27話 渋谷デート、お昼ご飯



 真琴に想いを告げるため、渋谷にデートに来ている。


 休日、しかも春休みということもあって、若者が溢れかえっていた。


「うう……人が多すぎて目が回りそうだよぅ」


 真琴が周囲を見渡して言う。


「一番栄えてる長野駅周辺なんかと、比べものにならんだろ、ここ」


「うん! やばい……人間ってこんなたくさんいるんだね」


「魔王っぽいななんかそれ」


「ふはははー! ものども、マコちゃん大魔王のお通りだ! 死にたくなければどくがよい!」


 昔のノリの真琴を見てると、ああ、やっぱり俺の知ってる彼女なんだなと安心する。


 特に、今日の真琴はめかし込んでて、完全に別人だった。


 白いワンピースを着た、清楚な都会の美少女。


「む? どうしたのお兄さん?」

「いやまあ……」


「今日のマコちゃんはいつも以上にかわいいなー?」


「ああ、かわいいなぁって」


 ああくそ! またやっぱり言葉がするっと出てしまう!


「うんうん、そっかー。よーやくお兄さん、自分がラッキーな位置に居ることを自覚してくれたかー」


 そりゃそうだ。

 こんな超絶美少女が、こんな平凡で何の特徴もない男の隣に、居てくれるんだからさ。


 ラッキー以外の何物でもないよ。

 

「お昼どこでたべるの?」

「美味いイタリアンが近くにあるから、そこに」


「い、い、イタリアン!?」


 真琴が旋律の表情を浮かべる。


「そんな……お兄さん、だいじょうぶ? 破産しない?」


「いやいや、そんな高くないから安心しなって」


「そ、そっか……嫌だよ、将来はお財布を共有するのに、その前から破産するなんてっ」


「馬鹿野郎、そんなことするかよ」


 俺たちはイタリアンの店へと向かう。


「……お財布を共有するのは、否定しないんだね」


「……ん。まあ……な」


 妙な空気が流れる。

 多分もう、向こうは完全に、雰囲気で察してるんだろう。


 さっきから真琴が、チラチラと俺を伺い、そわそわ……と何か言いたげだ。


 多分俺からの告白を、まだかまだかと待ちわびているのだろう。


 そんな姿も、本当にかわいらしい。


「ほら、店ついたぞ」

「う、うん……!」


 こじゃれた感じのイタリアンの店だ。


 俺たちは受付を済ませて席へと向かう。


 周りには俺達以外のカップルも結構見受けられる。


 ……いや俺たち以外のカップルって……。


 ま、まあもう……ね。

 今更……ね。


 俺はランチを注文して、しばし真琴と待つ。


「わー! しゃれてるじゃん! お兄さんのくせにっ、田舎者のくせにっ、なまいきだぞ~♡」


「真琴おまえこういう都会っぽいレストランに入りたいんじゃないかって思って連れてきたんだが、そうか、田舎者じゃない真琴さんはうれしくないんだなぁ~」

 

 すると真琴がぷくーっと頬を膨らませる。


「そんなこと一言もいってないじゃん! お兄さんのいじわるっ! そんな子に育てた覚えはないよっ」


「残念だがおまえに育ててもらった覚えはない。まあ……俺の子は育ててもらうけど」


「ぴぇ……!」


 真琴が顔を真っ赤にして、目をむく。

 くく……かわいいやつめ。この程度で赤くなりよって。


 本当に防御力ないなこいつ……。


「い、いい、いいともっ。お兄さんの赤ちゃん、ぼくすっごい溺愛する! そんで、ぼくが独占する! その子が成長してお父さんのこと嫌い~って言っちゃうくらいにっ」


「ほー、俺の子を生むことは受け入れてるのか。そーかそーかぁ」


「あ……ぅ……ぅぅ……」


 真琴がうつむいて、もじもじとする。

 耳の先まで真っ赤にしているのがたまらなくかわいらしい。


「お、お兄さん……今日はなんだか意地悪だ……」


「嫌か?」


「……ううん。すごく、イイと思う」


 真琴がふにゃりと微笑んで、照れながら言う。


「ちょっとオラオラな感じのお兄さんも……素敵だよ」


「お、おう……」


 こう、ずっとしおらしい態度を取られると……。

 

