33話 イケメン先輩より俺の方が好きらしい



 4月下旬、俺は真琴まことの応援に、代々木にある体育館へとやってきていた。


 真琴たちのチームは見事に勝利を飾る。


 1日に2試合あったが、どっちも勝った。


「おにーーーーさーーーーーーん!」


 体育館の入り口で待っていると、ジャージを着た真琴が、笑顔でかけてくる。


 とんっ……! とジャンプすると、俺にコアラみたいに抱きついてきた。


「どうだったどうだったー?」

「おう、めっちゃかっこ良かった。最高だぜ」


「えへへ~♡ そう~♡ ありがとー!」


 ぐりぐり、と真琴が抱きついたまま頬ずりしてくる。


 頭をなでられた子猫みたいに、目を細める。


「はっ!」


 真琴が俺から、ばっ、と降りて距離を取る。


「? どうした」

「う~……シャワーあびてなかったから、汗臭いかも~……」


 そうだろうか。

 俺は真琴に近づいて、抱きつく。


「ひゃっ♡」

「すんすん……うん、めっちゃ良い匂い。というか、むしろ好きだな」


 運動後の真琴は、南国のフルーツみたいな甘酸っぱいかおりがした。


 汗で長い髪が首筋に張り付いてるものあって、エロい。


「も、も~♡ ばかぁ~♡ お兄さんってばヘンタイなんだから~♡」


 そういいつつ真琴がぎゅーっと俺に抱きついてくる。


「勝ったよぼく! ご褒美欲しいな~」

「はいはい」


 チュッ……♡


 俺たちは正面で抱き合って、キスをする。


「もういっちょ!」

「なんでやねん」

「2回勝ったから!」

「なるほど確かにそれはそうだな」


 チュッ、チュッ……♡


「えへへ~♡ お兄さん大好き~♡」

「奇遇だな、俺も大好きだ」


「そーしそーあいだねっ」


 チュッ、チュッ、チュッ♡


「だな」


 チュッ、チュッ、ちゅっ♡


 ……まあ帰り際で人が少なかったから良い物を、端から見たらただのバカップルだなこれ。


 と、そのときだった。


岡谷おかや


 俺たちが振り返ると、そこにはかなりのイケメンがいた。


「なんだあいつ?」

「男バス……男子バスケットボール部のキャプテンの【乗鞍のりくら】先輩だよ」


 乗鞍は、190くらい身長があった。


 亜麻色の髪の毛、ワックスでセットされている。


 細マッチョで、足が長い。

 右目の下の泣きぼくろが色っぽく、体型は細マッチョ。


 なんだこいつ、女子向け漫画のヒーローかよ!


「何で男バスのキャプテンが?」

「今日はアルピコは、男子もここで試合あったんだ」


「ふ、ふーん……」


 死ぬほどどうでも良い……。

 え、なんでこんなイケメンが真琴に声かけてきたんだ?


