35話 会社でプチ修羅場、社員旅行の予定



 ゴールデンウィークに、真琴と旅行へ行くことになった。


 その前に仕事を片付けねば!


「おはーっす」


 俺が出勤すると、すでに小柄な少女がいて、俺の机を掃除していた。


「あっ! せんぱいっ! おはようございますー!」


「おう、安茂里あもり。おはよ」


 小柄でめがねをかけたこの子は、安茂里あもりひな。


 俺の後輩だ。


 一見すると女子中学生だが、立派な社会人。

 胸は結構あるほうだ。


「毎日えらいなぁ、掃除して」

「はいっ! 一番下っ端ですから!」


「いやいや、もう下っ端じゃないだろ」


 今年の4月に、新入社員達が入ってきた。


 うちの会社、SRクリエイティブは大企業で、凄い人気がある。


 そのため、ほぼ毎年のように新入社員が入ってくるのだ。


「いえ! わたしなんてまだまだです! 皆様に迷惑かけてるのは事実なので、せめてお掃除はしないとです!」


 ううーむ、相変わらず真面目な良い子だなぁ。


 俺が席に座ると、ぱたぱた、と安茂里あもりがかけてくる。


「コーヒーどーぞ!」

「あんがと」


 俺はPCを立ち上げる。


 画面には、そわそわ……と安茂里あもりが俺の後ろをうろついてる姿が映る。


「どうしたん?」

「あ、あのぉ! その……ご、ご、」


「ご?」


 安茂里が顔を真っ赤にして、何かを言いかける。


「ご、ゴールデンウィークのご、ご予定とかって……どうなってます?」


 かみかみになりながら、安茂里が問うてくる。


「予定? まあ前半2日は実家の方へ帰ろうと思ってるけど」


 真琴と長野の実家に帰る予定なのだ。


「で、でしたらその……こ、後半は……その……あの……ええっと……わ、わたしと……そ、そのぉ~……」


 ハキハキしゃべる安茂里にしては珍しく、言いよどんでいた。


 と、そのときだった。


「おーっす! 貴樹たかき君!」


「アンナ先輩」


 ロシア系美女が、笑顔で俺の元へやってくる。


 スタイル抜群で、背の高いこの人は、アンナ・塩淵しおぶち


 俺の先輩だ。


「しゃー!」


 安茂里がアンナ先輩に牙をむく。

 だがポメラニアンが威嚇してる風にしか見えない。


「おはよう、わんちゃん♡」

「犬じゃないですー!」


 しゃっ、しゃっ、と威嚇する安茂里を、アンナ先輩がさらっと流す。


「ねえねえ貴樹たかきくん♡ ゴールデンウィークさ~。これ参加する?」


 ぱさっ、とアンナ先輩がチラシを見せてくる。


「社内旅行?」

「そ。といっても日帰りだけどね。バーベキュー」


「へえ~そんなイベントが」


 この会社、結構定期的に、社内での交流会みたいなものが開かれる。


 人とのつながりを社長が大事にしてるんだそうだ。


 しかも驚くのはこういう社内旅行、参加費無料。


 しかも社内旅行は仕事扱いになって、代休までくれるのだ。ホワイト過ぎない?


