6話 嫁たちとハワイ旅行



 あくる日、俺たちは飛行機に乗っていた。


「わー! 見てみてお兄さん! ソファふっかふか! 椅子と椅子の間が、こーんなにひろいよー!」


 隣の座席に座るのは、俺の嫁・真琴。


 左隣には五和。

 そして前の座席には、ひな、アンナ、千冬。


「すごいね貴樹たかき~! これがファーストクラス……!」


「わたしも初めて乗りました! 凄いです、せんぱい!」


 ひなたちがキラキラした眼を俺に向ける。


「いや……用意したの、俺じゃなくて開田かいだのじいさんだから……」


 はぁ、と溜息をつく。

 しかしあのじいさん……まさか飛行機もってるとは……


 ぽーん♪


 機内アナウンスがなる。


『ご乗車ありがとうございやす』


「あ、いっちゃんのお兄さんの声だ」

「……次郎太兄さん……なにやってるの……?」


 贄川にえかわ家の人間がどうやら、飛行機を運転しているらしい。


『皆さんを乗せた飛行機は、これからハワイへと向かいやす。本日この【高原こうげん様 お誕生日ジェット】を運転しやす、贄川にえかわ 次郎太じろうたでございます』


「いっちゃんのお兄さん、飛行機まで運転できるんだー! すげー!」


「……なんだかスゴイ恥ずかしいよ」


 はしゃぐ真琴と、うつむく五和。


 ……さて。


 俺たちがこの飛行機に乗っているのは、開田のじいさんの誕生日を祝いにいくためだ。


 開田 高原。

 旧財閥を母体とした、開田グループの総帥……だった人。


 今は日本の総理大臣をやっている御仁。


 その人の誕生日に、なぜ俺が呼ばれているのか。


 答えは……俺が高原さんの親戚に当たるからだ。


 俺がと言うか、真琴が、である。


 真琴の叔父、光彦おじさんが、高原さんの娘と結婚したらしい。


 そこから俺、そして嫁達は開田ファミリーの仲間入りを果たした次第だ。


「しかし開田の家、こわいわ……プライベートジェットまで持ってるなんて……」


『訂正でさぁ。当機は高原様の今年のお誕生日会がひらかれる、ハワイまで、薮原やぶはら様ご一行を送迎するためだけにご購入なされた飛行機でさぁ』


「なお怖いわ……!」


 なにそれ!?

 俺たちのために飛行機買ったのあの人!?


「……たっくん、私、なんだかスケールが大きすぎて、話しについて行けないわ……」


 くら、と千冬ちふゆさんが頭を抑える。


「ふ……深く考えちゃ駄目だ。うん」


「でもさぁ、これ貴樹たかきのためにかってってことは、貴樹たかきのジェット機ってことでしょ?」


「ふぇええ……すごいです……せんぱいのおうちぃ~……」


 いや、俺が凄いんじゃなくて、開田じいさんの家がやばいだけだから。


    ★


 現在、2025年、4月上旬。

 俺たちはを休日を利用し、ハワイへとやってきている。


 空港にプライベートジェットが到着する。

 タラップを降りると、アロハシャツを着たターミネーターが待ち構えていた。



「あろーは~♪ ハワイアン・ターミネーターだよーん」


「あ、いっちゃんの二番目のお兄ちゃんだ」


 サングラスをかけたお調子者、三郎。

 同級生・奈良井ならいの旦那だ。


「ありゃま、もーばれてら。素人は次郎太兄貴と見間違うもんだぜ~」


「や、もーさすがに見慣れたよ」


 真琴が言うと、俺もうなずく。

 とりあえず態度でわかる。ちゃらんぽらんのほうが三郎だ。


「おひさしぶり! 薮原やぶはらさん!」


 にかーっと三郎が笑う。


「おひさ。奈良井ならいは?」


「もーホテルにいるよ! 今日はおれがみんなをお出迎え★ ささ、車に乗った乗った!」


 空港にリムジンが1台置いてあった。


「あぶねえだろ、空港に車いれるなんて!」


「ほえ? 大丈夫でしょ。だって貸し切りだし」


「「「「は……?」」」」


 三郎の発言に、俺たちは呆然とする。


 い、今……なんつったこの筋肉?


「あ、あー! そっかお兄さん、わかったよ! 空港が貸しきりなんだよ!」


 真琴が焦ったように言う。


「そ、そうだよな! うん、空港が貸し切りなんだよな! いやぁ、開田の家はすげえなぁ!」


 すると奈良井の旦那、三郎は、ほえ? と首をかしげる。


「いや、ハワイ島が1泊2日、貸し切りってことだけど?」


「「「「…………」」」」


「え、おれなんかまずいこといっちゃいました?」


 まさか……嘘だろ?

 ハワイ島、まるごと貸し切ったの!?


「だぁって高原様のお誕生日っしょー? ほら今、あの人親戚くっそ多いし! ギリの息子も、孫もたっくさんだしさ。高原様がみんなに不自由があっちゃ駄目だって、島を貸し切ったんだよ」


 ……三郎の発言を、俺たちは信じられなかった。


 だが俺たちを乗せたリムジンが、無人のハワイの道路を走っているのを見て……確信を得る。


「「「「がちやん」」」」


 かくして、俺たち一家は、開田高原じいさんのお誕生日のため、無人島ハワイへとやってきたのだった。


 いや……もうほんと、なんだこりゃ……


「まーまー、嫁みんなでハワイ旅行って思えば、楽しいよ! ね、お兄さん♡」

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