73話 JK二人と夕ご飯



 金曜日の夜、俺が家に帰ってくると、真琴が友達の五和いつわちゃんを連れてきていた。


 真琴の提案でうちに泊まることになった。

 年頃の女子を、若い男のところに泊めるのは、保護者的にはどうなんだろうか……と思ったんだが。


 彼女のお兄さんの次郎太じろうたって人からから俺宛に連絡が来た。


『妹がお世話になります。どうか妹をよろしくお願いしやす』


 と直々にお願いされた。


 まあ彼女の家族が良いというのなら、それ以上俺が口を挟む気は無い。


 五和ちゃんに対しても、どうこうするつもりもないしな。俺には真琴まことがいるし。


「もうちょっとでお夕飯できるからね~♡ ふたりで待っててちょー!」


 真琴まことが台所から、ひょっこり顔を出して言う。


 五和ちゃんは何かを決意したような顔で、真琴まことを見やり言う。


「……マコっ。私も……て、手伝いたい!」


 五和ちゃんは顔を真っ赤にして総手案してきた。


 夕飯のお手伝いがしたいのか。

 でもなんでだろう……あ、そっか。友達にメシ作らせて申し訳ないのかも。


「えー、いいよぅ。いっちゃんはお客さんだもん」


「……でも、その……手伝いたいんだ。少しでも……その……だから」


 やっぱり気にしてる様子だ。


「真琴。いいじゃんか。手伝いたいって言ってるんだからさ」


「ん。まあいいよー♡ おいでおいで~♡」


 五和ちゃんが俺を見て、顔をかぁ……と赤らめた後、ぺこりと頭を下げる。


「……ども、です」

「なんの。ほらいってらっしゃい」


「……はい。あの、その……が、がんばり、ますっ」

「? おう」


 ぱたぱたぱた、と五和ちゃんが台所へとかけていく。


 何を頑張るんだろう……。手伝いなのに……。


「いっちゃんこれ着てこれ、じゃーん!」

「こ、これ……着るの?」


「そう! 台所に立つものの制服だもーん!」

「……わ、わかった」


 五和ちゃんが、真琴からエプロンを渡されていた。


 おずおずと身につける。


 ……ミニスカートに、学校シャツ。

 その上からエプロン……か。


 な、なんだろう……ぐっとくるな。幼妻感がすごい……。


「じゃーん♡ JKだぶる妻だよ~♡」


 真琴がいえーい、とピースする。


 真琴は私服にエプロン姿。

 一方で五和ちゃんは制服にエプロン姿……。

「五和ちゃん似合ってるよ、すごく可愛い」


「~~~~~~~~~~~~っ!」


 かぁ……と五和ちゃんが耳の先まで真っ赤にして、うつむく。


 もじもじと照れたようにしながら、ふにゃりとはにかむ。


「むー! なにさ! ぼくにもかわいーっていってよーう!」


 ぷくーっと真琴が頬を膨らませている。


 もちろん真琴は可愛い。世界一可愛い。


「真琴のエプロン姿は見飽きたからなー」


「うがー! そんなこという旦那様には、もおうお料理作ってあげませーん。つーんだっ!」


 ぷいっ、と真琴がそっぽを向く。

 だがわかっている。

 これは単に甘えたがってるだけだってな。


 その証拠に、チラチラと俺を見てくる。

 ガチで怒ってるとそっぽ向いて、話しかけてこないし、こっち見てこない。


「まあ今はコンビニメシでも事足りるからなー」


「えー! やだやだやだー!」


 たたたーっと真琴が俺の元へやってきて、ぎゅーっと抱きしめてくる。


「っ!」


 五和ちゃんがなんか目をむいて、ぎゅっ、と下唇をかみしめる。


「コンビニメシなんてだめだよー! 栄養偏るし~!」


「ほんねは?」


「ぼくを捨てないでー!」


「まったく、捨てるわけないだろ~? ばかだなー」


「そっかー♡ えへー♡ すき~♡」


 真琴のやつ、友達が居る前でガキみたいに甘えてきやがって……。まったく、かわいいやつだなぁ。


「…………」


 五和ちゃんは、さっきまでちょっとうれしそうだったんだけど。


 今はうつむいて、沈んだ表情になっている。

 多分友達との時間に水を差されて、嫌な想いをしてるんだろうな。


「ほら真琴。早くごはん作ってくれよ」

「おなかぺこちゃん?」


「おなかぺこちゃんだ」

「おけー! とっきゅーでつくるよー!」


 真琴と五和ちゃんが台所に立つ。


 とんとんとん……という音が響いてくる。


 いやぁ……なんというか、新鮮だなぁ。


 JK妻がふたり……なんつってね。


「ニュースでも見るか」


 ぴっ……。


開田かいだ総理! 新法案は本当に通すつもりですか!?』


『前代未聞ですよ!』


『総理! 何かコメントを! 総理ぃ!』


 また開田総理が何かやったのか……?

 でも何も言ってないし……。


「おっまたせー♡ ごはんだよー、あ・な・た♡ きゃっ♡」


 真琴が五和ちゃんと持ってきたのは、カレーだった。


 でもただのカレーじゃない。

 真琴スペシャルカレーだ。


 こととん、とテーブルに料理を並べていく。

「いっちゃんも手伝ってくれました!」

「……ごめんなさい、サラダだけ、ですけど」


 カレーのそばに卵サラダが乗っている。


「……ごめんなさい。マコみたいに、凄い料理じゃなくて。キャベツきって、卵ゆでてくらいで、拙くて……」


 五和ちゃんが落ち込んでいる様子。

 結構いろいろ思い悩むタイプなのだろう。

 真琴とは正反対だ。


 まあ真琴の料理スキルと比べたら、自分の腕に自信が無くしちまうのは仕方ない。


 でもそれは可哀想だ。

 だって自信を喪失させて、可能性の種を奪うのは、もったいない。


 俺たちはテーブルを囲む。


「「「いただきまーす」」」


 俺はまずまっさきに、五和ちゃんが作ってくれたサラダに手をつける。


 そして、一言。


「うん……うまい!」


「……ほ、本当です、か?」


「おう!」


 おずおずと尋ねてきた五和ちゃんに、俺は即答する。


「めっちゃうめえよ。真琴のサラダより何倍もうまい」


「……そ、そう……かな」


「うん。だから自信持って! な!」


 五和ちゃんがじわ……と目に涙をためる。


「え、お、俺なにか言っちまったか?」


 ふるふるふる! と五和ちゃんが強く首を横に振る。


「……ごめんなさい、その、うれしくて……そう言ってもらえたことが、だから……つい……」


 五和ちゃんが目元を拭って、はにかむ。


「……ありがとう、ございます」


 気を遣ったのがばれてしまったかもな。

 うーん、俺もまだまだ未熟よの。


「……すごい、すごい……うれしいです。でも……がんばります、もっともっと」


「うん。がんばれ」


 前を向いてくれたみたいで良かった。


「う~……」


 真琴が口を3にして、不満をあらわにしている。


 わかりやすいやっちゃ。


 俺はカレーを一口すくって言う。


「真琴のカレーは世界一だよ」


「えへー♡ どやぁ……!」

 

 本当に単純で、可愛いやつだよ。ふふっ。


「まー、お兄さんってば、お世辞が上手なんですから~♡」


「まあ本当に世界一上手いんだよなぁ実際。スパイスから作ってるんだもんな」


「そー! お兄さんわかってる~♡ 愛してる~♡」


 俺と真琴が笑いながら会話する。


 五和ちゃんもまた苦笑していた。

 ……けど、なんでだろう。


 ちょっとさみしそうだった。

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