完結記念! 「愛読感謝」エキストラエピソード
番外編1:結菜視点SS「セフレ、ドラッグストアでゴムを買う」
■本編「4-1 箱根ドライブ旅行で大騒ぎ」(https://kakuyomu.jp/works/16816700428652777862/episodes/16816700428942674573)の数日前。結菜視点のショートストーリーです。
「はあー。ドキドキする……」
目の前にあるド派手な看板を、あたしは見上げた。
――ドラッグストア ココカラH――
「こ、これもお兄とあたしのためだもんね。勝負どころだわ」
自分に言い聞かせた。
あたしが深夜、お兄の部屋に押しかけて半月。ゴールデンウイークは、お兄から箱根ドライブに誘われてる。もちろん泊まりがけで……。
「てことはやっぱり、アレだよね」
セフレとの初めての旅行なんだから、やっぱりするよね、当然。
でもお兄、あたしをセフレとして見てくれてるかは微妙。あたし恥ずかしくてもお兄に体見せて抱き着いたりしてるのに、まだあれこれしてくれないし……。
けどそれって、「用意」がないからもあるんじゃないかな。避妊具があれば安心して、そういう雰囲気になるかもしれないし……。初めてのお泊まり旅行は、絶対チャンスだよ。
「だからあたしが買うしかないよねっ」
いつまでもここに立ってても仕方ない。店に踏み込んだ。あたしとお兄の未来、この一戦にありっ。……てね。
「えーと」
どのコーナーだろ。男性用化粧品のとこ……じゃないよね。サブリも関係ないし、風邪薬の棚にあるわきゃないし……。
キョロキョロ見回してると、店員のお姉さんが近づいてきた。
「なにかお探しですか」
にっこり。
「いえ別に……」
塩対応で、すすっと逃げた。お姉さんごめんね。コンドーム下さいとか、言えるわけないじゃん。
生理用品コーナーかな。男の人のアレ、生理みたいなもんだって、友達に聞いたし。出さないとなんか溜まるんでしょ。……てかお兄、どうやって「生理」をこなしてるんだろ。自分で解消するとか聞いたことあるけど、そんな気配ないし……。もしかしてあたしの裸とか想像して、あたしが寝た後でベッドでとか……でへへ。
「ダメだダメだ」
頭を振って、妄想を吹き飛ばした。なにしに来たんだろ、あたし。
生理用品のあたりをうろついていると、近くにそれっぽい箱が並んでいる場所を見つけた。
「はあ、これかあ……」
でもなにこれ。いっぱいあるじゃん、種類。どうやって選んだらいいんだろ。安いの買えばいいのかな。それとも逆に高い奴のがいいのかも。高い方が効果が高いとか……。
とりあえず、手近な箱を手に取った。説明読めばわかるよね、きっと。なになに、えーと……。
――極薄〇・〇三ミリの密着感! これでもうふたりはラブラブ――
うわー引くわあ……。これ買うの、恥ずかしすぎる。
「次だ、次っ」
――〇・〇四ミリスタンダード――
シンプルで好感。これでいいかな。……でも銀の箱がかわいくない。こっちのピンクの箱のがかわいいよね。
――〇・〇五ミリの安心感。安全第一――
うーん……なんだろ。どれもこれも数字が書いてある。さっきのが「極薄〇・〇三ミリ」だったから、これって薄さのことだよね。全部書いてあるってことは、それが「売り」ってことだろうし……。
いろいろ箱を見比べて、なんとなくわかった。はっきりとは書いてないけど、形容詞とかから想像するに、薄いほうが気持ちいいんだよね、多分。
「なら極薄〇・〇三ミリで決定か……」
お兄だって、気持ちいいほうが喜んでくれるよね、絶対。……でもさっきのえげつない奴は恥ずかしくて嫌だから、別のにしよ。こんなコーナーであれこれ悩んでるの、人に見られたくないし。早く決めないと。
えーと……、〇・〇三ミリのだけ選んでぇ……。このかわいい箱のでいいか。
――サイズL――
「えっ!?」
サイズ? サイズってなに。他の奴もいろいろ見たら「余裕の大きめ(Lってことだよね)」とか「ジャストフィットの安心キツキツ成型(これはSかな)」とか、いろいろ種類あるじゃん。これってもしかしたら、男の人の大きさのこと?