貴樹たかきくんどうする?」


 チラシには、開催時期はゴールデンウィーク4日目と書いてあった。


 これなら参加できそう。


「行きます」

「ん、オッケー♡ じゃ参加に丸しておくとして~……」


 にこにこ、と笑いかけて、アンナ先輩が言う。


「ゴールデンウィーク、あたしと旅行いかない?」


「ちょっと待ったぁあああああああああ!」


 俺の前に、安茂里が立って、両手を広げる。


「あらどうしたの、わんこ?」

「犬ちゃいますよ! なにせんぱいを旅行にさらっと誘ってるんですかっ!」


 しゃー! と安茂里が牙をむく。

 犬歯がかわいらしく、また子犬感を増してる。


「別にいいでしょ? あたし暇なんだもーん」

「残念ですが、せんぱいはご実家に帰るそうなのでっ! 旅行にはいけません残念ですが!」


貴樹たかきくん、本当なの?」


「ええ、前半2日は」


 にまーっ、とアンナ先輩が笑う。


「じゃー、後半で。最終日とか暇なら行かない? 熱海とか♡」


「駄目に決まってるじゃないですかー!」


「あらなんで?」


「だってそれは……その……わ、わたし……わたしも……その……」


 もにょもにょ……と言いよどむ安茂里。


 さっき何か言いかけてたな。


「はいじゃまー♡ ね、貴樹たかきくんどう?」


「うーん……最終日も、ちょっと無理ですね。後半もできれば開けておきたいかな」


 アンナ先輩が小首をかしげ、安茂里がなぜかがっかりと肩を落とす。


「しょんにゃぁ~……」

「あらら、何かご予定でも?」


 途中で真琴の誕生日が入るのだ。

 部活はあるっていっていたが、終わった後に何かしてやりたいしな。


「まあちょっと」


 ……さて。

 ここで俺と真琴の関係を、会社ではどうなってるか語っておこう。


 晴れて俺は真琴と結ばれた。

 4月からカップルとなったわけだ。


 そこで問題が一つ。

 会社内でこのことを公言するか否か。


 俺が選んだ答え。


 それは……黙っておくことにした。


 理由は単純で、騒ぎにしたくないからだ。


 俺の付き合ってる相手が、JKだと知ったら、格好のゴシップネタになるだろうことは容易である。


 しかも付き合う前から同姓していた、となればもう大騒ぎ必死だ。


 ゆえに俺は黙っておくことにした次第。


「ふーん……ちょっとって何かな~?」

「まあ個人的な事情です、はい」


 じーっ、とアンナ先輩が、青い瞳で俺をのぞき込んでくる。


「個人的なじじょーって~?」

「……黙秘で」


「気になるなぁ~……。教えてよ~♡」


 ぐりぐり、とアンナ先輩が俺の頬を指でつつく。


「いや、ちょっと……」

「せんぱいっ! わ、わたしも……気になります!」


 安茂里が大きなくりくりとしたおめめで、俺を見てくる。


 じーっとまっすぐ見つめられると、黙っていることに罪悪感を覚える。


 ええい、駄目だ。

 言ったら大騒ぎになるんだぞ!


「マジで大事な用事なんで」

「それはアンナ先輩との旅行デートよりも大事なことですかにゃ~?」


「それは、もちろん」


 ぴしっ、とアンナ先輩が固まる。


「そ、そっかぁー……」


 ……いつも笑顔を絶やさないアンナ先輩が、表情を曇らせる。


「す、すんません……」

「アンナ先輩……どんまいです! みぎゃー!」


 こねこね、とアンナ先輩が安茂里のほっぺたをこねる。


 二人と会話していると……。


「「「おはようございますー!」」」


 ぞろぞろと、男性社員達が出社してきた。


 もうそんな時間か。


「アンナさーん!」


 どどどっ、と社員達が俺の元に……というより、アンナ先輩の元へ来る。


「ゴールデンウィーク暇っすか!?」

「暇ならおれとデートでも!」

「いや旅行でも!」


「「「どうっすか!?」」」


 相変わらずアンナ先輩は、男性社員達に超絶人気があるな。


 先輩はニコッと笑うと。


「ごめんなさい♡ 今年は予定もういっぱいなの♡」


「「「そんなぁああああああああ!」」」


 がくんっ、と膝をつく男性社員達。


 あれ? 予定いっぱい?

 さっき俺に旅行の予定を聞いていたような……。


「あ、でも社員旅行にはいくよー♡」


「「「うぉっしゃああああああああああああああああああああ!」」」


 絶望フェイスから一転、男達は狂喜乱舞する。


「たのしみっす!」「アンナさんとお近づきになるちゃーんす!」「いやぁ楽しみだなぁ!」


 社員旅行ってみんなそんな乗り気なのな。


「あ、みんな行くんだ。俺も行くんですけど」


「「「おまえは来なくて良い!」」」


 ひどい! なんで!?


