36話 車中にてイチャイチャ



 ゴールデンウィーク初日。

 俺は真琴と一緒に、実家に帰ることになった。


 俺は東京から長野へ、車の運転中である。


「おにーさんと旅っ行~♡ りょっこー♡ りょーこーおー!」


 助手席に座る真琴が、上機嫌に鼻歌を歌っている。


「上機嫌ですね、真琴さん」


「そりゃね! お兄さんと旅行できるなんて! 夢のようだよぅ~♡」


 えへへっ、と真琴が笑う。

 今日のお召し物はフワッとしたミニスカートに、シャツにベスト。ニーソックス、という出で立ち。


 野球帽をかぶってることもあって、ボーイッシュな感じがでてる。


「真琴さんや、おとなしく座ってるんだよ」

「もっちろん! いつもはぼくだけを見てて良いけど、今日はよそ見運転はだめだからね」


 意外と素直なところもあるんだよな、うちの嫁は。


「運転中退屈しないように、隣でぼくがずぅっとおしゃべりしてあげるからね!」


「そりゃありがてえ。まったく出来た嫁だなぁおまえは」


「えへ~♡ やー♡ それほどでも~♡ ぬへへへ~♡」


 俺は高速道路にのって、長野を目指す。


 目指すは長野北部。


「そーいえばお兄さん、このお車どうしたの? 持ってるの?」


「ん。まあなー。買ったはいいが全然乗らんが」


「もしかしてお兄さん……結構お金持ち? マンション持ってるし、車だってあるし」


「どうだろうな。よくわからん」


「お兄さんの会社ってなんていうんだっけ?」


「SRクリエイティブ」


 主に出版物を取り扱っている企業だ。


「えーっとSR……調べますよ……ええー! お、お兄さんこんな大きな会社務めてるのぉ!」


 真琴がスマホで検索していたらしい。

 なんだか照れるぜ。


「元々は小さな出版社だったんだが、なんか知らない間にでっかくなってたんだよな」


「はぁ~……お兄さんスーパーサラリーマンだったんだねぇ~」


「なんだそりゃ」


「ちょーすげーサラリーマンってこと! お兄さんまじすげー!」


「いやはや」


 車は順調に長野へ向けて進んでいく。


 いつもは長い道のりも、真琴がいれば楽しい。


 ほどなくして、サービスエリアに到着する。

 ちょうど長野東京間の、真ん中くらいのSA。


「お兄さん、お昼にしよー。ぼくおなかすいた~」


「まあちょうど昼だし、食ってくか」


「やたー!」


 割と大きめのサービスエリアだ。

 いくつもの店が中にある。


「なんかデパートみたいにおっきーい」

「割合有名だよここ」


「ほぉほぉ」

「おまえ長野来るとき立ち寄らなかった?」


「んー、寝てたからよくわからないかな」


 ……真琴も成長期。車の中なんて眠くて仕方ないだろう。


 だが真琴は俺が寝ないようにと、色んな他愛ない話をしてくれた。


 ほんと、いいやつだよ。


「飯にすっか。何食べる?」

「お兄さん何にする?」


「ラーメンかな」

「そんじゃー私もラーメン!」


「いいのか?」

「うん! お兄さんと一緒のモノ食べたいもんねー」


 俺たちは券売機の元へ行く。


「何で同じもん食いたいの?」

「思い出を共有したいのですよ~。お兄さんはわかってないなぁ乙女心」


 ちちちっ、と真琴が指を降って言う。

 だが馬鹿にしてるニュアンスはない。


 甘えてきてるのがわかる。


「なるほど……共有かぁ。勉強になるっす」

「でしょー♡ わっはっはー、ぼくっててんさーい」


「よっ、天才まこさん」


 俺たちはラーメンを注文。

 俺が金を払ってる間に……。


「おにーさーん! 席こっちこっちー!」


「おまえ……よく見つけられたな」


 俺は真琴の元へ行く。

 目を離したすきに、彼女は席をとっておいてくれたみたいだ。


「へっへーん。愛の力だよ!」

「そりゃ凄いな愛の力。ほかに何が出来る?」


「んー、どこに居てもお兄さんの居場所がわかる!」

「過ごすぎんだろ、超能力かよ」


 あほ話してると……。


「あ、バイブが鳴ってるよ」


 カウンターでもらった、完成を知らせる機器が振動する。


「バイブっていうなよ」

「名前わかんないしいいじゃん♡ あ、ぼくとってくるねー」


「あ、俺も……って、行っちゃった」


 万事手際の良い嫁だこと。

 とててて、と真琴がこちらにやってくる。


「へいおまちー」

「お、サンキュー」


 割り箸と水の入ったコップ、そしてコショウまで乗っていた。


 どれもセルフだった。


「おまえってほんとに気が利くのな」

「まーね! 嫁ですからっ」


 えっへん、と真琴が大きな胸を張る。


「もっと褒めてくれてもよくってよ?」


 ちらちら、と真琴が俺に目配せする。


「はいはい、すごいすごい」


 俺は真琴の頭をなでる。


「えへ~♡ これ好き~♡」


 ひなたぼっこしてる子猫みたいに、目を細める真琴。


