14-3 ほっこりランチ

「疲れたー」


 研究室に戻ると、菜々美ちゃんが机に突っ伏した。


「緊張したー」

「だよなあ……」


 体を伸ばして、岸田が首を鳴らした。


「こんなプレゼン、もう二度とやりたくないわ。……木戸、この貸しはでかいぞ」

「悪い……」

「冗談だ、気にすんなって」


 背中を叩かれた。


「お前と結菜ちゃんは悪くない。俺が知ってるからな」

「ごめんなさい」


 結菜が頭を下げた。


「だから気にしなくていいんだよ、結菜ちゃん」

「にしても岸田さん、ふたりのこと知ってたなんて、意地悪じゃないですか」


 思い付いたかのように、菜々美ちゃんが顔を起こした。


「ひとりでニヤニヤ楽しんでたんでしょ。なーんも知らないあたしや主任のこと、馬鹿にして」

「それはないない。……だから今度、ご飯行こ」

「……考えときます」


 つんと横を向いた。


「でも今頃、会議室ではどれが優勝か審議中かあ……」


 菜々美ちゃんは首を傾げた。


「あたしたち、勝てますかねえ」

「プレゼンの感触は割と良かったけどね」


 ひと仕事終えて、主任もほっとした表情だ。


「審査員みんな試食中、自分ならこの組み合わせがいいとか、結構盛り上がってましたよね」

「よせばいいのに南インドの激辛添付、五袋分くらい突っ込んでむせてた人もいたけどな」

「あれ、笑いこらえるの大変でした、あたし」


 思い出して、菜々美ちゃんがくすくす笑っている。


「でも勝負は時の運だし。……それに正直、ハムやソーセージ、強いから」

「勝てるかは微妙ですよねえ……」

「そうそう」

「皆さん、ごめんなさいっ」


 突然、結菜が頭を下げた。


「あたしがちゃんと話さなかったから」

「いいのいいの。もういいから」


 手を振ると、主任はお茶を口に運んだ。


「事情はだいたいわかったからね。ご両親からは私が詳細を聞くから。……木戸くん、頼むわよ」

「わかってます。父親とリモートで顔出しウェブ会議できるよう、段取り組みます」

「みんな、お腹減りません?」


 菜々美ちゃんが立ち上がった。


「そうねえ……」

「結局昼飯食ってないしなあ」

「余らせてもしょうがないし、サンプル食べちゃいましょうよ。試食で残った大鍋カレー、まだいっぱいあるし。パックライスもね」

「いいわね。乗った」

「なら俺、パックライス、チンするわ」

「あたし、盛り付けます」


 結菜が手を上げた。


「なら結菜ちゃんと木戸が給食当番な。木戸が飯、結菜ちゃんはカレーよそってくれ」


 岸田が俺にパックライスを投げてよこした。


「それで今回の件、チャラってことで」


 笑っている。みんなも頷いた。俺と結菜がかけた迷惑、給食当番でチャラにしてくれるのか、岸田……。


「……岸田、ありがとう。みんなも」

「はいはい。とにかく食べましょ。もうお腹ぺっこぺこ」

「俺、南インドと北インドの合掛けな。結菜ちゃん、海老は三本頼む。木戸は海老なしでかまわん」


 わいわいやりながらカレーを用意し、作業台を囲んでみんなで「あれがうまい」「いやこれだ」「添付はどうのこうの」とかやった。みんなの心遣いで、結菜もようやくいつもの自分を取り戻したみたいだ。菜々美ちゃんと冗談を言い合って、ぱくぱく食べている。


 そのうちに、誰かが呼びに来た。いよいよ結果発表だと。




●次話は明日お昼12時過ぎに公開です

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