架空ファンタズム
兎パンダ
はじまり
0幕前
「ねえ、ファンタズムってなんなのかわかる?」
「なにその質問。」
「だってさ〜、あんまりよくわかんないじゃん。『みんなが思うものが正しいんだ!』って言われてもね……。」
「うーん、そうはいっても説明しづらいなあ。ファンタズムっていうのはね、これが自分だ!っていえるようなものを持ち寄ってあたらしい世界を作るの。そうして完成した世界は……、」
1宇宙船
クソみたいな世界だった。俺じゃない奴にとっては最高の天国だったかもしれないが俺には地獄にふさわしい星、それは揺るぎない事実。延々と地べたを這いずり回る絶望が体を支配し、いつしか俺はこの惑星を相手に中指を立てるような小狡くてか弱い反逆者になってしまっていた。
宇宙船はもうすでに元いた惑星を飛び立ち、今、俺はただ一人。ついに逃げおおせたのだ。後悔はない、ないと思わないと自分を許せない。怒りと爽快感と今までの絶望を残り香が混ざり、俺の体を震わせている。どこか遠くの星を見つけたら自動で止まってくれるはずだが、この広大な空ではもはやどこに行くとも決まっていないような、ただ果てを目指す旅。内部のエネルギーが尽きるまで。この震えが止まるまで。
死ににいくようなもんだ。でも、それでよかったんだ。あんな場所で生きていくのならば、息苦しさを感じ続けるくらいならば、俺は。
ポケットからインクをぶちまけたようなピンク色の錠剤を取り出す。ラムネ菓子にしてはあまりにも暴力的なこいつは、イカれちまった大人になるための成長促進剤だ。
「Laugh Sensuous Dream」
これが脳内の電気信号がいかれたことによって感じるものであることなんて誰もがわかっていた。わかっていても、俺はこれを手放せなかった。
これがあればただ虚無に過ごすのもいくばか楽になるだろう。手には2粒、深呼吸、体を楽にして、食い合わせが悪くならないように。これが俺の最後の光景になるかもしれない、そんな時でも説明書のように淡々とやり方を確認していく行為は我ながら滑稽に思えた。そして俺は結局、世界からなにも変わらないまま錠剤を流し込む。
願わくば、脳内で作り出す快楽物質が途切れないうちに、俺の世界が終わってくれることを。ただ願うばかりだ。
2LSD
光、眩しい、歪んだ景色、耳をつんざく不協和音、やめてくれ、俺は、俺は、なににもなれない、どこにもいけない、そんな目で見ないでくれ、俺を見捨てないでくれ、天地がひっくり返る、天が俺に向かって落ちてくる、どこまでも、どこまでも、暗闇が俺を抱き抱える、手を伸ばす、光は遥か上空へ、ブラックホールになる星のように一点に集まり、体が冷えていく浮遊感、伸ばした手が星に重なって、光が消える、星が消える、そして、俺は、夢から覚める。
3ようこそ
夢遊落下、その衝撃によって俺は夢から現実に引き戻された。最悪だ、人生の最後にバットトリップを決めてしまうなんて。なにがLaughだ、こんなのちっとも笑えない。俺はいまだに夢を引きずったまま立ち上がることができなくなっていた。船の硬い床で寝てしまったのが間違いだった、せめてこんな芝生のような場所であったらもう少し良い夢が見られただろうに。……は? 芝生? なんでこんなところに芝生が、いや、ここだけじゃない。俺は今、草原の上にいる。と、ここまで考えてやっと俺は自分が今置かれている状況のおかしさを認識し始めた。
わざとらしいような青い空、太陽の光が草原を照らし、草の上で蝶が飛び回っている。
天国のようだ、と思った。が、俺が天国に行けるようなやつか?と思った同時にいまだに俺はこんなステレオタイプな天国を信じ切っていたのかと自分の中の純粋さに失笑してしまった。
とにかくも早くこんなカマトトぶった夢からは覚めなければいけない。そう思った時、目線の先に一人の人影が見えた。
そいつは草原を飛び回る蝶々らとともに遊びまわっているようにも、飛び回っているようにも思え、またもや俺の場違いさが浮き出てしまった。そいつもあまりにも浮いていた俺を見つけたようで、一直線に俺のもとに駆け寄ってくる。そうしたら俺もそいつのことが嫌でも目に入る。そいつは、10歳くらいのクソガキ、いや、少女。そして頭には狐みたいな大きな耳が無邪気にもピコピコと揺れていた。
4知らない人
頭に耳をつけた少女が言う。
「あなた、もしかして初めてきた人!?」
始めて来たもなにもない。こんなところに望んできたと思ってんのか? 俺は少しため息をつく。
「ちょっと! 人が話している時にため息なんてマナーがなってないのね! まあ私はここにきて長いから多めに見てあげる。初心者には優しくしないとね〜。」
この格好、何かのコスプレなのか? いろんなことをぶつくさと言っているが、ぱっと見は年相応の子供のように見える。それもとんでも無く生意気な。このまま延々と話しそうだ、俺はこいつの話を遮る。
「おい、おいクソガキ」
「え、……そのクソガキって誰のこと?」
「お前のことだよ、クソガキ」
「ガキなんて失礼ね! 私はもう立派なレディだって言うのに!」
「突っ込むとこそこかよ」
こいつのあまりの能天気さに笑ってしまった。まるで争いとはなにも関係がない場所から生まれてきたような。俺から見たら浮世離れしすぎていて不気味なやつのように思えた。
「その変な格好とか、聞きてえことは山ほどあるが……。お前、ここがどこだかわかるか?」
「……それってもしかして、私に仕事を頼んでる?」
「は? ……とにかく、ここがどこだか教えろ、そして俺をここから出せ。」
「それが私の仕事ってこと?」
「ああそうだよ! それがお前の仕事だ、だからさっさとここがどこだかーー」
「え〜どうしよっかな〜。さっき私のことクソガキって言ったもんね~。」
どこまでも神経を逆撫でするやつだ。こうなったら力尽くでも言うことを聞かせるしかない。そう思って俺は腰に刺していた護身用ナイフを取り出そうとした。
……ない、ナイフがなくなっている。急いで足元を確認するがどこにも落ちていない。まるで危険物は持ち込み不可といったように、俺の持っていた武器は消えて無くなってしまっていた。
「……はは、まさか本当に消えて無くなっちまったわけでもあるまいし」
「え? なに言ってるの。設定したもの以外持ち込めるわけないでしょ?」
「設定したもの……? お前こそなに言ってんだ、俺は確かにナイフを持っていたはずなのに」
「そんなこともわかんないって、初心者とかそんな次元じゃないわね。」
こいつの言っていることが理解できない。いや、こいつは変な格好したただのガキだ。まともに取り合う必要なんてないじゃないか。
「お前じゃ話にならない。親はどこだ?」
「親?」
「ああそうだ、お前みたいなやつでも親はいるだろ。そいつに話を聞く。」
「親なんていないわよ。」
「ああそうかい。じゃ、他の大人でもいい。お前みたいなコスプレ女よりかはまともだろうからな。」
「大人って、それなら私がいるじゃない!」
「お前はどう見たってガキじゃねえか! なんだ、また私はレディですって言うのか!? 頭に変な耳つけやがって、お前みたいなのがまともなわけねえだろ!」
「……あなたって、本当にこの世界のこと何にもわかっていないのね。」
「はあ? 今その話と何の関係がーー」
話が噛み合わず苛立つ俺の言葉を遮って少女は語り出す。
「私、こう見えても35歳のおっさん。……って言ったら信じる?」
架空ファンタズム 兎パンダ @papapanda031
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