43話 家族と昼ご飯を



 俺の実家に帰ってきた。


 昼飯を食べようと、俺の家族プラス真琴で、市内のショッピングセンターへとやってきた。まあ、イオンだ。


 田舎で大きな買い物をする=イオンなとこあるからな。


「せっかく久しぶりの家族3人水入らずだもの! 買い物くらいしないとねーまこちゃん♡」


「うん、お義母さ~ん♡」


 ショッピングセンターへとついたお袋は、真琴をぎゅっと抱きしめて言う。


「3? あれ、真琴を入れると4人だぞお袋」


「あたしでしょ、お父さんでしょ、あとまこちゃん♡ ほら3人」


「実の息子がここにいますけど!?」


「息子は死んだ、もう居ない!」


 ひでえ母親だなおい……!


「さぁさぁまこちゃん何食べたーい? なんでもおごるわよ~。タカが」


「俺かよ」


 お袋にツッコミを入れる俺。


「だぁってあんた、社会人なんでしょ。お金持ってるんでしょう?」


「そりゃ多少はな」


「まあまあお兄さん」


 真琴がニコニコ笑いながら言う。


「今までお世話になってるんだから。たまにはおごってあげなよ。親孝行しなきゃ」


「んっまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡ まこちゃんってば! なんて! なんて孝行娘なの! あたし感激! 大好き! ちゅっちゅ~♡」


「えへへ~♡ ぼくもお義母さんだいすき~♡」


 二人がイチャイチャしてる。


 ……なんか、もやっとするなぁ。


「あ、でもお兄さんのほうが、もっと好き!」


「タカぁああああああああああああ! きぃええええええええええええええ!」


 お袋が助走からのドロップキックを、俺のみぞおちにかましてくる。


「ふぐぅ……」


「お兄さん! んもうっ、お義母さんひどいよっ。お兄さんいじめないでー!」


 真琴に怒られて、お袋がしょんぼりする。


「あなた……あたし、もうだめ……実の娘に嫌われちゃったわ……」


「ほっほ。真琴ちゃんは義理の娘さんですよ、お母さん」


「いや、まだちげえから、親父」


 にこにこ、と親父が笑う。


「はい! 真琴ちゃんはもう義理の娘さんです、安西先生!」


「いやいやまだだから。あと親父は安西先生じゃないから、似てるけど」


 そんな俺たちの様子を、親父はニコニコしながら言う。


「ほっほっほ」


 と。


    ★


 俺たちはショッピングセンターへとやってきた。


 ゴールデンウィークと言うこともあって、かなり人がいる。


「まこちゃん何食べたい~?」

「なんでもっ! 家族みんなで食べるごはんなら、何でも美味しいからっ」


「くぅ! 感動! なんて良い子なのぉ!」


 お袋と真琴がなかよく手をつないで歩いている。


 俺と親父はその後ろをついて行く。


「お義母さん! ぼくソースカツ丼たべたーい!」


「よっしゃおっけー! ソースカツ丼のお店いくわよ! タカ、あんた調べなさい」


「はいはいっと」


 ほどなくして、俺たちはソースカツ丼が食べれるところまで来た。


 案外待たずに座ることができた。


「さぁまこちゃん♡ あたしのお隣においでおいで~♡」


 ぽんぽん、とお袋が自分の膝をたたく。

 おいそれ隣じゃないぞ。膝に座らせようとしてるのか。


「んー……ごめん! ぼくお兄さんの隣がいいから!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だがぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」


