15-2 真心

 結菜の告白は続いた。


「それでいよいよお父さんもお母さんもいなくなって、家が完全に空になったら、どうしていいかわからなくなって……。先生に相談して休学だけさせてもらった。それでも部屋で独りで。誰も頼れないし、すごく独りが怖くなって……。そうしたら、お兄の顔が、頭に浮かんだ」

「それで俺を頼ってきたのか」

「そう」


 こっくりと、うなだれるように首を振る。


「でもあたし、去年、お兄に酷いことした。自分から甘えたのに、お兄が応えてくれたらあっさり裏切って傷つけて。そんなことしたのに、今さら従姉妹いとこだからって、押しかけていいわけはない。もちろん、彼女さんなんかにはなれない。一度、断っちゃったから。でも……でもセフレなら……。心が繋がらない、体だけの関係なら……もしかたらお兄も受け入れてくれるかも……。ただのセフレなら……」


 結菜の瞳から、涙がひと粒こぼれた。


「それでか……」


 黙ったまま、結菜は頷いた。


 それが、悩んで悩んで、悩み抜いて思い付いた最後の手段だったのか。苦しかったんだろうな、結菜。


「ほら。涙拭け」


 タオルを投げてやった。


「……」


 黙ったまま、結菜はタオルに顔を埋めている。


「で」

「……」


 黙っている。


「今はどうなんだ」

「……今?」


 タオルから顔を出した。


「今は俺のこと、どう思ってるんだ」

「決まってるでしょ」


 もうひと粒、涙がこぼれた。


「好きだよ。好きで好きで、大好きだよ。洋介兄のこと、昔よりずっと好きだからねっ。一緒に暮らして同じところで働いて、お兄があたしのことを大事にしてくれてるの、わかったから」

「そうか……」


 ようやくわかった。結菜の全ての謎が。心の「本当」が。気持ちの「真実」が。俺も、結菜に「本当」を告げなくてはならない。それがフェアってもんだろう。


「結菜」

「なに……」

「俺を見ろ」

「……うん」


 タオルを膝の上でぎゅっと掴むと、見つめてきた。


「俺も結菜を好きだ」


 目を見開いて、結菜が息を飲んだ。


「去年のあのときの、浮わついた気持ちじゃない。今の好きだ。結菜のこと、あれもこれもわかった上での、本気の好きだ」

「お兄……」


 結菜の瞳から、涙が溢れた。


「馬鹿だな。泣くなよ」

「な……泣いていいんだもん。好きな人ができたら……泣いていいんだもん」


 ふたりを隔てるテーブルを飛び越え、俺に身を投げてきた。


「お兄……大好き」


 腕を首に回し、必死でしがみついてくる。


「結菜……痛いよ」

「ご、ごめ……」


 腕を緩めた。


「こっちにおいで」

「うん……」


 肩を抱いてやった。そのまま顔を近づける。


「お……兄……。んっ」


 唇を塞ぐ。何度か優しくキスを与えていると、結菜の唇が開いた。舌を侵入させたが、どうしていいかわからないのか、結菜は、ただじっとしている。


 唇を離すと、恥ずかしそうにうつむいた。


「お兄……キスがエッチだよ」

「エッチっていうのは、こういうことだよ」

「あっ」


 結菜の胸に手を置く。一瞬身を固くしたが、特に嫌がってはいない。俺はゆっくり胸を撫で始めた。初めは優しく、水晶玉を撫でるように。徐々に指に力を入れ、揉むように。


「じっとしてろよ」


 セーターの下から手を入れ、シャツもめくって中に侵入する。ブラの上から、ゆっくり揉んでみた。


 風呂上がりというのに、わざわざ新しい下着まで着けてたのか。よっぽど着飾りたかったんだな。クリスマスだし、もしかしたら俺にきれいな姿を見てもらいたくて……。


「お兄……」


 吸い付くような感触。赤ん坊のように、肌がすべすべだ。少し汗ばんでいる。言われたとおり、結菜は抵抗もしない。


「結菜」


 裾に手を掛け、セーターとシャツを脱がせた。背中に手を回し、ホックを外してブラも取り去る。


「いやっ」


 両手で胸を隠した。


「なんだか……お兄、怖い。それに恥ずかしい。部屋も明るいのに」

「いっつも見せつけようとするくせに」

「あれとこれとは別。よくわからないけど、全部違うもん」

「手をどけて」

「……いや」

「どけて」

「……」


 何も言わず、結菜はそっと手を離した。きれいな胸が丸出しになる。あれほど俺のものにしたかった胸が、目の前にある。


「結菜……」


 胸の中央を指で挟む。周囲よりとりわけ柔らかで、繊細な肌だ。


 なんと言っても、赤ちゃんの頃から知っていた従姉妹だ。親戚集まっての旅行やイベントで、次第に成長して子供から女に変わっていくのを、ずっと見守ってきた。


 その結菜の胸を刺激しキスを与え、こうして今、俺のものにしようとしている。子供の結菜と大人の結菜を、一緒に抱こうとしているかのようだ。


 奇妙な罪悪感と倒錯した興奮が、交互に俺の心を押した。これが、いとこ同士の恋愛感覚なんだろう。


 結菜への気持ちが心から溢れ、ふたりベッドに倒れ込んだ。

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