20話 風邪引いて弱ってる真琴の世話する



 年下幼なじみ真琴まことが、風邪を引いた。


 俺は会社を休んで、彼女の看病をしている。


「真琴~。昼飯できたぞー」


 俺の部屋で寝てる、真琴のもとへ向かう。


「ん……」


 もそもそ、と真琴が体を持ち上げる。

 顔が赤く、汗もだらだらかいてる。


「うどんだ。食べれるか?」

「うん……」


 真琴が布団から出ようとする。


「ああ、いいから。寝てろ」

「え?」


 俺は折りたたみテーブルにうどんをのせる。

 小鉢に少しよそって、準備完了。


「ほら、口開けろ」

「え……?」


「ほら、あーん」


 真琴は目を丸くしていた。

 だが、素直に口を開ける。


 じゅる……。


 もそもそ、と咀嚼する。

 真琴は何も言わず、小さく口を開けた。


 どうやら口に合ったみたいだ。


「ほら、あーん」


 真琴が何も言わず、素直に淡々とご飯を食べ行く。


 嫌がってる様子はない。

 もう一口、と口を開けて要求してくる。


 ……いつも、元気いっぱいで、黙っているときがほとんどない彼女が。


 こうして、しおらしくしてる姿は……。


 なんというか、守ってやらなきゃ、って使命感に駆られる。


 それに、うん、かわいいな。


「よし、全部食べられたな。偉いぞ」


 真琴の頭をなでる。

 彼女は小さく微笑んで、俺にされるがままになっている。


 ……こう、あれだな。

 いつもだったらからかってくるような場面で、こうしてされがままになってるのが、いつもと違って新鮮だな。


「薬飲もうな」

「…………ゃ」


 ふるふる、と真琴が首を振る。


「……苦いの、やだ」


 甘党だったな、こいつ。


「駄目だ。風邪が治らないぞ?」

「……じゃあ、飲めたらご褒美ちょうだい」


「ああ、いいとも」


 真琴は嫌そうに、しかしこくり、とうなずく。


 俺は市販の粉薬を真琴に渡す。

 実に嫌そうな顔をしていたが、一気に飲む。


「うぅ……にがいよぉー……」


 舌を出してつらそうにする真琴がかわいらしくて、俺は頭をなでる。


「よく飲んだ。偉い偉い」

「ん……♡」


 真琴は目を細めて、俺にさられるがままになっている。


 な、なんかさっきからずっと、俺に従順だよな……。


 なんというか……い、いけないことしてるみたいな気分だ。


「お兄さん……ごほうび……」


「おう。なにがいい?」


「……ちゅー。ほっぺに」


 ……マジかよ。

 いやそれはちょっと……。


 いや、でも……な。

 ほら……ね。


 ご褒美、だからな。

 言っちまった以上……な。


「お兄さん……?」


 チュッ……。


「え……?」

「ほ、ほら……これでいいんだろ?」


 俺は真琴の、ぷにっとしたほっぺにキスをした。


 吸い付くようなみずみずしい肌だった。


「…………」


 俺からのキスを受けて、真琴はというと……。


「あぁ……夢か……」


 どうやら夢だと勘違いしたらしい。


「こんな幸せすぎること……起きるわけ、ないもんね……」


 すぅ……と真琴が寝息を立てだした。


「…………」


 穏やかな寝顔の真琴を見て、俺は……モヤモヤを抱えていた。


「夢、扱いかぁ……」


 真琴に夢扱いされたこと、現実だと思われてないことに、がっかりしてる自分がいた。


 彼女が照れている姿を期待していたんだ。


 ……ああ、でも。

 喜んでくれたのは、うれしかったな。


    ★


 午後になると真琴が目を覚ます。


「おにーさーん、のどかわいたー」


「はいはい、今行きますよー」


 俺はぬるめのスポーツ飲料を持って彼女のもとへいく。


 さっきまでと違って、体を布団から出していた。


 心なしか体調が良さそうであり、思わず、ほっとする。


「飲み物~」

「ほら、ポカリ」


 真琴にペットボトルを渡す。


「力はいらない、あけてー」

「はいはい」


 俺はボトルの蓋をあけて、真琴に渡そうとする。


「んー♡」


 真琴が笑顔で、俺に顔を近づけてくる。


「おまえ、自分で持てよ」

「体がだるくてもてませーん」

「はいはい、わかったよ」


 俺は真琴の口にペットボトルを近づける。


 あたかも、赤ん坊に哺乳瓶を与えるかのように……。


