機だと?」

「教えてやろうか? まずは……」


 サミュエルが動機を説明しようとし始めた。

 だが、その次の瞬間、大神殿と王宮が明るい光に包まれた。


「何!?」


 強い陽光に包まれたかのような明るさと柔らかさに一瞬戸惑ったヨハネスだが、光に包まれた瞬間、あれほど具合の悪かった体調がけろりと治っていることに気付いた。

 そして、その明るく柔らかな感覚に覚えがあった。


(アルムの気配がする……)


 この光はきっとアルムの力だと、ヨハネスは確信した。


「どうなっている!?」

「……瘴気は全て消えたようだな」

「馬鹿な……十年間蓄えた瘴気だ。そう簡単に消される訳が……」


 狼狽えるサミュエルの前で、ヨハネスが立ち上がった。周囲の聖騎士達も次々に起き上がる。


「お前達! 叔父上を捕まえろ!」


 ヨハネスの命に従い、聖騎士達がサミュエルを拘束した。


「ぐっ……何故だ? 瘴気にやられて全員動けないはずなのに……」

「叔父上。あなたは俺のアルムがどれだけすごい聖女なのか知らなかった。それがあなたの敗因です」


 ヨハネスは愛しい少女の面影を思い浮かべて、ふっと微笑みを浮かべた。


「はっ!」


 そのヨハネスの後頭部に、聖女キサラが放った光魔法が直撃した。


「何すんだコラッ!!」

「あらいやですわ。つい……」

「俺のアルムとか言ってますわよ……」

「なんて図々しい……」


 通常運転の聖女三人に、ヨハネスは「攻撃する相手が違うだろう!」と憤った。


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