第4話 孤独
瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間。
今日もジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
「ジョーン!」
ジョーンはいつもと変わらず、嬉しそうだった。
「わたしの職場の人が、ジョーンのこと良いピエロだねって褒めてたよ」
ジョーンは首をかしげる。
「ジョーン、空って飛べる?」
ジョーンは、瑠璃の手を握る。
すると、ジョーンと瑠璃の体は宙に浮いた。
「わっ! すごい!」
瑠璃とジョーンは、空を飛びながら街を見渡す。
「わー! 地図みたい!」
ジョーンは何かを指差した。
指差す方向には、宮内と暮らす家がある。
「あっ、わたしの家だ!」
しばらく飛んでいると、とある施設が見えてくる。
「あれは、わたしが育った施設……」
見晴らしのいい屋上に瑠璃とジョーンは降り立った。
屋上からは、『希望の子守唄』という看板が見える。
「あそこが、わたしのふるさとなの」
ジョーンは静かに瑠璃を見つめていた。
「いつか、お父さんとお母さんが、来てくれるって信じてたんだ……」
ジョーンは首をかしげる。
「ねぇ、お父さんとお母さんには会える?」
ジョーンは驚いた様子だった。
「これは夢の中なんだよね。だったら、会えるよね?」
ジョーンは悲しい顔で瑠璃を見つめる。
「ねぇ、わたしのお父さんとお母さんに会わせて!」
頭を抱え、ジョーンは困り果て、その場にしゃがみ込んでしまった。
「どうして? だってこれは夢なんだよ? わたしの見ている夢なんだよ?」
ジョーンは両耳をふさいだ。
「ジョーン……」
× × ×
目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。
そして、わたしは泣いている。
夜はまだ、長いようだ。
わたしの腕には、“やけど”の跡が残っている。
今も、あの日の火事を忘れたくないというように。
花屋『DESTINY』で瑠璃は花の手入れをしていた。
明美が瑠璃に愚痴をこぼした。
「あーあ。絶対浮気されてるー」
「えっ?」
「幸せな瑠璃ちゃんにこんな話ごめんね」
「いや……」
「他の人にするならするで、付き合う前に別れろって話。わたしをキープしつつ他の女にもって、男ってずるいと思わない?」
「彼氏さんには、聞いたんですか?」
明美は首を横に振る。
「怖くて聞けないよ。もうわたしも30だっていうのに……。結局、惚れた方の負けってことね」
「……」
「そうだ、瑠璃ちゃんは、空飛べたの?」
「えっ……あぁ、はい」
「そっか。わたしも明晰夢でも見て、カッコイイ彼氏と付き合いたいわ」
あれが明晰夢なら、思い通りになるのではないだろうか。
どうして……
良いピエロなら叶えてくれたっていいのに。
夢なら自由なはずなのに。
× × ×
瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間。
ジョーンが膝を抱えてしょんぼりしている。
瑠璃はジョーンの姿を見つけた。
「ジョーン……」
瑠璃はジョーンのもとへ駆け寄った。
「ごめんね、ジョーン。困らせちゃったよね?」
ジョーンは、困り顔で瑠璃を見つめた。
「夢ってさ、現実世界じゃ、ないじゃない? だから、お父さんやお母さんに会えるのかなって思ったの」
ジョーンは真下を『ここ』と言うように指差した。
「ジョーンにとっては、ここが生きている世界ってこと?」
ジョーンは小刻みに頷く。
「そっか。……ジョーンは孤独? ひとりぼっちなの?」
ジョーンは瑠璃を指差す。
「瑠璃がいる?」
ジョーンは嬉しそうに瑠璃の周りをスキップした。
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