「んく……んく……ん……ごくん……」


 な、なんか……エロいな。

 自分のものを、真琴に加えさせて、ごくんとさせてるみたいだ……。


「ん……ちゃんと飲めたよ。お兄さんの白くて濁ったやつ」


「ポカリな! おまえ……わかっててわざと言ってるだろ」


「さー? どうだかなー?」


 真琴が微笑む。

 ああ、そうだよ……おまえのその、そういう笑顔が見たいんだよ、俺は。


「大人をからかえる程度には、快復したみたいだな」


「んー。どうかなー。まだ、体が重いよー」


 真琴がちらちら、と俺を見上げてくる。


「それに、体が汗でベタベタで、きもちわるいなー」


「お、おう……そうか」


 なんだろう、嫌な予感しかしない……。


「だからー、体、拭いて欲しいなぁ~?」


 ちらちら、と期待のまなざしを向けてくる。


 か、体を拭くって……あれか。

 真琴がここで脱いで、俺がぬれタオルで、体拭くみたいな、あれか。


 いや、普段は……できない、が。


「ま、まあ……いいぞ」

「え? い、いいの?」


「お、おう。ほ、ほら……おまえ、風邪引いてるじゃん」


 真琴が目を丸くして、かぁ……と頬を赤くする。


「そ、そだね……風邪引いてるもんね」

「ああ……だから、ほら、な? 大人が、拭いてやらないと……な」


「う、うん……そうだね。うん……」


 真琴がしゅる……と体を持ち上げる。


 くるり、と俺に背中を向ける。


「……前、見ちゃ駄目だよ」

「わ、わかってるよ……」


 真琴はパジャマを脱ぐ。


 俺に、何も身につけてない背中を、向けてきた。


「……っ」


 思わず、ゴクリと生唾を飲んでしまう。


 真っ白な背中。カーブを描くボディらいん。

 びっくりするくらい細く、頼りない肩。


「……お願い……します」


 ……そこに、しおらしい、真琴の態度。

 な、なんだ……胸が、凄いドキドキする。


 俺は濡れたタオルを用意してきて、真琴の背中に触れる。


「ひっ……!」

「あ、ご、ごめん……」


「う、ううん……大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」


 俺は真琴の滑らかな背中を、タオルで拭いていく。


「んっ……ふっ……ん……んっ……んぁ……♡」


 布で背中をこするたび、真琴が小さく吐息を漏らす。


「い、痛いか……?」


「ううん……ちょうどいいよ。きもちいい……あっ」


「そ、そう……」


 真琴の背筋を拭いてく。そのたびに真琴が甘い声を上げるのが……なんというか、何かを彷彿とさせてエロい。


 背中と腕を拭き終わる。


「前は自分でやってくれな……」


 と、タオルを渡そうとしたのだが……。


「……前も、お願い」


「はぁ……!?」


 潤んだ目で、真琴が俺を振り返る。


「見られたら……恥ずかしいから。後ろから……ね?」


「お、おう……」


 今も十分恥ずかしいことしてるんだが……。 


「か、看病だもんな」

「そ、そうだよ……看病だもん……」


 俺は後ろから、真琴の体に触れる。


 腰から腕を回して、真琴をちょうど後ろから抱きしめるような形になる。


 すぐ目の前に真琴の髪の毛があった。


 汗をかいているからか、甘酸っぱい……果実みたいな香りがする。


 熱で暖まった真琴の、柔らかいからだが……なんとも官能的だ。


「ん……んぅ……ふぅ……んぅう……」


 真琴のおなかや鎖骨の上を、タオルで拭いていく。


 もじもじ……と真琴が体をよじる。


 切なそうな吐息を聞いていると、【あっち】のほうをどうしても、固くしてしまう。


「だ、だいたい吹き終わったな」

「ま、まだ残ってるよ……」


「え?」

「……おっぱい」


 いや、さすがに……それは……。


「……谷間とか、おっぱいのしたとか、汗でびっしょりなんだ」


「お、おう……」


 でかいもんな、こいつのおっぱい。


「拭いて」

「看病……だもんな」


「そう……だよ。これは、看病なんだから……さ」


 俺たちは無言になって、作業をする。


 真琴のふにゃりと、大きな胸に触れる。


「ひゃぅ……♡」


「つ、続けるぞっ!」


 いかん、あんまり意識してると、このまま押し倒しかねない!


