17話 ヤキモチを焼く嫁とイチャイチャ



 千冬ちふゆさんとの騒動は、なんとか収まった。


 その日の夜。


 俺は自宅へと帰ってきた。


「ただいまー」

「お兄さんっ、おかーえり♡」


 私服姿の真琴が、てててっ、とかけてきた。

 今日はパーカーにミニスカート、というラフな格好。


 その上からエプロンを着て、ポニーテールにしている……。


 うん、若妻感が、やばいな。

 ……それと同時に、気まずさもある。


「別に出迎えてこなくて良いんだぞ?」

「なにをおっしゃる、夫をお出迎えするのも、新妻の勤めでしょー?」


 はいっ、と真琴が両手を俺に広げる。


 こ、これは……あれか?

 おかえりの……ハグか?


「いや……真琴。ハグはちょっと」

「え? んふふふ~♡ えーい♡」


 真琴が自分から、俺に抱きついてきた。


 ふにゃりっ、と大きな乳房が胸板に当たる。

 ……ああ、ちょうどいい。


 千冬ちふゆさんのおっぱいは、なんというか、大きすぎて、なんだか緊張しすぎてしまうんだよな。


 これくらいの、大きさが……ちょうど良いな。


 ……って! 何を考えてるんだ俺は!


「んふ~♡ すりすり~♡」


 真琴が俺の胸板に頬ずりしてくる。

 ふわりと香る甘い女の香りに、思わず抱きつきたくなる……。


 だが、意思の力を総動員して、俺は彼女を離す。


「お兄さん、勘違いしてるねー。ぼく、別にハグして欲しいなんて思ってなかったよ?」


「え、そ、そうだったのかっ?」


「うん。鞄とスーツ、お持ちしますよーって」


 まじかよ!

 ああくそ! 俺が早とちりして……うわぁあ!


 恥ずかしぃいいいいいいいいいい!


「お兄さんそんなにぼくのこと好きなのかーそっかそっかー♡ じゃあ毎日ハグでお出迎えするねっ」


「い、いやいや……そんなの、いいよ。だってほら、恋人でもなんでも、な、ないからなっ」


「ふーん……」


 にまにま、と真琴が笑う。


「まだそう言い張るんだ~」

「お、おうよっ。当たり前だろ」


「素直になれば、もーっともーっと、いっぱい色んなこと、してあげるんだけどなぁー♡」


 い、色んなこと!?

 なんだ……ただでさえサービス過剰なのに!


「はさんだりー♡」

「挟む!?」


「なめたりー♡」

「なめる!?」


「くわえたり♡」

「おまえ何するつもりだよ!?」


「そりゃあ、もちろん♡ ナニするんだよ♡」


 真琴が何かを加えて、上下に手を振る。

 あかん! それはあかんって!


「い、今以上のサービスは、いいよ……うん」

「ほんと~? きもちいいよ~?」


 俺の後ろを、とてとて、と真琴がくっついてくる。


 ……エッチなことに興味がないかといわれると、そんなことはない。


 真琴は……その、凄い魅力的な体をしている。


 無駄な肉はない、きゅっとしたボディ。

 しかしお尻はぷりっと、胸はたぷんと、そして太ももはむちっとしている。

 

 なんて、おいしそうな体をしてるんだ……。


「恋人になればマコちゃん毎日たべほーだいこーすなんだけどなぁ~♡」


 つんつん、と真琴が俺の背中をつついてくる。


 くそっ! なんて魅力的な食べ放題コース!


 だが……だが……ううん……。


 と考えているとリビングに到着。


「はい、お兄さん、上着とバッグ貸して」


「あ、ああ……」


「はいこれバスタオルとスウェット。お風呂は沸いてるから」


「お、おう……」


 てきぱきと、真琴が嫁ムーヴしてくる。

 彼女が着てから日常生活がとても楽だ。


 俺は脱衣所へ行って、湯船につかる。

 