お兄のアレのサイズ……。
「無理」
脳がショートしたあたしは、店を飛び出した。
寝てる間に測るか……。いや起きるよね絶対。睡眠薬かクロロフォルムで強制的に眠らせて、その間に……。はあ薬入手に処方箋いるに決まってる。これもダメか。包丁で脅して無理やり……。その状況だと縮こまりそう。
テレビのサスペンス劇場的な方法をあれこれ考えたけど、どうにもならない。
「もうこれ、お兄に選んでもらうしかないじゃん」
ねえお兄、駅前のドラッグストアでゴム買ってきて。超薄〇・〇三ミリで、お兄のサイズの奴――。
「死ぬ。言えるわけない。恥」
それに絶対お兄に説教されるわ、こんなん。
……てかそうだ。ミコっちこと
「ヘルプヘルプ」
「なに、どした」
良かった。ミコっち、オンラインだわ。
「ゴム買うんだけど、サイズがわからん」
しばらく返事がなかった。
「😆」
「笑ってる場合じゃないよ」
「困ってる」
「教えて」
「💑」
「ふざけんのやめて」
「それどころじゃないんだってば」
「💢」
「いとこの人のだろ」
「見たことないん」
「ある」
「😍」
でもあれ、ベッドの上でお兄がなぜか全裸でお酒飲んでたのを、買い物から帰ったときにちらっと見ただけだし。……普通にソーセージみたいな感じ。
そう説明した。
「結菜、普段じゃなくて」
「大きくなったときのサイズだよ」
「握ってみたら?」
「どのくらいはみ出すかで、後で計算すればいい」
「それができれば苦労しないよっ」
そんなのしたことないし。そもそも大きくなったの見たことすらないもん。
「まだしてないんか」
「🤔」
「ほっといて」
「🤐」
「仮に見たとしても」
「MかLか」
「どうやって判断する」
「他の人の知らないし」
「🔰」
「あたしもだけど」
「😢」
「Mにしときな」
「無難」
「やっぱそれだよね」
「ミコっち神」
「😘」
「👍」
店内に秒で戻ったあたしは、焦りながらもゆっくり歩いて売り場に向かった。
「あれ……」
さっきまであった、かわいいパッケージの奴、もう無くなってるじゃん。誰さ、あたしの「薄々〇・〇三ミリ」買ったの。
「仕方ない……」
最初に見た「極薄〇・〇三ミリの密着感! これでもうふたりはラブラブ」って奴を、あたしは取り上げた。これ普通サイズってわざわざ書いてあるから、安心だよ。ちょっとキャッチコピーが恥づいけど、別にいいよね。パッケージでエッチするわけじゃないし。
コピーを隠すように持ち歩いてレジへ。ちょうどお姉さんがレジ入ってて買いやすいし。男の人だったらあたし、死ぬ。……って、なんでこんなときに限って並んでるのよ。他の人に箱、見られちゃうじゃん。
「ふう……疲れた」
店を出ると、どっと疲れが出た。フルマラソン走ったくらいの気分。でもあれね、紙袋に包んでくれるんだ。生理用品とおんなじ感じで。考えたら当たり前かもしれないけど。
「とにかくっ!」
茶色い紙袋を、あたしは握り締めた。
「これで準備万端」
一ダース入ってるみたいだから、一泊二日なら多分足りるよね。それともひと晩で十回とかするのかな。それだと朝にするとき足りなくなっちゃうけど……。
まあいいや。なんとかなるっしょ。足りなくなったら朝、また買いに行けばいいんだし。
「お兄、楽しいゴールデンウイークにしようねっ」
あたしの声は、賑やかな商店街の喧騒に吸い込まれた。
もう夕方で、街もオレンジ色。角の肉屋さんから、コロッケを揚げる、いい匂いが漂ってるわ。……疲れたから今日は、元気の出るおかず、なんか一品作ろうっと。豚バラとニンニクの茎炒めかなんか。
お兄も喜んでくれるよね。精力つくし……。
てか精力つきまくって旅行どころか、もしかして今晩これ、使うことになるかも。
結菜、愛してる……とか。ダメだよお兄それ言っちゃ、あたし、恋人じゃなくてセフレだもん。好きなんだ、ほら俺のLサイズ見てみるか。いやっ恥ずかしいし、Lだと買い直さないとココカラHで。いいから触ってみろよ。あっ、あたしの手をそんな……そうかあ、これがLサイズなのかあふむふむ……勉強になるし、ミコっちに大きさ教えてあげようっと――。
「キャーッ恥づい。恥ずかしすぎるわ、これ」
茶色い紙袋ぶんぶん振り回すあたしを、電線に止まったカラスが呆れたように首を捻って見てたわ。ほっとけっての。
■ご愛読感謝のおまけエピソード「結菜、ゴムを買いに行く」編は、いかがだったでしょうか。結菜の大活躍w、楽しんで頂けましたか。
結菜、妄想暴走してるぞお前。それにひと晩十回はないから安心しとけ。
今回のこの話を伏線にすべく、旭川ミコっち登場話「10-4 結菜の友達とダブルデート」
(https://kakuyomu.jp/works/16816700428652777862/episodes/16816927859587614641)を少し修正しました。最後の直前に本当に1行くらいの追加ですが、気づいた方は笑って頂けるかなと思います。
★次話として、結菜視点のショートストーリーを続けます。海の日の伊豆お泊まり旅行のとき、よせばいいのにまた結菜が悪だくみする奴。乞うご期待w
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