「おまえは●ね」「おまえの席ねーから」「アンナ先輩に近づくな」


 先輩を守る番犬みたいに、ぐるるる……とうなり声を上げる男性社員達。ひどい。


「まあまあ♡ みんな仲良く旅行行きましょうね~♡」


「「「はーい! ぼくたち仲良しでぇえええええええええす!」」」


 社員達が俺と肩を組んで笑顔で言う。


 背中をぐにーっとつねられてるんですけど!?


「……わかってるなぁ薮原やぶはらぁ」「……当日は休めよ薮原やぶはらぁ」

「……来たら処すぞ」


 これいかないほうがいいのでは、俺……。


「あのあの、せんぱいっ」


「「「ん? なにかなぁ~ひなちゃんっ!」」」


 男性社員達がデレッとした顔になる。


 おまえら、アンナ先輩狙いじゃないのかよ!


「あ、せんぱいっていうのは、薮原やぶはらせんぱいのことです。すみません」


「「「薮原やぶはらぁああああああああああああああああ!」」」


 鬼の形相でにらまれる俺。

 ええ!? なんで?


「アンナ先輩だけじゃ飽き足らずひなちゃんまでぇ!?」

「おまえはハーレム系主人公かぁ!? ああん!?」

「処す? 処す?」


 男性社員達に恨みを向けられる俺……。


「なんでそうなるんだよ。別に俺と安茂里はなんでもないし。なぁ?」


「……はぃ。しょーでしゅねぇ~……」


 しおしお……と安茂里がしおれていく。

 え、なんで?


「てめえこのやろう!」「ひなちゃん泣かせてるんじゃねえぞ!」「ひなちゃん、こんなやつほっといて、お兄さん達と飴食べよう?」


 すると安茂里が、ふるふる、と首を振る。


「大丈夫です! 泣いてないです! あと、薮原やぶはらせんぱいはこんなやつじゃありません! 最高の先輩です!」


「「「薮原やぶはらぁああああああああああああ!」」」


「なんでだよ!?」


 俺は男性社員達に関節技をかけられる!


 痛い痛い痛い!


「あ、アンナ先輩たすけて……」

「だめだよーみんな♡ 仲良しじゃなかったの~♡」


「「「まぶだちでぇええええええええす!」」」


 一瞬で俺を解放する野郎ども。

 ったく……。


 と、そのときだ。


「……いつまで騒いでるの、あなたたち」

「「「部長!」」」


 桔梗ヶ原ききょうがはら 千冬ちふゆさんが、出社してきた。


 めがねをかけた仕事の出来る風体。

 

 目を見張るほどの爆乳が特徴的だ。


「……そろそろ始業よ。席に着きなさい」


「「「はい!」」」


 アンナ先輩を含めて、みんなが席に戻る。


「……薮原やぶはら君」


「あ、はい。なんすか?」


 ちょいちょい、と手招きする。


「……ゴールデンウィーク、暇?」

「え?」


「……あ、ううん。他意はないのよ。真琴ちゃんと出かけるだろうし……でも、1日くらい暇ない?」


 千冬ちふゆさんは俺と真琴が付き合っていることを知っている。


「えっと……未定ではありますが、真琴の誕生日もあるんで……予定は入れたくないです。すみません」


「………………そう」


 しょんぼり、と千冬ちふゆさんが肩を落とす。


「あ、誕プレ買いに行こうかなって思ってて」

「……付き合うわ! プレゼント選び!」


 ぐいぐいっ、と千冬ちふゆさんが来る。


「……約束よ、プレゼント選ぶの手伝うから」


「あ、は、はい……」


 千冬ちふゆさんが自分の席に戻っていく。


「相変わらず部長はおっかねぇ」「まったくだ」「今朝も怒ってるしよぉ」


 そうだろうか、結構上機嫌のような気がするが……。


薮原やぶはらよ。わかってるな?」


 俺の右隣に座る男性社員が言う。


「社員旅行、わかってるな?」「空気読めよ」「おれらのジャマしたら処すからな」


 別にジャマなんてしないよぉ~(泣)

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