18話 夜のコンビニ、公園でイチャイチャ



 俺は年下幼なじみの真琴まことと一緒に、コンビニにお菓子を買いに来た。


「おっやつーおっやつー♪」


 俺の隣には、真琴。


 ホットパンツにキャミソール。

 上からは薄手のパーカーを羽織り、サンダル。


 かなりラフな格好だ。

 だがしっかりボディラインは出てる。


 少しだらしのない格好が、かわいらしい……。


 ……かわいらしってなんだ! くそっ! 毒されてる!


「どうしたの、お兄さん?」


 真琴が振り返り、俺の顔をのぞき込むように見てくる。


 たゆん……と大きな胸が揺れる。


「ふふ……えっちー♡」


 にまー、と真琴が笑う。


「おまえがそんな薄手なのが悪い! ほら、ついたぞ!」


 駅前のコンビニが一番近いので、入る。


 ポップコーンなどのお菓子が並ぶコーナーへと向かう。


「お兄さん、違う違う。こっちだよー」


 レジの近くの、ヨーグルトとかおいてあるフリーザーの前にやってきた。


「おまえお菓子買いに来たんじゃないの?」


「お菓子じゃないよ、スイーツだよ」


「同じじゃないのか……?」


「似て非なるものだよっ。へへっ、どっれにしよっかなー?」


 真琴がスイーツを嬉々として選んでいる。


「てきとーに選んどいてくれ。俺は自分のもん買ってるから」


「はーい♡」


 真琴を残して俺は雑誌コーナーへと向かう。


 週刊漫画雑誌を手に取る。


 表紙には【デジマス、アニメ2期、好評放映中!】の文字。


 ううむ、このマンガ人気あるなぁ。


「あ、デジマスだー」


 スイーツを選び終えた真琴が、近寄ってくる。


「それちょー人気だよねー」

「まあめっちゃ面白いからな」


 今日本で一番人気あるマンガだし。


「おまえもこれ知ってるのか?」


「うんっ! ぼく漫画けっこー好きだからね!」


 そういえば真琴は、俺のお古の漫画をよく読んでいたな……。


 そうか……ふふ、今も少年漫画好きなのか。


 なんかうれしいな……俺が誰かに影響を与えたってなるとさ……


「おにーさん♡ その雑誌……【マガジャン】買って欲しいな~?」


 週刊少年マガジャン。

 日本で一番有名な少年漫画雑誌だ。


「いいよ。てか俺も普通に自分で読みたかったし」


「お兄さん、まだマガジャン読んでるの? 少年誌なのに?」


「心はいつだって少年なんだよ」


「なるほど、だから反応がいちいち中学生勝手くらい、うぶなんだね」


 ほっとけ。


 俺は雑誌とスイーツを買って、コンビニを後にする。


「ねーねー! お兄さんっ。帰りに公園よってこー」


 駅近くの公園を指さす。

 この間、真琴とバスケをしたあの公園だ。


「なんでだよ、こんな時間に」

「夜に寄り道するのって……ほら、なんかわくわくしない?」


 確かに。なんか青春っぽい……!


 俺たちは公園に向かうことにする。


「私あこがれだったんだー。ほら、長野って夜ほとんど出歩かないじゃん?」


「そうだな。周り真っ暗になるし。というか徒歩圏内で、コンビニがないしな」


「そーそー! だから夜に彼氏とコンビニ行ってー、帰りに公園でまったり過ごすの、夢だったんだ~」


「はは、安い夢だなぁおまえ」


「にゃにをー」


 俺たちは笑って、公園へと到着する。


 ん? なんか俺、何かを見過ごしていたような……?


 あ、彼氏って、さっきこいつ言ってたな。

 …………。


 ……ま、いっか。


 あ、落ちてないです、落ちてないですからね!(定期)


「あそこ座ろうっ! 噴水の前!」


 公園の中央に噴水があった。


 周縁が座れるようになっていたので、腰を下ろす。


「じゃーん、ティラミス~」

 

 真琴の膝の上に、コンビニで買ったティラミスが置かれる。


「おお、結構美味そうだな」

「でしょー? コンビニのデザートも、バカにできないんだからね」


 真琴がレジでもらったスプーンで、ティラミスを一口すくって食べる。


「ん~~~~~~~~~♡」


 ぱたぱたぱた、と真琴が足をぱたつかせる。


「うみゃーい♡」

「ほー」


 ぱくぱく、と真琴が食べる。

 ……こう、人が食ってると、美味そうに見えるよね。


「なーにー? ぼくの唇を、じぃ~っと、えっちな目で見てさ~?」


「アホ抜かせ。そのティラミスが美味そうなだけだ。一口くれよ」


「に゛ゃ゛……!」


 かぁ……! と真琴が真っ赤になる。


「あ、あえ……えっと……その……」


 なんだ? なんで過剰にもじもじしてるんだ……。


「そ、それ……間接、キス……じゃん」

「お、おう……。そうだな」


 こいつ、俺のほっぺや唇に普通にちゅーしてきたくせに。


「間接キスくらいで、何を恥ずかしがってるんだ……?」


「じ、自分でするならいいのっ! お、お兄さんからされるのが……は、恥ずかしいんだよっ!」


 そういうものなのだろうか……。


 乙女心、複雑怪奇。


「蛇口も近くにあるし、スプーンは洗えばよくないか?」


「う……それは……ええい、女は度胸!」


 むんっ、と真琴が胸を張る。

 それを言うなら男のような……。


「はい、お兄さん♡ あーん♡」


 スプーンを笑顔で、俺に向けてくる……真琴。


「いや、自分で食べますけど」

「だめー」


「……今、外だぞ?」

「だからー? 暗くて誰にも見えないよ。そ・れ・に~。あちらごらんくださーい」


 真琴が顔を向ける。


 近くにはベンチがいくつもあって……。


「なっ!? か、カップルが……あんなに……」


 ベンチは全部埋まってて、しかもカップルが座ってる。


 なんでカップルってわかるかって?


