74話 JKふたりとゲームする



 俺の家に、真琴の友達の五和ちゃんが遊びに来ている。


 金曜日ということで、泊まることになった。

 食後。リビングにて。


「ゲームしようよー!」


 真琴が笑顔で、俺たちに言う。


「……ゲーム」

「おう、いいぞ」


「わーい! やったー!」


 スイッチのセッティングをする五和。


「……あ、あのぉ」

「ん? どうしたの、五和ちゃん?」


 彼女がおずおずとこんなことを言う。


「……私、テレビゲーム、ほとんどやったことなくって……」

「えー! うっそぉ!」


 超びっくりする真琴。

 まあわからんでもない。


 現役JKでゲームやったことないなんて、珍しいからな。


「ほんとにゲームやったことないの? 五和ちゃん」


「……はい。うち、兄姉多くて、ゲームやりたくても、人数にあふれちゃうんです」


「あ、そっか。テレビゲームってだいたい昔は4人とかだったもんね」


 こくこく、と五和ちゃんがうなずく。

 なるほど、大家族も大変だな。


「うーん……テレビゲームが駄目となると~……あれだっ!」


 真琴が寝室へとひっこんでいき、そして持ってきたそれを見せる。


「じゃーん! ツイスターげー」

「……それは止めてっ! マコっ!」


 顔を真っ赤にした五和ちゃんが叫ぶ。


「えー、だめ?」

「……つ、ツイスターゲームなんて……死んじゃう……」


 俺も同意だ。ツイスターゲームなんて恥ずかしくて死ぬ……。


「じゃこっちやろっか。ジェンガー」

「「まあそれなら」」


 ということでジェンガをやることになった。

 机の上に木のピースを詰んで塔を作る。

 それを順々に抜いていって、上に重ねる。


 塔を崩したら負け、というルール。


「じゃまずは練習で~ぼくから!」


 真琴が下段のピースを指でつつく。


 ことん、テーブルの上にピースが落ちた。

 それを上に重ねる。


「……じゃあ、私」


 五和ちゃんがじっ、と真剣な表情で塔を見つめる。


「……ここ!」


 五和ちゃんがガシッ! と勢いよくつかむ……。


 がしゃーん!


「……あ」

「あらあら、いっちゃん負けですな」

「……くぅ」


 がっくし、と五和ちゃんが肩を落とす。


「崩した人が積むルールね」

「……わかった」


 五和ちゃんが落ちてるピースを拾って、重ねていく。


 俺もまた集めて積んでいく。


「あ! お兄さんお手伝い禁止だよぅ!」

「いいじゃねえか、みんなで拾った方が早く集まるだろ?」


「むぅ……それじゃ罰ゲームの意味がないじゃーん」


 かしゃかしゃ、と積み上げて、塔が完成する。


「……ごめんなさい」


 ぺこん、と五和ちゃんが頭を下げる。

 申し訳なさそうな彼女に、俺は笑いかける。

「気にすんなって。じゃ、2回目やろっか」


 俺はピースをつついて取って重ねる。

 真琴の番になる。


 ひょいっ、と軽くピースを抜いた。


「えらい早く抜くな」

「へっへーん! ぼくは知ってるんだなぁ」


「知ってる? 何を?」


「このゲームの、ひっしょーほーをだよ! どやっ!」


 どこぞの嘘つきゲームの人みたいな感じで真琴が言う。


「必勝法なんてあるのか?」

「もちろん! しかーし! 教えるわけにはいかないな。勝負とは常に非情なものだからっ」


 凄い自信満々の真琴。

 必勝法を見つけたってのは、あながち嘘ではない……のか?


「……次は私……あっ」


 がしゃーん!