「お兄さんと密室に長時間居るのに、いちゃつけなかったからさ~。お兄さん成分が足りてなかったのだよっ」


「そんな成分が……」


「足りなくなると……マコちゃんが夜の野獣になります! わおーん」


「ご褒美じゃねえか」


「ささっ、たべよーたべよー!」


 真琴が俺の真横に座る。


「正面あいてるだろ」

「いーじゃんいーじゃん♡ 恋人なんだからさっ」

「そらそっか」


 俺の真横に、ぴたりと寄り添うように座る真琴。


 ふたりでラーメンをすする。


「はふはふ……ふぅーふぅー……」


 真琴は長い髪の毛が、器に入らないように、片手で髪の毛を耳にかける。


 その動作が妙に色っぽく、ああ、こいつも女なんだなぁと思ってしまう。


「お兄さんお兄さん? 視線がえっちだよ~♡」


 にまーっ、と真琴が目を細める。


「真琴がエロい食い方するのが悪いな」

「のんのん、お兄さんが妄想力豊かなのが悪い。もうっ、どんだけお嫁さんのこと好きなんだいっ?」


「めっちゃ大好き」

「えへへ~♡ 私も~♡」


 ラーメンをずるずると二人で食べ終わった後。


 俺たちはサービスエリアを見て回る。


 当然のように真琴が腕を組んできた。


「おにーさんおにーさん! ソフト! たべよっ!」


「おう、そうだな。食後に」


 俺たちはソフトクリームを購入する。


「1本くださーい!」

「え? 1本?」


 戸惑っている間に、ソフトクリームが渡される。


「なんで1本なんだ?」

「んふふ♡ ふたりで1つのソフトを食べるからでーす」


 真琴がニコニコしながら答える。

 まったくこいつは、隙あらば俺とそういうことしたがるな。


「お外行こー。天気も良いし」

「あいよ」


 俺は真琴とともに、建物の外、ベンチに座る。


「ぺろぺろ……ん~♡ あまいっ♡ はいお兄さん♡」


「おうよ」


 真琴が笑顔で、持っていたソフトクリームを俺に向ける。


 俺は真琴がなめてない部分を、なめようとして……。


「秘技、大回転!」


 くるん、と真琴が回転させると、俺に自分がなめた部分を向ける。


「おまえなぁ……」

「だめだめ、間接キスになるからこそいいんじゃないかー」


「はいはい」


 俺は真琴と代わる代わる、ソフトクリームをなめる。


「じゃそろそろ本番いこっか♡」

「なんだ本番って」


 俺の顔の前にソフトを持ってくる。


「一緒にペロペロするの♡」

「おいおいそんなこと……」


「できないのー? いくじなしー」

「なぁに~。よしやるか。はずかしがっても知らねえからなぁ」


「そっちこそー!」


 俺たちは顔を近づけて、ふたりでソフトクリームをなめ合う。


 顔が近い。真琴ってほんとに、可愛いな……。


 目でかいし、顔ちっさいし、唇はみずみずしいし……舌は小さくてかわいい。


 髪の毛もさらさらで、肌もつやつやだ。


 普段キスするときは、お互いに目を閉じる。

 だが今はソフトを一緒に食べているので、彼女の顔を至近距離で見れた。


「お、お兄さん……ガン見しすぎだよ……」


 顔を離して、照れる真琴。


「なんだおまえ、この程度でドキドキしてるのか」


「だって普段ちゅーするときは目ぇ閉じるじゃん。だからこう……じろじろ見られて……恥ずかしくなっちゃって……」


 もじもじ、と真琴が身をよじる。


「裸も見られたことあるのに、真琴さんはこの程度で照れちゃうんですね」


「にゃ゛! も、もうっ。お兄さんのばかぁ~♡ 罰として、残りのソフトはこうやって食べてもらいます!」


 ぱくんっ、と真琴が残りをまるっと食べる。

 そして笑顔で、俺に唇を向けてくる。


「く、口移しっすか……」

「ん~♡」


 車を運転してないとはいえ、人前でこんな風にいちゃつくのは……。


 いや、待てよ。

 真琴とはあんまり今日いちゃついてない。


 し、実家に行ったら、なおのこといちゃつけなくなる。


 ならばここでその分をやっておくのも、また一興だろうか。一興って何だ。わからん。だがまあいい。


「はいはい、まったくしょうがないなぁ」


 俺は真琴とキスをする。


「んちゅ……♡ ちゅぷ……♡ んぶ……ふ……ふぅ♡」


 唾液とクリームとがからみあって、口の中が甘ったるくて仕方ない。


 一瞬でソフトクリームが、真琴の体温でドロドロに溶ける。


 ソフトクリームに蜂蜜をぶち込んで煮込んでいるような、そんな甘さがあった。


 ややあって……俺たちは口を離す。


「甘いね~♡」

「だなぁ」


 真琴が俺の肩に頭を乗っけてくる。

 ふわりと香る彼女の髪の良い香り。


「運転お疲れ様。もうちょっとがんばれ♡」


 真琴が応援してくれるなら、ちょっとどころか地の果てまで、頑張れそうだ。

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