41話 夜道でイチャイチャ


 俺はふと、目を覚ます。


「いっつぅ~……」


 気づけばそこには、見知らぬ天井があった。

「どこだ……ここ?」


 俺は同級生の奈良井達ならいと飲み会をしていたはず。


 だが……木製の天井がそこにはあった。


「やっほー」

「……真琴まこと


 俺の嫁、真琴がひょっこりと顔をのぞかせる。


「起きた? 頭痛い?」

「うん……ちょー痛い……」


「そう思って、はいこれ。ポカリと酔い止め」


 俺は半身を起こすと、真琴がそれらを渡してくる。


「どう? 準備の良い嫁でしょ~?」

「……ああ、最高の嫁さんだよ。気が利くぜ」


「お、おう……も、もうっ! 素直に認めないでよ……恥ずかしいじゃん……」


 寝起きにプラスして、まだ酒が残っているのか、体がフラつく。


「飲める?」

「……ああ」


 俺はペットボトルを開けようとする。

 だが、美味く力が入らない。


「おっけー。かして、お兄さん」


 真琴はペットボトルの蓋をきゅっと捻って開ける。


 それを俺に……ではなく、自分で飲む。


「おい何やって……」


 真琴は酔い止めを俺に飲ませると、そのまま、口づけをしてきた。


 ぬるり……と甘いポカリの液体が、俺の体の中に入ってくる。


「…………」


 俺は、真琴を反射で抱きしめていた。


 柔らかくて、あったかい。

 良い匂いがする……。


 目を閉じて、真琴が俺を求めてくる。

 可愛い彼女の姿を見ているだけで、癒やされる……。


 一度真琴が口を離し、もう一度ポカリを飲んむ。


「ん~♡」

「薬飲めたんだけど……ったく」


 俺は真琴をハグして、また唇を重ねる。


「ちゅ♡ んちゅ♡ んっ♡ んっ♡ ふっ……んちゅ♡」


 口の中で真琴の小さな舌が自在に動く。


 ぐいぐい、と真琴が大きな胸を押しつけてくる。


 俺が離そうとすると、もっと、もっと……と求めてくる。


 ……結局、10分近くキスをしていた。


「エロ魔人め」

「えへー♡ お兄さん限定だよ♡」


 ベッドサイドに真琴が座る。


 ……不思議と、頭痛は治まっていた。

 こいつのキスと笑顔が、何よりの特効薬なのかもしれんな。


「ここどこ?」

「ぼくの家……の、ぼくの部屋」


 俺はここに至るまでの経緯を、真琴から教えてもらう。


「そっか……奈良井が。今度礼しないとな」


「由佳子さんの旦那さん、面白いひとだねー。見た目ターミネーターなのに」


「まじか。ターミネーター実物来てたの? 見たかったわ~」


「へっへーん。ぼく見ちゃったもんねー」


「まああいつの結婚式の時に見てるんだけどな」


「なーんだ」


 真琴が近づいてきて、ほっぺたにキスをしてきた。


「隙あらばキスするな」

「キス魔ですので♡」


「俺限定の?」

「そー♡」


 可愛いやつめまったく……。


「んで、まだ……0時か」


 今日は結構あっさりお開きになったな。

 普段はもうちょっと遅くまで飲むんだが。


「どうするお兄さん? 寝る?」

「んー……もうちょっと真琴と一緒に居たいかな」


「ほっほーう♡」


 真琴が、うれしそうに、とろけた笑顔を浮かべる。


「人妻たちと一緒に居て、自分も奥さんほしーにゃーって思ったのかな~?」


「ん……まあ。簡単に言えば、そうだな」


「お、おう……そっか……」


 真琴が顔を赤くして、自分の髪の毛を手ぐしで整える。


「うぅ~~~~~~~~~~~~~~~」


 顔を真っ赤にして、俺の胸に飛び込んでくる。


「ばかばかっ。なんでそんな不意打ちでうれしいこというのさっ!」


「うちの嫁さん、防御力ゼロだから。からかってて面白いんだよね」


「もうっ。悪い旦那さんだっ」


「嫌い?」


「大好きっ!」


 ちゅっ、と真琴がまたキスをする。


 俺は真琴を抱きしめて、よしよしと頭をなでる。


 彼女は俺の腕の中でおとなしくしてた。


「ね……お兄さん。ちょこっと、外散歩しない?」


「ん? どうした急に」


「酔い覚まし」


「ああ、なるほど……できた嫁だな」


「えっへん、できた嫁ですから」


 俺は上着を羽織って、真琴と一緒に部屋を出る。


 真琴の父・源太さんを起こすわけにはいかないので、抜き足差し足で玄関を歩く。


 がらっ、と扉を開いて、俺たちは外に出た。

「真っ暗だなぁ」

「田舎ですなぁ」


 俺たちは当然のように、手をつないで、田舎の夜道を歩く。


 都会と違って、音が静か……ってわけでもない。


 虫とか、カエルとか。

 特にここら辺は水田が近いので、めっちゃ騒々しい。