「……ご、ごめんなさい」


 また五和ちゃんが塔を崩してしまった。

 俺たちは落ちてるピースを集める。 


「結構ぶきっちょなんだね、五和ちゃんって」


「……はい。昔から不器用で。姉や兄たちと違って」


 しゅん、と五和ちゃんが凹んでしまう。

 うーん、なんとかしてやりたい……そうだ。

「真琴」

「なんじゃー?」


「俺が五和ちゃんのアドバイザーやっていい?」

「あどばいざー?」


 ほえ、と首をかしげる真琴。


「ああ。抜くのは五和ちゃん。俺がどこを取った方が良いか指示するだけ」


 五和ちゃんのプレイを見ていたら、別に取り方に問題があるとは思えない。


 ただ、それ普通取らないだろ、って段のピースを平然と取ろうとする。だから負けてしまうのだ。


「うん、いいよ! ゲームは競ってこそだもんね!」


「てわけだ、五和ちゃん。俺が指示するから、それとって」


「…………」


 五和ちゃんはぽかんとした顔で俺を見ている。


「? どうした?」

「あ、いえっ! あの……その……ありがとう、ございます」


 小さくはにかむ五和ちゃん。


 こういう控えめなとこがいいよね、はかない見た目と相まってかわいい。


「じゃ、一戦やってみよっか」

「……はいっ!」


 また俺たちは対戦する。


「五和ちゃん、これとってみようか」

「……わかりました!」


「今度はこっち」

「……はいっ」


 五和ちゃんは、とても素直だった。

 俺が指示した物を、指示したとおり取ってくる。


 そのおかげもあって、五和ちゃんはさっきみたいな無様はさらさなくなった。


「って、今更だけど、ごめんね五和ちゃん」


 真琴の手番の途中で、俺は彼女に声をかける。


「……どうして謝るんです?」


「いや、俺が指示しまくってるせいで、自分で選ぶ楽しみ奪ってないかって」


 ジェンガってどれ取るかのドキドキも楽しみの一つだからな。


 すると五和ちゃんは微笑んで、ふるふると首を横に振る。


「……大丈夫です。私、今すっごく幸せなので」


 五和ちゃんは頬を赤くして、胸に手を当ててうなずく。


「幸せ?」

「……あ、えと……しあわせっていうか、楽しい、です。誰かとゲームするの……たのしい」


 五和ちゃんは顔を赤くしてはにかむ。


「なるほど、【友達と】一緒にゲームするのって楽しいよね……って、どうしたの?」


 ずずん……と五和ちゃんが、さっきの笑顔から一転して、暗い表情になる。


「……あ、はは……なんでもない、です」


 とまあいろいろあったけど、ジェンガは粛々と進んでいった。


 少しずつだが、五和ちゃんも自分で選べるようになってきた。


「そろそろ自分で選んでみる?」

「……ぁ」


 なんだか残念そうな表情の五和ちゃん。


 でも微笑んで、うなずく。 


「はいはい、ぼくから提案があります!」


 真琴が元気よく手を上げる。


「ほう、提案」

「ジェンガ崩したひとは、罰ゲーム受けてもらうってことで!」


「ほほう、楽しそうじゃない?」


 ぬふふふ、と真琴が凄い楽しそうにしてる。

 五和ちゃんはちょっと不安そう。


「……罰って、なにするの?」

「えっとねー、負けた人が、勝ったひとたちの言うことを、何でも聞くの!」


「「な、なんでもっ!?」」


「そうっ、なんでも!」


 な、なんか結構ハードな罰ゲームだな……。

 相手に何をさせるかの主導権を握られてるわけだし。


「……何でも。勝てば、何でも……なんでも……」


「い、五和ちゃん?」


 くわっ、と五和ちゃんが大きくうなずく。


「……私、やります! 勝ちます! 絶対!」


「おおー、やる気だねぇ! ぼくも負けないぞー!」


「……マコは、負けて良いよ」


「にゃにー! 言うじゃなーい! ぼくだってぜーったい負けないもんねー!」


 かくして、罰ゲームをかけたジェンガ対決がスタートするのだった。

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