60話 誕プレデート、待ち合わせ
ゴールデンウィークも終盤にさしかかった。
ある日、俺は川崎駅に来ていた。
駅近くのショッピングモールに用事がある。
だが、俺は駅前のカフェにいた。
「……ごめんなさい、たっくん!」
カフェに入ってきたのは、俺の叔母さん、
こつこつ……とヒールをならしながら近づいてくる。
「……1時間も待たせて、ごめんなさい」
「いや、しょうがないよ。急な仕事入ったんだろ」
「……でも、あなたをこんなに待たせるなんて」
「いいって。ちょうど読みたい小説もあったしさ」
俺は電子書籍で、【きみたび】の最新刊を読んでいた。
きみたびは今凄い人気のあるライトノベルだ。
実写化とアニメ化が決まっている。
「それにお願いしてるのは俺のほうだし。気にしないで」
「……ありがとう、たっくん」
千冬さんがホッ……と安堵の吐息をつく。
それにしても……。
「千冬さん」
「……なぁに?」
「いや、綺麗だなって」
「!?」
今日の千冬さんは、職場とはまるで逆の印象を受ける。
普段はパンツスーツ、髪をバレッタでまとめて、キリッとした表情から、出来る女感があふれている。
今日は長い髪を下ろして、ふわっとしたスカートをはいてる。
良いとこのお嬢さんみたいだ。
「……そ、そうかしら」
千冬さんが顔を赤くして、照れている。
「……おばさんが、こんな服着ちゃ、変じゃない?」
「ぜんぜん。てかおばさんなんて卑下しなくていいって。29はおばさんじゃないよ」
「…………」
もにょもにょ、と千冬さんが口ごもる。
だが俺を見て、ふにゃりと口元を緩ませた。
「……ありがと、たっくん♡」
その後、俺たちはカフェを出て、ショッピングモールへと向かう。
ここは都内からも行きやすく、色んな店が入ってるので、よく利用している。
「今日はありがとね。真琴の誕プレ選ぶの手伝おうって言ってくれて。一人じゃこういうのわからなくってさ」
真琴に黙ってきたのは、彼女に渡すプレゼントを、選びに来たからである。
千冬さんは少しさみしそうな顔になるも、ふるふる、と首を振る。
「……気にしないで。大事なものですもの。力を貸すわ」
「助かるよ。今度お礼するね。なにがいい?」
じっ、と千冬さんが俺を……というか、俺の腕を見てくる。
「……あの、ね。今度じゃ、なくていいわ」
「? どういうこと?」
立ち止まって、ちらちら……と俺を見上げてくる。
深呼吸して、千冬さんが言う。
「……手を、つないでくれない?」
「え、手を?」
「……も、もちろんっ、他意はないのよっ。ただその……迷子になると面倒だし。それに……昔みたいに、あなたと買い物したいなって……」
それに、と千冬さんが小さく……それでいて、悲しそうに言う。
「……もう、この先……たっくんと二人でお出かけなんて……できないから」
千冬さんが言いたいのは、俺が真琴ともし結婚したら、二人で会いにくいっていいたいのかもしれない。
普通に考えれば、結婚してない男女が一緒に出かけるのは、デートと解釈されてもおかしくない。
確かに、もしここに真琴がいたら、さぞ嫉妬することだろう。憤慨することだろう。
浮気だって勘違いするかもしれない。
……そこを千冬さんは懸念しているのだ。
「いいよ」
俺は千冬さんの手を取る。
「……あっ」
「千冬さんのお願いながら、何度だって手をつなぐさ。それに……もう二度となんて悲しいこと言わないでよ」
これで最後なんてわけがない。
「俺と
俺が結婚しようが、千冬さんとの関係は変わらない。
「家族の仲は、永遠に変わらないだろ?」
千冬さんは少しだけ、明るい表情になる。
けれどさみしそうなのは変わらなかった。
「……永遠に変わらない、か」
目を閉じて、静かに微笑む。
「……そうね。手をつなぐくらい、【家族】じゃ当たり前だものね」
「おうよ。だから気になんてしなくていいんだって。ほら、いこうぜ」
「……ええ」
俺は
手をつないで、歩き出す。
「ぴぇーーーーーーーーーーーーー!」
……なんか、どっかで奇声が聞こえた。
「なんだろ?」
「……さぁ?」
まあ気にせず俺たちは、歩き出すのだった。
★
「ぴぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ハンチング帽に、サングラス。
ホットパンツにジャケットという変装をしている。
真琴は、
「うわきじゃーーーーーーーーん!」
……真琴は
だが出発してからのタイムラグがあったので、合流できるか不安だった。
しかし偶然にも、駅前のカフェで
しばらく様子を見ていると千冬が現れた。
どうやら何かがあって、デートの時間が遅れたらしい。
ふたりを早めに発見できたのは僥倖だった。
こっそりふたりのあとを、尾行していたのだが……。
急に千冬が
おもわず声を張り上げてしまった次第。
「ぐぬぬぅ……! お兄さんめぇ……! 千冬姉さんめぇ! お嫁さんに隠れてデートですか、こんにゃろー! きー!」
だんだんだん、と真琴が地団駄を踏む。
ハムスターのように頬を膨らませる。
「しかも……千冬姉さん、すごいおしゃれしてるじゃん! メスの顔じゃん! もうこれ100ぱー、お兄さんにホの字だよぉーーーーーーーーーー! くわぁーーーーーーー!」
真琴は、焦っていた。
千冬は大人の女性だ。しかも絶世の美人。
胸もあり、包容力もあり、そしてなにより財力もある。
確かに真琴も胸は大きいが、千冬の理外のビッグバストには負ける。
包容力という点にかんしても……夫の浮気が気になって、こうして尾行してきている時点で負けている。
そして真琴はまだ未成年。経済面で彼に負担をかけていることは事実だ。
「……まこちゃん、完全敗北……だと……」
がっくし、と真琴が膝をつきそうになる。
だが、崩れ落ちる前に、立ち上がる。
「いや! まだだ! まだデートと決めるのは、早計じゃー!」
ふんっ、と真琴は気合いを入れて立ち上がる。
「そ、そうだよ……たかが手をつないだだけじゃん。これくらいで動揺してどうするんだっ。デートじゃない可能性だって、あるじゃんか! 何か別の用事で……買い物にきた、とか!」
……前に男女二人が出かけたら、デートといったことがあったが、黙殺した。
「見極めてやる……! これが果たして浮気デートなのか……はてまた違うなにかなのかっ!」
真琴はこそこそ……と千冬たちの後ろをついて行く。
ふたりが笑顔で会話しながら、歩いている。
「くぅ~~~~~~~~~~~~!」
これは……なかなかにきつい。
旦那(予定)が、他の女と一緒に楽しそうにしているのなんて……。
でも千冬が前に、言っていた。
真琴は
人間、そんなに簡単に考えを変えることはできない。
不安なものは不安だ。
「お兄さんは、浮気しないって信じてるよ……信じてるから……! 信じて……いいよね……!」
真琴はこそこそと、彼らのあとをつけるのだった。
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