 女子が出して言い声じゃないぞそれ……。


「まこちゃんどうして!? どうしてお母さんの隣じゃないの!?」


 おいこいつ自分を実母って言ってるぞ。


「だってお兄さんの隣は、ぼくのポジションだからねっ」


「はっはっは、悪いなおふくろぉ。真琴は俺のだ」


 きぃ……! とお袋がぶち切れる。


「なんて意地悪な子なの! 誰に似たのかしら!」


「あんたの息子さんですよ」


「お父さんに似たのかしら!」


「ほっほっほ」


 親父はずーっとニコニコしてる。

 おしぼりが来たので、親父が受け取ると、みんなの前に配る。


「くぅ……まあいいわ。我慢する……まこちゃん♡ ほらソースカツ丼もいっぱい種類あるわよ~♡ どれでも頼んで良いからね~♡」


「おい俺の金だぞ」


「あら~このひれカツ丼って美味しそうじゃなーい? まこちゃん一緒にこれ食べよ♡」


「聞けよ」


 きゃあきゃあ、と真琴とお袋がはしゃぎながら、メニューを決める。


 ほんと仲いいなこいつら。


「貴樹は決まりましたか?」


 親父が俺に問うてくる。


「ああ。俺はこのロースカツ丼で。親父は?」


「私はコーヒーをいただきましょうかね」


 はて、と真琴が首をかしげる。


「どうしたの、お義父さん? おなかいっぱいなの?」


「ほっほっほ、まあそんなとこです」


「いや親父。あんた……」


 ふるふる、と親父が首を振る。


「いいんですよ、貴樹。真琴ちゃんが食べたいというのですから。ねえ、お母さん?」


「そうよ! さぁさっさと頼みましょう。シェフー! シェフはドコー!」


「注文はこっちのボタンを押すんだよ。あとシェフが来ねえよ」


 真琴がテキパキと注文する。


 ……俺は、知ってる。

 親父は医者から、油ものを控えるよう言われている。


 でも真琴を、そしてみんなの和をみだすまいと、言葉を濁したのだ。


 お袋もそれは察してるから、話を長そうとしたんだよな。


 ほどなくして、カツ丼がやってくる。


「きたー! おいしそー!」


 真琴が目をキラキラさせる。


「まこちゃんいっぱい食べていいのよ♡ タカのおごりだから」


「うんっ、いただきまーす!」


 まあおごるのはやぶさかでもない。

 いつも世話になってるからな。


 親孝行、したいときには親いないって言うし。


 少しずつ恩を返していかないと。


「うんまぁ~~~~~~~~~い♡ お兄さんこれおいしいよー♡ 一口どーぞ♡」


「お、さんきゅー」


 俺は真琴のひれカツ丼を一口食べさせてもらう。


「うん、美味い」

「お兄さんのロースカツひとくちちょーだーい♡」


「あいよ」


 俺は一口とって、真琴に差し出す。

 ぱくっ、とダイレクトに真琴が食べる。


「えへっ♡ おいしいね~♡」

「だな、美味いな」


「「ねー♡」」


 ……って、はっ! しまった。


 真琴溺愛なお袋の前でいちゃついてしまった!


 こ、これはぶち切れか、呪い殺されるぞ……。


 って恐る恐る正面を見ると……。


「…………」


 お袋、親父同様に、目を細めて笑っていた。

 え、う、うそ?

 絶対キレるって思ったのに……。


「ん? どうしたの、タカ」


「うぇ? な、なんでも……。お、お袋もほら、食えよさっさと」


「言われずとも食べてるわよ」


「って、早っ! もう食い終わったのかよ!」


 米粒一つのこさず、お袋が完食していた。


「なんだか物足りないなぁ。ねえタカ、もう1杯頼んでもいい? 良いわね、すみまっせーん! シェフー!」


 人の話聞かないしあとシェフじゃねえしまったく……。


「いいじゃないの、どーせお父さんの分入れて4人分でしょ? ならあたしが二杯食ってもいいじゃないの」


「まあ別に良いけど太るぞ?」


「へっへーん、こちとら二次成長終えてから一ミリも背が伸びないし、ずっとこのロリっこ体型なんだよーん」


 そういえば記憶のなかのお袋、ずっとちびっこいまんまだな……。


 逆に親父はずっと太ってる。


「摂取したカロリーを無理矢理親父に押しつけてるんじゃないか?」


「あれ、タカ知らなかったの~?」


「えー! そうなのぉ!」


 真琴がお袋の冗談を真に受けて、驚いていた。


「んもぉう♡ まこちゃんってば素直可愛いんだから~♡ よしよしよーし♡」


 お袋は真琴の頭を笑顔でなでる。


 真琴はうれしそうになでられていた。


 母親の居ない真琴にとって、俺のお袋が本物の母親みたいなもんだからな。


 仲がよくって当然だし、お互い好きなんだろうなぁ。


「お兄さんも、よしよし~♡」


 俺の隣で真琴が、頭をなでてくる。


「なんでやねん」

「お兄さんがものほしーにしてたから、かなっ♡」


「おう、さんきゅー。ずっとお袋かまってて限界だったんだわ」


「えへっ♡ んも~♡ お兄さんってば~。ぼくの大好きで独占したいんだってぇ? 仕方ないなぁ~♡」


 ぎゅーっ、と真琴が俺の体に抱きつく。


 こ、今度こそお袋キレるだろう……?

 

「…………」


 だが、やっぱりお袋は微笑んでいた。


 なんだ、なにが起きてるんだ?

 天変地異でも?


「あ、二杯目きたよー。はい、お義母さん♡」


 真琴が店員からソースカツ丼を受け取って、お袋の前に置く。


「あら~♡ ありがとうね~♡ まこちゃんは偉いわね~♡」

 

 釈然としない思いを抱きながらも、俺たちは和やかに食事をしたのだった。

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