86話 飲み会で男どもから質問攻め



 五月下旬のある日。


 会社の飲み会が開かれた。


 うちは交流のため、月一くらいのペースで、定期的に飲み会が開かれる。


 正直忙しいのだが、まあ仕方ない。

 これもまた仕事のうちだ。


 他部署も含めての大きな飲み会となっていた。


 桔梗ヶ原ききょうがはら部長こと、千冬ちふゆさんが音頭を取っている。


「……それじゃ、あんまり騒ぎすぎないこと。乾杯」


「「「かんぱーい!」」」


 始まってからしばらくすると……。


「「「薮原やぶはら くぅ~ん!」」」


 男性社員達が、俺の周りを囲ってきた。


「な、なんだよおまえら……」


「やっと聞きたいことが聞ける!」

「てめえおい薮原やぶはらさんよぉ!」

 

 びしっ! と社員が俺の指輪を、指さす。


「その指輪はなんなんだよぉ!」


 五和ちゃんの一件があってから、俺は左手に指輪をして、出勤することにした。


 別にうちはアクセサリーを禁止されていないしな。


「婚約指輪だよ。彼女との」


 偽ることなく俺はそう答える。

 指輪をはめないで余計な混乱を招くのはすでに学習済みだ。


 だからさっさと答えた……のだが。


「そりゃ見りゃわかるんだよ!」

「一体どこの誰と結婚するんだよ!」


 こいつらの関心事は、そこにあるのだ。


 指輪の相手。


「まさか……ひなちゃん!?」


 遠くで別の女子達と飲んでいる、後輩の安茂里あもり ひな。


「それとも……部長!?」


 他の部長達と飲んでいる、千冬ちふゆさん。


「大本命……アンナさん!?」


 アンナさんは男女問わずたくさんの人に囲まれている。


「「「おまえの相手はだれなんだ!?」」」


 まあここも別に偽る必要ないな。


「あの三人じゃないよ」


「ほんとかぁ?」「嘘じゃあねえだろうなぁ?」「嘘だったらぶち殺すぞ★」


 こええ……。


「ほんとだって。誓う。だいたい、あの三人の誰かなら、俺と同じ指輪をしてておかしくないだろ?」


 確かに……と野郎どもがうなずく。


「じゃあよぉ、誰なんだよ? え? 相手はさぁ」


 ……さてどうしよう。


 正直にぶっちゃけたところで、こいつらが信じるとは思えん。


 だが偽るとまた余計な誤解を招く……。


「そんなの誰だっていいだろ? あんたらの興味は、あの三人と俺がつきあってなきゃいいんだからさ」


 よし、これがベストな回答だろう……。


 しかし男どもは首を振る。


「あやしいな」「ああ、あやしすぎる」「相手を言わないなんて……!」「あの三人の誰かとつきあってて、それを隠してるのかも!」


「なんでそうなるんだよ……」


 隠してるとやっぱりいろいろ邪推されてしまうんだな。


「ほら言えよ薮原やぶはらぁ」「教えてくれよぉ」


「ったく、しょうがねえな……」


 俺は真実を語ることにする。


「女子高生だよ」「「「女子高生!?」」」


「田舎の幼なじみでさ」「「「幼なじみ!?」」」


「可愛くて美人で性欲が強くて、黒髪で清楚な女の子。おまけに巨乳なんだ」


 俺はちゃんと正直に言えたぞ。


 だが……。


「「「嘘つけやごらぁああああああああああああああああ!」」」


「ええー!? なんでなん!?」


 怒り心頭な野郎ども。


「なんだそりゃ!」「そんな男の理想を固めたような女がいったいどこにいるんだ!?」

「しかも女子高生と婚約って!」「おまえはどこのフィクションの主人公だよ!」


 いや全くその通り……。


「いや、本当なんだってば。俺が語ったのは真実なの」


 けっ、と男達が悪態をつく。


「誰が信じるかよ!」「妄想乙!」「巨乳美少女黒髪JKと結婚とかありえないっつーの!」


 内容があまりにフィクションじみてたからか、誰一人として信じてくれねえ……。


薮原やぶはらよぉ。本音を語りたくない気持ちはわかるよ?」


「でもさすがにさっきのはせってい盛りすぎだろ」


「もうちょいリアリティ出さないと、読者から総ツッコみはいるぞ。そんな都合の良い女いるかってよ」


 なんか腹立ってきたな……。


「いるんだって! ちゃんと俺には婚約者が!」


「そりゃ指輪があるんだからいるんだろうよ」

「でもなぁ……ねえ?」

「どう思うよ?」


 ひそひそひそ、と男どもが話し合っている。

「あの三人の中のうちの、誰かと本当に付き合ってるとしか思えんな」


「ああ。ばれたくないいっしんでつまらん嘘をついているにファイナルアンサー」


「まさか三人同時に付き合ってるとか……?」


「ねえよ! 全部ない! ちゃんといるもん!」


 ずいっ、と男達が顔を近づける。


「誰なんだよ! 誰と付き合ってるんだよ!」


「アンナさんか!? それともひなちゃん!?」


「千冬さんに毎日置換プレイしてるのか貴様けしからんぅううううううううう!」


 だーかーらー!


「ちげえって言ってるだろぉおおおおおおおおおおおおお!」


 しかしどれだけ否定しても、真琴の存在がフィクションすぎて、職場では信じてもらえないのだ……。

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