 俺は無心で、真琴の谷間や、下乳を吹いていく。


 その間、真琴は自然となのか「あっあっ」とか「だめっ」とか、「頭しびれちゃう」とか。


 まあその……えっちなことばかり、言うわけですよ。


「「ぜえ……はぁ……」」


 吹き終わった頃には、俺たちはぐったりしていた。


 ナニもしてないからな!


「お、終わったね」

「お、おう……そうだな……」


 真琴のやつ、なんかがっかりしてる……?


「お兄さん……なんかがっかりしてる……?」

「え、うそぉ……」


 どうやら俺も、ちょっとがっかりしてるようだ。


「そんなに……ねちっこく、ぼくのおっぱい触ってさ。好きなの?」


「そ、そりゃあ好きだよ」


「ん……そっか」

「お、おうよ……」


 しばし無言の俺たち。

 き、気まずいだけじゃ……ない。


 なんだか……こう、エロい。空気が……エロい。


「……ねえ、離さないの?」


 気づけば俺は、半裸の真琴をずっと後ろから抱きしめていた。


「あ、す、すまん……」

「ううん、いいよ。もうすこし……このままで」


 ……端から見たら、今から【いたす】ように見えなくもない。


 だが……俺は手放せない。


 この暖かな少女の、柔らかな肉体を。


「ねえ……お兄さん。このまま……一緒に寝ない?」


「ね、寝る!?」


 いやいや! さすがにそれは……ちょっと……いやでも……。


「うん。ぼく……眠くなっちゃって……」


 ああ、寝るってそっちね!

 べ、別に期待してないんだからね!


「そ、そうか……じゃあ、着替えのパジャマ持ってくるから」


「やだ……このまま……」


「風邪が悪化するから」


「肌を寄せ合って、暖め合うって、雪山とかで。あれ……あれやろ」


 そ、それって俺も裸になれって!?


 いや……それは……。


「……嫌?」


「…………」



 気づけば俺は、シャツを脱いでいた。

 ああもう、駄目だな、俺は。


 とこのとき俺は完全に理解した。


 ……俺は、求めているんだ。


 真琴のことを。


 俺はシャツを脱いで半裸になると、真琴と一緒に布団に入る。


 肌と肌を合わせて、寝る。

 するとものすごく……温かい。


「……ああ、これは、やみつきになる……よ」


 真琴が安心しきった声で言う。


「お兄さんの……からだ、あったかい……」

「そっか……」


「うん。すごく……安心する」


 真琴を後ろから、裸の状態で抱いている。


 ともすれば緊張しまくってしまうだろう。

 だが……俺は不思議と安らかな気分になった。


 真琴もまた、ひなたぼっこする猫のように、目を細めている。


 ……ああ、くそ。


 これはもう……確定だ。


 俺は……真琴と居ると、心が安らいでいる。


「……ねえ、お兄さん……」


 うつらうつらしながら、真琴が言う。


「……今日、ありがと。すごい……うれしかった……看病」


「お安いご用だよ」


「……めーわくかけて、ごめんね」


「まさか。迷惑なわけないさ」


 真琴はしばし無言で、ぽつり……という。


「……ねえ。なんで? どうして……ここまで甲斐甲斐しく、世話焼いてくれたの? 幼なじみ、だから?」


 ……ああ、うん。

 良いタイミングだ。


 もう、俺は言ってしまおう。


「違うよ」


 って。


「おまえが、好きだからだよ」


 と。


「…………」


 真琴からの返事がない。

 照れてる、んだろうか。

 何か考えてる、のだろうか。


 拒まれたら……。


「ぐー……」

「…………………………」


 顔をのぞき込んでみる。

 ……寝てた。


「~~~~~~~~~~~~~~!」


 真琴が起きないように、気をつけて。

 俺は心の中で絶叫する。


 ぬぐわぁああああああああああああああ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回、元婚約者の話です。


「期待!」

「面白そう!」


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