7話 嫁たちとハワイ旅行、開田の財力



 俺たちは開田かいだのじいさんのお誕生日会に参加することになった。


 ハワイ島をまるっと貸し切ったらしい。

 どんだけやべえんだよあの人……。


 奈良井の旦那、三郎に車を運転してもらい、やってきたのは海沿いのホテル。


「でっかいですー!」

「……こんな高級ホテルに、みんな泊まるのね」


 ひなと千冬が驚きながら言う。


 三郎がきょとんと首をかしげる。


「え、ここ薮原やぶはら一家専用のホテルだよ?」


「「「は……?」」」


 え、専用……え、どういうこと?


「俺たち以外泊まってないの?」


「そうそう! 一家ごとにホテルまるごと用意してるの! 上松あげまつ一家、岡谷おかや一家、贄川にえかわ一家みたいに」


 ……おかしい。

 何かがオカシイ。


「お兄さん……ぼく、夢の国に来たのかな?」


「いや……現実だ、と思うよたぶん」


 相変わらずはんぱねえな開田総理は。


「荷物置いたら高原様の泊まってるホテルに連れてくんで! 荷ほどきしてきてちょ!」


 俺はリムジンを降りて高級ホテルに入る。


 めっちゃでかいホテルだ。

 入ってすぐ三階吹き抜けのエントランスがある。


「噴水! お兄さん噴水があるいよ!」

「……窓の外にプールまである。海がこんなに近いのに」


 JD組が驚きの声を上げる。


 アンナさんはパシャパシャとスマホで写真を撮っていた。


「現実感ゼロだね、貴樹たかき

「まったくだ……」


 俺たちは受付を済ませる。


 ホテル最上階の部屋を用意してもらった。


「カギは1つだけ?」


 受付嬢に尋ねる。


「ホテル最上階は、ワンフロアまるごと客席になっております。そちらのお部屋一つを用意せよと、高原様からのお達しです」


 なぜ部屋が別れてないのか……?


 なんとなく、察しはできるが、まあ文句はあとにしておこう。


 俺たちはエレベーターに乗って最上階へ。


「「「「で、でかすぎる……」」」」


 エレベーターから降りると、中央にドアがひとつあった。


 中はもう、そりゃあ……言葉に出来ないレベルで広い部屋が広がっていたのである。


「サウナルームあるよ!」

「……温泉まで」

「プール! 部屋にプールまでついてる!」

「バーカウンターまでありますよせんぱーい!」


 きゃっきゃ、と嫁達が喜びの声を上げる。


 千冬はまだこのテンションに着いてけてないらしく、戸惑いを隠せていない。


「あんま深く考えちゃだめだよ」

「……そ、そうね」


 部屋の中を軽く見て回った。


 ベッドルームがいくつかあるんだが……。


 目玉は、キングサイズのベッド。


「わー! すごいよ! これ5人普通に乗っても大丈夫そう!」


 ばうんばうん、と真琴がベッドの上ではねながらいう。


 ふかふかのキングサイズ……いや、キングなんてレベルじゃないサイズのベッドがあった。


 部屋の中には冷蔵庫も洗面台もあった。


 シャワールームまでベッドと併設している。

「せ、せんぱいっ! ロッカーに、こんなものが!」


 部屋の隅に置いてあったロッカー。

 ひなの手には、チャイナ服があった。


「…………」

「メイド服にナース服! コスプレ衣装です!」


 これは……やはり……。


「……貴樹たかきさん。その……こっちの棚に、こんなものが……」


 五和が顔を真っ赤にして、棚を指さす。


 棚を開けると、そこには……。


 ローションや、マットなど、そういう特殊なプレイにも対応できる、おとなのグッズがあった。


「お兄さんすごいよ。こんだけ準備万端なのに、ゴムが一切見当たらないの」


「……あのじいさん」


 意図はわかった。

 おそらく子作りさせたいのだろう。


 孫の顔が見たいという、固い決意が、部屋の中から伝わってくる。


「……とりあえず、じいさんにあいさついくか」


「「「はーい!」」」


 俺たちは荷物を置いて一階へと降りる。


 待っていた三郎に乗せてもらい、一同、また別のホテルへ。


 ホテルの最上階へと案内される。


「おお、貴樹たかき。よく来たな」


 高級な応接間のような場所で、すべての元凶たるじいさんが座っていた。


 開田かいだ 高原こうげん


 現・日本の総理大臣。

 巨大企業・開田グループの総帥。


 紋付きの上着に腕を通して、びしっと和装を着込んでいる。


 真っ白な髪の毛とひげ。

 猛禽類を彷彿とさせる鋭い眼光。


 見られてるだけで、びびる。

 現にひなやアンナ、千冬は、びびっていた。


「じぃじーーーーーーーーーーーー!」


 真琴だけが笑顔で、高原さんのもとへ走って行く。


「じぃじ! ひさしぶりー!」

 

 だきっ、と真琴が高原さんに抱きつく。


「おおっ、真琴や! ひさしいぶりだなぁ!」


 高原じいさんも、にっこにこで、真琴の背中をぽんぽんとなでる。


「じぃじ! ホテルありがとー! 飛行機も!」


「うんうん、いいんだよいいんだよ。真琴、おまえたちが喜んでくれればそれで」


 ……このじいさん、身内にはくっそ甘いのだ。


 しかも孫には、なぜか知らんがじぃじと呼ばせたがる。


 理由は不明だが、真琴と高原さんがはじめてあったとき、『わしのことはじぃじと呼んでくれ』と頼んだほどだ。


「みな、遠いとこよく来てくれた。日本だとしがらみがうるさくてな。ゆっくり家族と過ごす時間が楽しめん」


 だからってハワイを貸し切りなんて……。


「ねーねーじぃじ! ホテル、素敵なお部屋だね!」


「はははっ、気に入ってくれたか!」


「うん! ぼくがんばっちゃうよー!」


 ふすふす、と真琴が鼻息荒く言う。


「たっくさん赤ちゃん生むんだ! じぃじに早く見せてあげたい!」


「そうかそうか! うんうん、とても楽しみだ!」


 ああやっぱり、このじいさん、孫の顔が見たいから、あんなお膳立てしたのか……。


「迷惑だったかな?」


 下世話、という言葉を飲み込んで俺は言う。

「いえ、お気遣いありがとうございます、高原さん」


「そう固くなるな。貴樹たかき。五和。ひなにアンナ、それに千冬よ」


 嫁達を見渡し、眼を細めて言う。


「おまえたちはみなわしの大事な家族だ。かしこまることはない」


「そーだよー! かしこまっちゃのんだよー!」


 ……とはいえ相手は日本において最も影響のあるひとだし、なんだったら総理大臣だ。


 畏れを抱くのは致し方ないだろう。


 ……なんの躊躇もなくだきつくのは真琴くらいだ。


 やべえなうちの嫁、メンタル強すぎかよ。


「誕生日会はいつからやるの?」

「今日の夜からだ。それまでは各自自由にして良い」


「じゃあぼく! お兄さんたちと海いってくるね!」


「うむ、良いだろう。いってきなさい」


 開田のじいさんに挨拶を終えた俺たちは、ハワイの海へと向かうのだった。

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