岡谷おかや。みんなでこれから打ち上げに行くんだけど、よければ君もどうだい?」


 乗鞍は俺と目が合う。

 すぐに何か察したような顔になる。


「ごめんね乗鞍のりくらキャプテン! 用事があるんだ!」


 真琴が笑顔で、俺の腕に抱きつく。


 乗鞍のりくらより俺を選んでくれたことがうれしかった……。


 だが、疑念はある。

 このイケメン、もしや真琴に気があるのでは……と。


「そちらの人は君の彼氏かい?」


 俺はそうだ、と答えようとする。

 お前は手を出すなと。


 だがここで真琴に彼氏がいる、と肯定してしまえば、学校にて変なウワサが立つかもしれない。


 と、思っていたのだが。


「そう! ぼくの大好きな彼氏ー! かっこいいでしょー! えへへ~♡」


 ……イケメンに対して、はっきりと、真琴が彼氏だって言ってくれたのがうれしかった。


「はじめまして、男バスのキャプテンの、乗鞍のりくら蒼太そうたっていいます」


「あ、ああ……薮原やぶはらだ。真琴が、世話になってるな」


 俺が言うと、乗鞍はイケメンスマイルのまま首を振る。


「いえ、こちらこそ。岡谷おかやのおかげでチーム内の雰囲気が明るくなってますし、なによりチームの勝利に彼女はとてもよく貢献してくれてます」


「そーだー! もっと褒めてくれきゃぷてーん! ぼくがすごいってこと、お兄さんに自慢してー!」


「ああ、きみは凄い人だよ岡谷おかや


「えへへ~♡」


 ……ああ、なんだろうか。

 真琴は、きちんと俺が好きって宣言してくれたのに。


 真琴が……俺以外の男に笑顔を向けているのを見ると……。


 こう、もやっとする。


「ごめんキャプテン。ぼくこれからお兄さんと帰るから、打ち上げは無理!」


「わかった。みんなには上手く言っとくよ。付き合ってるのは……内緒なんだろう?」


「んー。まあ別に言っても良いけど、そうだね。詮索されるのもめんどうだし!」


「わかった。じゃあ適当に理由つけておくから」


 ……ああ、いかん。

 いかんな。どうにも、もやっとする。


 乗鞍は俺を見て笑顔になる。


「それじゃ、失礼します」

「あ、ああ……じゃあな」


 乗鞍は手を振って俺の元を去って行く。


 あとには真琴と俺が残される。


「さーって、お兄さんかえろー……わわっ」


 俺は真琴を、ぎゅーっと抱きしめる。


 離すまいと、離すまいと……。


「ど、どうしたの……?」

「……いや、なんか、な」


 真琴の細く、柔らかな体を強く抱きしめる。

 真琴は首をかしげていたが、ぎゅっと抱き返す。


「そっかそっか♡ 乗鞍せんぱいと私が仲良くしてて、嫉妬しちゃったんだね~♡」


「うぐ……ああ、そうだよ!」


 俺は真琴を抱きしめ、離さないようにと、また強く抱きしめる。


「うんうん、わかるよー。乗鞍せんぱい顔いいもんね。背も高いし、性格もイケメンだし」


 ヤサシイ声音で真琴がささやく。

 ぽんぽん……と背中をたたく。


「ああ……」


「でも、私は先輩より、お兄さんの方が大大だーいすきだよっ♡」


 真琴が俺のことを見上げると、笑顔を向ける。


「先輩なんかよりお兄さんのほうがかっこいいし、やさしいし……! 何億倍もいいもん!」


「真琴……!」


 俺は真琴と口づけを交わす。


「んちゅ♡ ちゅ♡ んぷ……はぷ……ちゅっ♡ ちゅっ♡」


 真琴がうれしそうに目を細めて、舌をからめてくる。


 ゼリーのようにみずみずしく、はちみつよりも甘く、そして……熱い。


「も~♡ お兄さん激しすぎ~♡」

「すまん……なんか、おまえが欲しくて……」


「ぼくが誰かの男に取られちゃうとか思って?」

「ん……まあ平たく言えば……」


 真琴が、実にうれしそうに笑う。


「残念ですが、岡谷おかや真琴は、もう薮原やぶはら 真琴になることがけってーしてますので! 永久就職が、決まってますので!」


「真琴……」


「もう身も心もぜーんぶお兄さんのものだよ♡ 初めてだってお兄さんにあげたでしょー♡」


 ぎゅっ、と真琴が俺に抱きつく。


「ぼくはお兄さん以外のものにはならないよ♡」


「ありがとう……真琴……」


「だからお兄さんもぼく以外の女といちゃいちゃしないでね♡」


 ぎゅーっ、と真琴が俺の背中の肉をつまんできた。


「なんのこと?」

「お兄さん【いっちゃん】といちゃついてたでしょっ」


 ぷくーっと真琴が頬を、リスみたいに膨らませる。


「いっちゃん……?」

贄川にえかわ 五和いつわちゃんだよっ」


 ああ、なるほど……そういえばクラスも一緒で仲が良いって言ってたな。


 五和ちゃん、真琴のことをマコって呼んでたし。


 俺たちが客席で一緒に居たの、見ていたのだろう。


「いっちゃんのほうがいいのっ? もう浮気っ?」


「落ち着けって。ただ世間話してただけだよ」


「なんでっ? ぼく以外の女の子と会話するのっ? ぼくのことだけ見ててよー!」


 おや、これは……嫉妬してくれてるのか。

 ははっ、可愛いとこあるじゃあないか。


「そっかそっか。五和ちゃんと俺が仲良くしてて、嫉妬しちゃったんだな」


 さっきのお返しとばかりに、俺は同じようなことを真琴に言う。


「うぐ……そうだよ!」


 俺は真琴を抱きしめ、離さないようにと、また強く抱きしめる。


「うんうん、わかる。五和ちゃん顔いいもんな。背も高いし、性格もイケメンだし」


「う~……お兄さん……いじわるー……さっきの私の仕返し~?」


「そう、仕返し」


 ぷくーっ、と頬を膨らませる真琴が愛らしく、その小さな唇に、キスをする。


「ちゅ……♡ ちゅぷ……♡ んふ……ふぅ……♡」


 俺たちはさっきよりも情熱的で、激しいキスをする。


 しばしそうしたあと、顔を離す。


「もう……お兄さん……いじわるだ」

「いやまあ……すまん。やりすぎた」


 俺たちは自然と手をつないで、歩き出す。


「でもね、うれしかったよ。応援にきてくれたことと、あと、嫉妬してくれたの」


 ぎゅっ、と真琴が腕に抱きつく。


「本当にあの先輩とは、なんともないんだな?」


「ないない。とゆーか、先輩には恋人いるよー」


 俺は立ち止まって、ぐっ、とガッツポーズをする。


 良かった……真琴を取られることはない。


「どったの?」

「いやなんでも。んじゃ帰りにお祝いしようか。何食いたい?」


「ラーメン!」

「おう。じゃ食って帰るか」

「うんー! じゃ、そのあとラブホね~♡」


 真琴が顔を赤くして、笑顔で言う。


「なんか試合で興奮しちゃって、体もムラムラしちゃってさ~♡」


「そ、そうか……」


 真琴が俺の股ぐらをみて、ぺろんっ、と手でなでる。


「お兄さんもなんだかんだ言って、おっきくなってるじゃーん」


「いやまあ……真琴の汗のにおいが、えっちでな……つい……」


「えへへ~♡ じゃあいっぱいしちゃおう! ドロドロのくたくたになるまでー!」


 真琴がるんるんとスキップしながら、駅へと向かうのだった。

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