 調子狂う……というか、普通に別人のように思えてくる。


 真琴は黙っていれば深窓の令嬢チックな見た目をしている。


 イイとこのご令嬢をからかってるような気分になって、背徳感がやばい。


「……りょ、料理、楽しみだね」

「お、おう……そうだな」


 もじもじ、と真琴がテービルの上に指を置いて、【の】の字を描く。


「私は料理の後も……楽しみ、かな。むしろ……そっちのほうが、かも」


「そ、そうか……」


 ちらちらちら、と真琴が俺に期待のまなざしを向けてくる。


 どうにも、一秒でも早く、俺から告白してもらいたそうだった。


「…………」


 だがさすがに、人前で告るなんてレベルの高いことはできない。


「ま、まだかなぁ~? お兄さん、まだかなぁ~?」


「ま、真琴さんや。焦るでない。まだ早いぞ」


「そ、そうかなぁ~? もう……十分待った気がするんだけどなぁ~?」


「も、もうちょっとだから……な? もうあと我慢しなくていいから……さ」


 端から見れば、料理がまだ来ないか、を話し合ってるカップルだろう。


 だが……違うんだ。


 俺も真琴も、告白イベントについてのことしか言ってない。


「もう……準備万端なんだけどなぁ……」


「じゅ、準備って……?」


 真琴がポシェットの中身を、ちらっ、と見せる。


「なっ!? そ、それは……いつぞやの……!」


 真琴が薬局で買って、そのまま行方知らずだった、ゴムだった。


 持ってきていたのか……!


「ちなみに今日の私……すごいの履いてるよ」


「す、凄いの……!?」


「うん。この清楚なワンピースの下に……どエロいのが……」


「どエロいの!?」


 なんて……ことだ……。

 そんなの……見たいに決まってるじゃあないか……!


「ね? 早くして……ほしいでしょ?」

「ああ……欲しいな、さっさと」


「ね? もう待ちきない、我慢の限界だよぉ……♡」


 と、そのときだった。


「お待たせいたしました」


 ウェイターさんが俺たちの前に、美味そうなパスタを置く。


「大変お待たせしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」


 だが俺も真琴も、ぽかんとしてる。


 え、なに?

 なんでこのウェイターさん、申し訳なさそうなの……?


「随分と、当店の料理を待ち望んでもらっていたようで……」


 ああ……! そういうことか!

 店の人、勘違いしちまったんだ!


 俺たちが料理早くこないかなって、待ってるのだと!


 俺も真琴も、恥ずかしさが限界突破していた。


 だって!

 本当は早く告って、お互いエッチなことしたいって思ってるだけだからだ!


 ぐわぁああ……!


「え、えっと……大丈夫です。あの、急がして、すみませんでした」


 ウェイターさんに謝ると、彼はいえいえと言って、去って行った。


 後には美味そうな料理二人前と、気まずい雰囲気の俺たち。


「か、勘違いさせちゃったね……」

「そうだな……悪いことしちゃったな」


 ぷっ、と真琴が吹き出す。


「おっかしいでやんのー」

「なんだよ、おまえだって共犯だろうが」


「あれあれ~? ぼくは一言も、えっちぃことなんて言ってませんけど~? 料理が待ち遠しかっただけですが~?」


「その割には顔真っ赤だったのは、なんでですかね~?」


「ぴゃう……! も、もうっ! 早くたべよっ! せっかくの料理が冷めちゃうでしょ-!」


 照れた真琴がスプーンとフォークを手に取って言う。


「はいはい。じゃ、いただきます」

「いっただきまーす!」

 

 真琴がパスタをくるくるとフォークで巻いて、口に含む。


「ん~~~~~~♡」


 ぱたぱたぱた、と真琴が足をぱたつかせる。


「うっまい! すっごいうまい!」

「そりゃ良かった」


 ぱくぱくぱく、と真琴がパスタを食べていく。


 俺も口に含む。うん……うまい。


「おにーさん♡」

「ん? どうした?」


 くるくると巻いたパスタを、俺に向ける。


「あーん♡」


 あ、こいつ俺をからかってきてるな。

 人前だからって、俺が照れると。


「むふふ~♡ どーせお兄さんのことだから、恥ずかしがってできないでしょー? ぼく知ってるんだから……」


 ぱくっ。


「きゃぅっ……!」


 もぐもぐ……ごくん。


「美味いな」

「あ、あわ、あわわ……お、お兄さんそんな……こんな人前で、あーんをするなんて……!」


「俺もいつまでもやられっぱなしと思ったか真琴くん?」


「ぐぬぅ~! おかえしじゃー! ほら、お兄さんかもんっ! あー……♡」


 真琴が小さな口をあけて、俺にパスタを要求する。


 俺は真琴に食べさせてあげる。


「ん~♡ お兄さんに食べさせてもらうと、二億倍くらいおいしいよ~♡」


 その後俺たちは、パスタがなくなるまで、あーんしあった。


 ……付き合ってもないのに、なんだこのバカップル感あふれるムーブは。

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