第2話
南十字先輩から話を聞いた僕はその後すぐに部室を後にし、帰路についた。正直、南十字先輩の話は意味不明だ。何かのゲームに影響を受けちゃったのかと思うほどに現実離れしている。
因果律の収束から逃れる為に『世界の果て』へ行かなければならない。こんなことをあったばかりの先輩に真顔で言われても信じられないというのが本音だ。
電車に乗り、家に帰ろうとするがその足取りは重い。これもアイツのせいだ。僕の家にいる疫病神。それがアイツ。
僕の住むマンションに着くと、僕はゴクリと唾を飲んだ。家に帰るときはいつもこうだ。僕の住む部屋の前に来るとガチャリと鍵を開ける。
扉を開けると、薄暗い部屋からどこかアルコールの臭いが漂ってきた。
それを無視して僕は部屋の中に入る。リビングにはスエットを着た無精髭の男が酒の臭いを漂わせながらソファで眠っていた。僕はリビングに散らばったビールの缶を踏まないように僕の部屋に向かった。
僕の部屋は殺風景で物が必要最小限にしか置いていない。ベッドに腰を掛けるとリビングの方からアイツの怒鳴り声が聞こえてきた。
リビングに向かうとアイツ、つまり僕の父親が期限の悪そうな顔でこちらを睨みつけていた。
「何?」
「何、じゃねぇよ! このクソガキ!」
父親は怒鳴りながらこちらに近づくと、僕の頭を殴る。
「テメェ、帰って来たなら『ただいま』くれぇ言えよなぁ?! 躾のなってねぇガキが!」
酒臭い息だ。殴られた頭は割と痛かったが灰皿で殴られたときのような怪我にはなっていなかった。
「うるさくして俺の昼寝の邪魔するんじゃねぇぞ」
そう言うと父親はまたソファに座り、酒を飲み始めた。どうやら今日はそんなに期限が悪くないようだ。僕は父親の機嫌を悪くしないように自室に音を立てずに戻る。
僕の家にはアルコール中毒の父親がいる。母親は父親がアルコールに溺れ始めた6年前に、僕を置いて父親の所からいなくなってしまったのだ。
その日から僕はアルコールで人格も倫理観も壊れてしまった父親のような何かと二人で暮らしている。暴力は日常茶飯事、毎月大量の請求書が送り付けられる貧乏な生活。
この生活では大学に行くことなんて夢のまた夢だ。親の背中を見ていると、自分の未来なんてろくなものにはならないだろう。僕の未来には輝きなんて存在しない。
だからこそ、僕は惹かれてしまうのだ、『世界の果て』に。
世界を終わらせてしまいたいから。
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