8-3 諭吉女子会アゲイン

「では、諭吉女子会を始めます」


 菜々美ちゃんが宣言すると、個室に歓声が上がった。


 結菜提案の味変シリーズ市場調査のため、また飲み会をセッティングしてもらったんだ。メンバーはもちろんこの間の4人+俺。岸田の奴は日程が合わないとかで不参加。さっき退社前に見たら涙目で草。


 この飲み会来ると諭吉扱いで金むしられるけど、仕方ない。冬コンペには勝ちたいしな。その前に西乗寺チームの部内提案会議を乗り切らないといかんから、諭吉の一枚や二枚、ケチってる場合じゃない(泣)


「早く焼こうよ」


 年上好きファザコン娘の陽菜乃ちゃんは、前掛かり気味だ。


「今ダイエット中だからお腹空いててさ」


 前回は居酒屋だったが、今回は個室鉄板焼。といっても謎帽子を被ったシェフが焼いてくれてシャトーブリアンだの車海老が跳ね回る高級店じゃあない。粉モンだのブラックタイガー、牡蠣やホタテなんかを自分達で焼く。早い話、お好み焼き屋に毛が生えたくらいの店だ。


「乾杯が先でしょ」

「ダイエット中なら、ガン食いは駄目なんじゃないの」

「今日はダイエットリミッター外したから。食うぞーっ」


 皿まで食らう勢いだ。


「じゃあ乾杯ね。音頭は例によって諭吉に頼むから」


 菜々美ちゃんに促された。てか諭吉扱いすっかり定着してて笑うわ。もうなじみすぎてて呼び捨てだし。


「じゃあかんぱーいっ」


 生ビールのジョッキを持ち上げると、馬鹿になりきって大声を上げた。これもう楽しむしかないだろ。


「かんぱーい」

「乾杯」

「……」


 酒に弱い美月ちゃんの烏龍茶以外は、全員生。この娘たち、割と飲むんだよな。女子大生のくせにリーマンかよって感じで生初手からぐいぐい空けるし。ビールは最初のひとくちって、よくわかってるよな。


「あーうまい」

「最高じゃん。真夏のビール」

「菜々美、次頼んで」

「さて……」


 腹ペコ陽菜乃ちゃんが、さっそくお好み焼きとねぎ焼きを鉄板にぶち撒ける。その脇に、男と別れたばかりの莉緒ちゃんが、海老と牡蠣を並べ始めた。


「牡蠣、醤油で焼くとうまいよね」

「ホタテも頼もうか。バター醤油にしてもらって」

「いいなそれ。なまらうまいし」


 いかん。また結菜の口癖が移った。


「ニンニクのアヒージョもらおうよ」


 メニューを睨んでいた菜々美ちゃんが提案してきた。


「鉄板の上に置いて仕上げるんだって」

「いいねニンニク。どうせ当面男と会わないし」


 あはははっと、莉緒ちゃんが大口開けて笑った。てか俺、男扱いされてないな、相変わらず。女子会の「ツマミ」扱い、今回も変わらずか。


 まあいいけどな。気取ってない分、調査で本音話してくれそうだし。


「じゃあアヒージョのオリーブオイルもったいないから、ついでにバケットも頼むね」


 ベルを押して個室に顔を出した店員に、菜々美ちゃんがてきぱきと追加注文した。


             ●


「はあー食ったーっ」


 陽菜乃ちゃんが腹をさすった。そりゃあな。ものすごい勢いでお好み焼とか食いまくってたし。


「陽菜乃あんた、妊娠したみたいになってんじゃん。下っ腹」


 莉緒ちゃんが呆れている。


「三か月くらいだねー」


 珍しく冗談を口にすると、人見知りの美月ちゃんが含み笑いを漏らした。会うの二回目だし、少しは俺に慣れてきたのかな。


「で、どうなの諭吉さん」


 ひととおり食べて全員落ち着いたと判断したのだろう。菜々美ちゃんが振ってきた。


「今日はあたしたちに聞きたいことがあるんでしょ」

「えーなになに」


 陽菜乃ちゃんの瞳が怪しく光った。この娘、妙に色っぽいんだよなー。


「なんかエッチなこと? いやー困るわ」


 困る困る言いながらも、なんか嬉しそうに俺見つめてるし。


「仕事だよ仕事」

「なーんだ。つまんない」


 露骨にがっかりしてるな。なんだこれ。エッチな話に持ち込んだほうが良かったのか、もしかして。


「実は今、新製品のアイデア出しをしててさ」


 俺は説明した。単体でもうまく、混ぜてもいける「味変シリーズ」ってのを考えていると。


「面白いのは面白いわ」


 莉緒ちゃんが唸った。


「ただ、具体的にどんなの出すかじゃん。いくら新規性があっても、おいしくなけりゃ終わりっしょ」


 それはたしかにそうだ。たとえ話題になっても、おいしくなけりゃリピートはない。つまり初速売上が立つだけで、あっという間に失速するだろう。


「冷食ならいいけど、レトルトだと厳しいんじゃないかな」


 陽菜乃ちゃんが割り込んでくる。


「どうして」

「だってたとえばレトルト三品混ぜて味変するとして、三袋開けなきゃならないでしょ。一気に食べるの無理だから、余ったらタッパーとかに移して冷蔵庫行きじゃん。メンドクサっ」


 呼び出した店員に、追加でチューハイとツマミを頼んでいる。


「あたしの付き合ってたおじさまなんか、胃潰瘍がどうのとかで、ちょーっとしか食べられなかったし。それでいてデブなんだから笑うというか」


 別れたからか、結構辛辣だな。


「その意味でファミリー向けならいいけれど。余らないから。でもコンセプトはバズり狙いでコンビニユーザーの若い子ですよね。コンセプトとずれてる気がします」


 美月ちゃんに鋭く指摘された。たしかにだよなー。冷食なら必要な分だけ解凍調理すればいいから、この問題はない。


「たとえばだけど、スイーツとかにしたら。『映え』で若者狙うなら」


 菜々美ちゃんが、斜め上の提案をしてきた。




●急にビューが回り始めたので

予定外ですが緊急公開します

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