 みんないちゃついてるからですっ!


「こ、公衆の面前でなんちゅーことを……」


「みんなお互いに恋人のことしか見えてないよ♡ 私たちも、そーしよ♡ ねー? あーん♡」


 ま、まあ……ならいっか。


 そうだよな、考えてみれば今は夜。


 周りはいちゃつくカップルばっかり。


 俺たちのことを、気にしてるやつなんて皆無だろう。


 ましてや、知り合いなんかが、この場面を見てるなんてこと、絶対あり得ないよな。


「ったく……仕方ねえな」


 俺は口を開けて、真琴に顔を近づける。


 ちゅっ♡


「なっ!?」


 こ、こいつぅ! スプーンで俺にティラミスを食わせようとして!


 油断させて、キスしてきやがった!


「へっへーん♡ 油断大敵~♡」


「おまえな……むぐっ!」


 続いて、スプーンを俺の口に突っ込んでくる。


 すぽ……とそれを抜いて、真琴が微笑む。


「甘い?」

「ああ、激甘だよ……ちくしょう……」


 正直ティラミスよりも、真琴とのキスの方が、甘くて、とろけるように柔らかかった……


 ああくそ……顔から火が出そうだ。


 …………え?


 な、なに? 俺……恥ずかしがってるのか……?


 ま、真琴と……き、キスして……?


「お兄さん、どーして顔まっかなの~?」


「あ、いや……そ、外でそんな破廉恥なまねしたからだよ! あほっ!」


「んふふっ、いいじゃーん♡ どーせ誰もみてないし~。知り合いなんて、まだこっちにいないし~」


 まあ確かに真琴の知り合いはいないだろう。

 真琴のはな。

 

「俺の知り合いがいたらどうすんだよ……ったく」


「そのときは堂々と、俺の嫁ですって言えばいいんだよ♡」


「いや嫁じゃないし。幼なじみだし」


「頑なだなぁ~。えいえい♡」


 つんつんっ。


 ひょわっ!


 脇腹を、つつかれた!


 と、そのときである。


 俺がびっくりした拍子に……。


「あっ! ティラミスがっ!」


 真琴のティラミスが、ぽろっ……と後ろの噴水に落ちそうになる。


「もったいないっ!」


「おい! ばかっ! 真琴!」


 真琴が落ちそうになるティラミスを回収しようとして……。


 バランスを崩す……


「きゃああ!」


「真琴!」


 俺は彼女の手を引こうとして、俺もまたバランスを崩し……。


 どぼーーーーーーーーーーーーん!


 ……二人一緒に、噴水に落ちる。


「ぷはっ! げほげほ……お、おい真琴……だいじょぶか?」


「う、うん……」


 ぽたぽた……と真琴の黒髪から、しずくが垂れる。


「どこもぶつけてないかっ?」


「あ、うん。平気平気!」


 ぐっ、と真琴が両腕を曲げて言う。


「「…………」」



「「……ぷっ! あはははっ!」」


 俺たちはおかしくって、笑う。


「おいおい真琴、おま……お菓子落としそうになって噴水に落ちるとか! ガキかよ!」


「お兄さんこそっ、彼女を助けようとして失敗するとか、だっさーい」


「「うるせえ! あっはっは!」」


 俺たちはお互いの失敗を笑い合う。


 ああ……なんだろうなぁ。


 こうして、何かミスしても、その失敗さえも、笑いに変えられる……。


 俺だけだったら、たぶんへこんでた。


 でも、こいつと一緒だと、何だって楽しい。


「へ、へ、へくちっ!」

「おい真琴、大丈夫か?」


「うんっ! へっちゃらさ!」


 俺たちは噴水から出る。


「くちゅんっ」

「ああほら、やっぱり寒いんじゃないか……」


 今は春。とはいえまだ3月。

 夜は普通に寒い。


「こーゆーとき、やさしい彼氏が上着を貸してくれたらな~?」


「俺上着持ってないし」


「ちぇー。ま、いっか! こうすればあったかいよね♡」


 真琴が俺の腕にぴったりとくっつく。


 真琴の濡れた体が、すぐ目の前にある。


 首筋に張り付いた黒髪が、いやにエロい。


 はぁはぁ……と少し興奮してるのか、呼吸が荒いのが……また、妙な想像をかき立てる。


「あれ? じゃまーって、押しのけないの?」


「ん。まあ……寒いからな」


 真琴から感じる、ぬくもりは……それはそれは心地の良いものだ。


「ん。そっか……寒いんじゃ……仕方ないね……」


「おう……」


 水に濡れたものをできるだけ回収し、俺たちは二人寄り添って、その場を後にするのだった。


    ★


「……え? 嘘。……なんで、女の子と……一緒に? しかも……え? 腕組んで……え? え……?」

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