 街灯もほとんど無いから、周囲一帯が真っ暗だ。


 でも……ほどなくすると、目が暗い場所に慣れてくる。


 月明かりに照らされた田舎道と……。


 月下の美少女。


 真琴は……綺麗だ。


 長くつややかな髪の毛に、青い白い月の光が反射している。


 白い肌は月明かりを受けて、まるで妖精のように美しい。


「どうしたの?」

「俺の嫁、美人過ぎない?」


「あ、ば、ばかぁ~♡ んもぉ~♡ お兄さんって嫁自慢ですか~♡」


 真琴が俺の腕に抱きついて、きゅーっと力を込める。


 ぷりぷりのおっぱいに腕が挟まれ、そこからじんわりと幸せな気分が伝播してくる……。

「あー……嫁自慢って言えば、奈良井達に結局、あんま真琴のこと紹介できなかったなぁ」


 俺たちは夜道を、寄り添って歩く。

 思い出すのは、今日の飲み会でのこと。


 早々に俺は酔い潰れてしまってしまった。


「ごめんな、初対面のやつのまえに、一人きりにして」


「んーん。大丈夫だよ。由佳子さんたちいい人だったし……それに、にししっ♡」


 真琴が、いたずらっ子のように笑う。


「なんだ?」

「ん~? なんでしょ~?」


「気になるなぁ」

「じゃー、ヒント! いろいろ教えてもらいました」


 ああくそ、奈良井の野郎、絶対俺の昔のエピソード語ってるじゃん!


 梅雨の日に防具カビはやしてしまったとか、絶対言ってるよ! ……ったく。


「あーんな美人がそばに二人も居たのに、告ろうって思わなかったの?」


「ないない。奈良井は筋肉フェチのヘンタイだし、せつさんはおっかないし。もう旦那もいたからね」


「お兄さん雪さんの旦那さんって見たことある?」


 ……あれ?

 そういえば……。


「ねえな。いつも練習に来るときは雪さん一人だけだったし。あの人、絶対俺らの前じゃ旦那見せないんだよ。のろけ話めっちゃするけど」


「へー、きっと家でもいちゃいちゃしてるんだろうね」


「ああ。あんだけ旦那のこと大好きなんだから、おしどり夫婦なんだろうな。息子達がこんわくするくらいいちゃついてるぜきっと」


 真琴が俺を見上げて、ふふっと笑う。


「ぼくらもそういう家庭にしようね♡」


 真琴から同意を求められて……。


 以前の俺なら、戸惑ったり、恥ずかしがったりしただろう。


「おう、そうだな」


 しかし最近はもう、ぱっと答えられるようになっていた。


 真琴以外と、人生を歩んでいる姿が……全く想像できない。


 俺は真琴には、ずっとそばに居て欲しい。


 ほどなくして、俺たちは最寄り駅まで来ていた。


「駅まで来ちゃってたな」

「すっごい。普段なら歩いて絶対これないのにね」


 田舎は基本車移動だ。

 高校生くらいだと駅までチャリで通う。


 だがそれでも車でも自転車でも結構かかる道のりも……。


 あっという間に、俺たちはたどり着いてた。

「真琴はすげえな。俺から時間をするする奪ってく」


「楽しいと時間が過ぎるの早いもんね」


「それな。少し休んでくか」


 俺たちは駅の待合室に入る。

 当然のごとく電車は動いてない。

 というか22時には終電が終わる。


 これを逃すと家に帰れなくなる……。

 怖い、田舎怖い……。


 待合室のベンチに腰を下ろす。

 

 誰も居ない部屋の中で、真琴の息づかいだけが妙に響く。


「不思議だねぇ」


 真琴が俺を見上げて、くすっと笑う。


「ただの散歩なのにさ。お兄さんと一緒にいるだけで、特別な感じがする。めっちゃ楽しい!」


 真琴はいつも、どんなときも笑顔だ。


 裏表なく、まっすぐに、俺に好意をぶつけてくる。


 そのストレートすぎる感じが……うん、心地よいんだ。


「俺も真琴がいるだけで楽しいよ」


「おっ♡ 奇遇だねぇ~♡」


「ああ、奇遇だなぁ」


 俺と真琴は顔を見合わせて、笑う。

 こんな何でもないことなのに、俺の心は充実している。


 真琴と抱き合って、夜の駅の待合室で、キスをする。


 もう俺たちにとって、キスは当たり前の習慣になっていた。


 何か無くても、特別じゃなくても、俺は真琴と唇を重ねる。


「こりゃ完全にバカップルですな~」

「だなぁ」


 俺たちは笑って、手を重ね合う。


 しばらくして、立ち上がる。


「かえろっか♡」

「おうよ」


 ……俺たちはしっかり手をつないで、また来た道を戻っていく。


 帰りも、あっという間に家の前まで来ていたのは、言うまでもないだろう。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る