星を追う子ども
阿多岡はちか
第1話
「『世界の果て』へ行きませんか?」
僕と『世界の果て』の出会いは突然だった。高校入学早々、登校中の僕に手作りのビラを突きつけてきた彼女のこの言葉から全ては始まる。
「せかいの……はて…?」
僕は突然話しかけられたことに怯んでしまう。今は新入生歓迎の時期だからこういう勧誘も多いのだろうが、奥手な僕としてはこういうのはどうも苦手だ。
「そうです! このオカルト研究会では『世界の果て』を目指しているんですよ。」
自信満々に自作のビラを彼女は僕に突きつけてきた。僕は面食らっておずおずとそれを受け取った。
「是非『オカルト研究会』に入部してくださいね。非公認の部活なんで、兼部でも大丈夫ですよ。」
非公認の部活と堂々と公言していいのだろうか?
僕の疑問など気にしていない彼女は僕がビラを受け取ると、他の生徒に声掛けを始めた。
「『世界の果て』ねぇ……」
僕はその言葉をくりかえし呟いてみる。『世界の果て』、『世界の果て』……。一体どういう意味でこの言葉を言っているのだろうか? そもそも、この丸い地球に果てなんてあるのだろうか?
頭では胡散臭いとわかっているのに、どうしても『世界の果て』という言葉が頭から離れない。『世界の果て』、とてもいい響きだ。
***
授業が終わり、放課後になっても僕には話をして盛り上がる友人などいなかった。入学して早々とはいえ、周りではチラホラとグループが出来始めている。僕は結局うっすらと孤立し始めているのだ。
すぐに帰宅するのも考えたが、ふと朝半ばむりやり貰ったビラが鞄の中から見えたので取り出してみる。
そのビラは原色でゴテゴテと彩られ、異様な雰囲気を出していた。そして、ビラにはまた大きくあの言葉が書かれていた。
"『世界の果て』へ行きませんか?"
『世界の果て』なんて訳のわからないものを追い求めてる非公認の部活なんてろくなもんじゃないだろう。そう冷静に考える理性とは反対に、感情は『世界の果て』をずっと気にかけていた。
だからだろうか。僕は理性がやめろと言うのを聞かずに思うがままにビラに書いてあったオカルト研究会の部室に向かった。
非公認だからか、オカルト研究会の部室の扉には看板なんてものはなく、外から見たところ単なる半分倉庫のような空き教室に見える。
僕は扉に力を込める。ガラガラと音を立てて、扉が動いた。扉を開くと、そこはガランとしており物が少なかった。数少ないそこにあったものは一組の机と椅子だった。一組の机と椅子が部屋の中央に置かれていたのだ。この机と椅子は、学校で日頃僕が使っているものと同じものだ。見慣れているはずなのにこの部屋にあるといつのもそれとはどこか違って見えた。
そして、その椅子には今朝、僕に『世界の果て』を教えた女性が座っていた。
「入部希望の人?」
椅子に座ったまま、女性は僕の方に視線を投げかける。
「は、はい……」
僕は彼女と視線を合わさないようにして答える。
「恥ずかしがらないでよ」
彼女はそう言うと、僕の近くに寄ってきて僕の手を握った。驚いた僕は彼女の顔をハッと見る。彼女は笑顔だった。
「やーっと、私の顔を見てくれた!」
彼女ははつらつとした笑顔を僕に向けている。その姿はとても可愛らしかった。女性の笑顔は素敵であるというのは本当のようだ。
僕は彼女の顔をじっと見つめる。彼女は明るそうな顔立ちでショートボブの髪型がとても似合う、活動的な部活に入っていそうな見た目をしている。何故こんなきな臭いオカルト部なんかを非公認でやっているのか、謎だった。
「君………。ところで名前、何?」
「あ、あ、あの……その……し、北星……拓馬です!」
彼女のことをずっと見つめていたところにいきなり声をかけられて、見つめてたことが悟られないようにスマートに答えるつもりが、返って狼狽えてしまった。
「そんな怯えなくていいのよ! どうせ人なんてもう少しで死んじゃうんだから」
「えっ?」
思いもしない言葉が次に続き、僕は挙動が固まる。
"どうせ人なんてもう少しで死んじゃうんだから"
一体何を言っているんだ、この女性は……。
「あ、ごめんごめん。まだ何も知らなかったのね。いいわ。今から説明してあげる。」
女性はさっきまでの明るいトーンに戻る。
「今から説明するね。えーっと、私は2年生の南十字恋歌っていいます。よろしくね」
南十字先輩はそう言うと部室に一つしかない椅子に腰を下ろした。
「で? 話のつづきだけど……この世界はあと少しで終焉を迎えてしまうの」
「終焉って……そんなゲームじゃないんだから」
南十字先輩は至って真面目に話しているが、話の内容はファンタジーフィクションかのようだ。現実味がなさすぎる。
「本当よ。世界の因果律がもう少しで収束してしまうの。そうすればこの世界は収束に巻き込まれて無に帰ってしまうわ」
「はぁ……」
正直なところ、一体何を言っているのかチンプンカンプンだ。どっかのゲームに影響を受けすぎているのか? と思わざるを得ない。
「だから、『世界の果て』に行かなければならないの」
ここでも出てきた『世界の果て』という言葉に僕は即座に反応した。僕をここに導いた『世界の果て』という言葉。その言葉に僕は甘美な期待をしているのだ。
「『世界の果て』に行けるんですか?」
僕から質問が来たことに南十字先輩は嬉しそうにしている。そして笑顔でこう答えた。
「ええ! ただ簡単ではないけどね……。この部活は迫りくる世界の因果律の収束から逃れるために『世界の果て』へ行くことが目的なのだから」
南十字先輩はそう言うとニコリと笑った。
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