第3話 明晰夢
瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間だった。
ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
「ジョーン!」
ジョーンは瑠璃にお辞儀をすると、手招きをする。
「えっ? どこかへ行くの?」
ジョーンは瑠璃の手を引き、走り出した。
気付くとそこはサーカス会場だった。
「サーカス?」
ジョーンは、会場を指差し、首をかしげる。
瑠璃はサーカスに行ったことがこれまでなかった。
「行ったことない」
瑠璃は首を横に振った。
いつの間にか、瑠璃は会場の座席に座っていた。ジョーンの姿はそこになかった。
そして、サーカスが始まる。
瑠璃は初めて見る光景に驚きの連続だった。
すると、玉乗りをしながらジョーンが登場する。
「ジョーン! そっか、ジョーンはサーカスのピエロってことだよね」
火の輪が用意され、メラメラと燃え始める。
ジョーンは、玉から降りると客席に丁寧にお辞儀をした。
そして、恐れることなく、今度は火の輪へと近づいて行く。
「えっ?」
ジョーンは、指で火に触れようとして熱がる。
「あれって、ライオンとかがくぐるやつじゃ……」
突然助走をつけ、火に向かってジョーンは走り始めた。
「ジョーン!」
× × ×
目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。
隣では宮内が眠っていた。
夜はまだ、長いようだ。
どうして、どうしてこんなにジョーンが夢に出て来るの!?
あのピエロは……
花屋『DESTINY』で仕事をしながら瑠璃はずっと考えていた。
火事の夢を見なくなったとはいえ、ピエロのジョーンが夢に出て来ることは、それはそれで気になった。
“夢”が示すものは何か?
“ピエロの夢”が示すものを調べることにした。
スマートフォンで検索すると、夢占いのページに辿り着いた。
『心の奥にある孤独を表しています』とある。
孤独……
わたしはもう、孤独ではなくなったはずなのに……
× × ×
瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間が広がっていた。
ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
「ジョーン……」
ジョーンは嬉しそうに小刻みに頷く。
「体は大丈夫なの? やけどっ……」
瑠璃は言葉を詰まらせた。
ジョーンは平気な様子で、瑠璃にクルっと回転して見せる。
「あなたは誰なの?」
ジョーンは胸に縫い付けられた『ジョーン』と書かれた布切れをアピールする。
「そういうことじゃなくて……。どうして、どうしてわたしの夢の中に現れるの? どこかで会ったことある?」
ジョーンは首をかしげる。
そして、突然瑠璃の手を引っ張り走り出す。
「え? ちょっと!」
気付くとそこは街中になっていた。
通りにはオシャレな洋服店が立ち並ぶ。
ジョーンは手招きで瑠璃を洋服店に誘導する。
瑠璃は服を手に取った。
「わー素敵!」
ジョーンはご機嫌な様子だった。
「あれ? みんな値札がない」
瑠璃の言葉に、ジョーンが笑いをこらえている。
ジョーンは指を鳴らす。
すると、瑠璃の服が一瞬で変わった。
それは、先ほどまで瑠璃が手に持っていたはずの服だった。
「わっ! すごい! ジョーンって魔法が使えるの?」
ジョーンは声を出すこともなく、床でバタバタ笑い転げている。
「ジョーン?」
瑠璃はジョーンの様子に首をかしげた。
ジョーンは手招きで試着室へ瑠璃を誘導する。
「え? 何?」
試着室のカーテンを開くと、ジョーンは瑠璃の背中を突然押した。
「うわっ!」
瑠璃は、試着室の中へ転ぶように入り、反対側からカーテンを押して転ぶように出てきた。
すると、瑠璃はウエディングドレス姿に変わっていた。
「あれ?」
ジョーンは、声を出すこともなく笑い転げている。
「ウエディングドレス?」
ジョーンは、手を叩いて喜んでいた。
「ジョーンもお祝いしてくれるんだ」
瑠璃は嬉しくなって、微笑んだ。
ジョーンはカメラを取り出し瑠璃に向ける。
瑠璃のウエディングドレス姿にシャッターを押した。
× × ×
目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。
着ている服を確認したが、寝巻きを着ていた。
そして、隣では宮内が眠っていた。
夜はまだ、長いようだ。
「そっか……夢は持って来れないもんね」
瑠璃は一人微笑んだ。
朝、支度を済ませた宮内を瑠璃は見送る。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
瑠璃は、手を振り宮内を見送った。
ピエロのジョーンは、毎晩わたしの夢の中に現れた。
そして、わたしの食べたいもの、行きたいとこ、どんなことでも叶えてくれた。
ジョーンに豪華な食事を出され、沢山食べた。
ジョーンは手を叩いて喜んでくれた。
水族館に行くと、イルカショーがやっていた。
乱入したジョーンが、イルカ以上の芸を見せて楽しませてくれた。
瑠璃は、花屋『DESTINY』で、明美に夢の話を語っていた。
「それって明晰夢ってやつじゃない?」
「メイセキム?」
「そう、自分自身が夢だと自覚しながら見ている夢の事。明晰夢が見れるようになると、夢を思いのままに操れるようになるんだってさ!」
「へぇー」
「ねぇ、空とか飛べるんじゃない? 今度飛んできてよ!」
「えっ? そんなこと言われても」
「だって毎晩現れるんでしょ?」
瑠璃は頷いた。
「良いピエロだね」
「えっ?」
「瑠璃ちゃん、前より嬉しそうだから」
明美さんの言葉に、自分でも驚いた。
いつの間にか、眠ると必ず火事の夢を見るという、あの恐怖の夜からわたしは解放されていたかもしれない。
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