第24話 大いなる聖女





 一方、キサラへの通信を切ったアルムは、早速病を治しにいこうと考え目を閉じた。

 先ほどここに現れたヒンドの姿を思い浮かべ、彼が歩いてきた道のりを遡る。どこをどうやって歩いて来たかが、アルムの脳内に映像として蘇る。ほどなく、ヒンドが出てきたお屋敷がみつかり、アルムはそこが病人の出ている場所だと確信した。


「よし」


 アルムは先ほどキサラの前でやったように、屋敷の主人の前に実体のない映像として現れた。

 難しい顔で机に向かっていた屋敷の主人は、突然空中に現れた少女の顔に文字通り腰を抜かした。


「ゆっ、幽霊……っ!!」

『違います。「リモート聖女」です』

「リモート聖女!?」


 聞き覚えのない言葉に動揺する主人にかまわず、アルムは早速本題に入った。


『この家で病が出ているでしょう?』

「なっ、なぜそれをっ……もののけめ!」

『もののけじゃありません。「リモート聖女」です。お願いがあるのですが、この家の病人をすべて一つの部屋に集めてもらえますか?』


 腰を抜かしたままの主人は、アルムを見上げて怪訝な表情を浮かべた。



***



 突如現れたリモート聖女を名乗る者の指示により、病人が一部屋に集められた。

 皆、何が起きるのかと不安そうにしていたが、空中に見覚えのない少女の姿が浮かんでいるのを見ると、熱で朦朧とした人々は「天使がお迎えに来た」と思い込んで口々に「ありがたや~」と拝み出した。


「リモート聖女とやら、病人を集めた何をするつもりだ?」


 屋敷の主人がアルム@リモート中に尋ねる。


『そうですね。とりあえず……これだけ病人が出ていますが、王宮に報告はしていないのですか?』


 大神殿で把握していないかったということは、王宮からお祓いやお清めの依頼が来ていないということだ。

 だが、屋敷の主人は悔しそうにかぶりを振った。


「馬鹿な! 二、三人倒れた時点ですぐに報告したさ! うちから流行病を出したなんていったら近所の連中に顔向けできん。なのに、王宮からも大神殿からも何の音沙汰もない。病人は増える一方だ。医者にはみてもらったが薬も効かないし、隔離して何とか家の外に出ないようにしているが、通いの使用人もいるし、いつ何時他の家で病人がでるか……」


 屋敷の主人は現段階では正しい対応をしていた。それなのに、王宮からも大神殿からも助けが来ないので途方に暮れていたのだ。


『なるほど、そうでしたか。では、とりあえず全員治しますね』


 アルム@リモート中がこともなげに言い、次の瞬間部屋中に柔らかい光が広がった。


「おお……」

「天使様が魂を天に運んでくださるのか……」

「なんだ、この光は?」

「こんな俺でも天国へいけるのか……」


 一部何か勘違いしていたが、光に包まれた病人たちは一瞬で体が軽くなり、楽になるのを感じた。


『はい。これで治りました』

「な、治ったのか?」


 屋敷の主人は驚愕した。ずっと寝込んでいた重病人が寝台に身を起こして「あれ? 天国じゃない?」と言っている。


『では、私はこれで』

「ま、待ってくれ!」


 屋敷の主人は引き止めたが、空中に浮かんでいた少女の姿はすーっと消えていく。


「せめて、お名前をーっ!」


 大いなる聖女アルムが去ったあとの空間を、病から救われた病人達はいつまでも拝んでいた。




***



「うーん……」


 リモートを終えたアルムは首を捻った。

 あの屋敷の周りで病気になっていたり症状は出ていなくても感染している人間もついでに治しておいたので流行病が広がる心配はなくなったが、王宮から大神殿に依頼がなかったというのがやはり気になる。


「何かの手違いかなぁ……? まあ、もう治したんだからどうでもいいか」


 アルムはふわぁ~と欠伸をしてベンチに寝転がった。


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