 ちょうどいい……少しあつめのお湯。

 さらに、俺の好きな入浴剤まで入ってる。


 ふと、俺はシャンプーが昨日切れていたことに気づく。


「おーい、真琴ぉ、シャ」

『おにいさーん、シャンプーは詰め替えておいたからだいじょうぶだよー』


 ……俺がすべてを言い終わる前に、真琴の声がドア向こうから聞こえてきた。


 ……ああ、ほんと、至れり尽くせり過ぎる。

 風呂から上がってリビングへ行く。


 ちょうど、テーブルの上には夕飯が用意されていた。


「さぁさぁ、夕飯食べよー!」

「あ、ああ……」


 今日はハンバーグだった。

 猛烈に美味い……。


 スープもパンも、なにもかもが美味すぎる……。


「なぁ、真琴」

「んー? なぁに?」


 真琴は俺の前に座って、ニコニコと、俺の様子をじっと見ていた。


「おまえ……週明けから学校だけどさ、準備とか大丈夫なのか?」


 そろそろ3月が終わって、4月になる。

 真琴はアルピコ学園、というバスケの名門校に春から通うことになるのだ。


「うん! ばっちり! 制服も届いてるし、バスケ部の部活バッグも届いたよー」


 彼女はバスケ推薦らしく、すでにバスケ部に入るのが確定してるそうだ。


「どうどう、ぼくの制服姿みたいっ?」


「そりゃまあ……な」


 セーラー服だろうか、ブレザーだろうか。

 いずれにしろ、今の美少女姿の真琴なら、似合うことこの上ないだろう。


「みたい~?」

「まあ……」


「ざんねんっ。おあずけ! 学校行くときまで……お楽しみに!」


 にこにこと真琴が笑う。

 うーむ、気になるなぁ。


「ところでお兄さん♡」

「おう、なんだ?」


「スーツからほかの女の匂いがしたんだけど、なんで♡」


「ぶほっ……! げほげほ……お、おまえ……どうして……」


 きゅるっ、と真琴のまなじりがつり上がる。

「やっぱりー! もー! だめじゃん、嫁がいるのに女といちゃつくなんて-!」


 ぷくーっ、と真琴が頬を膨らませる。


「いや別におまえ嫁じゃ……てか、おまえ、スーツの匂いなんてどうして知ってるんだ?」


「そんなのお兄さんのスーツのにおい毎日くんかくんかしてるからに、決まってるじゃん」


「そんなことしてたの!?」


「もちろん! お兄さんのにおい好きだもん♡ ……それに、浮気チェックは嫁の仕事でしょ?」


 浮気チェックっておまえ……。


「誰なのっ、ねえねえ、お兄さん、誰なのっ」


 真琴は頬を膨らませてながら聞いてくる。


 どうにも嫉妬している、様子だった。

 ははっ、かわいいやつだな。


 だからまあ、ちょっとね、ついいたずらしたくなった。


「さぁ、だれかなー?」


「あー! はぐらかした! おしえてよー!」


「いやぁ、ちょっとなぁ。教えられないかなぁ」


 あわあわ、と真琴が慌てている。


 ふふっ、かわいいやつめ。


「普段俺が動揺されてばかりだからな、しかえしだ」


「お兄さんのくせにー! なまいきだー!」


 ぷー、と真琴が頬を膨らませる。


「どーせ、エッチなお店にでもいったんでしょー!」


 真琴のポニーテールが、動物の尻尾のようにピンとたつ。


 てかエッチな店って!


「なんでだよーう! ぼくがいるのにっ、ぼくの体じゃ不満ってわけっ? ねえねえっ」


 真琴が泣きそうだ。

 やばい、そこまでする気はなかったんだが……。


「不満なわけないだろ」

「え?」


「え? あ、ちが……違う! 家に子供が居るのに、そういういかがわしい店はいかないって……」


 じー、と真琴が俺の顔を見てくる。


「ふーん……そっか~……」

「お、おうよ……当たり前だろ」


 さっきまでの不満顔から、一転。

 勝ち誇ったように、にまにまと笑う。


「そっかー……私の体で、満足なんだー?」


 やっぱり、聞いてやがった!

 くそっ! 耳の良いやつ!


「そうだよねー、おしりもー、おっぱいもー、たぷんたぷんだもんねー♡」


 真琴が両手で自分のおっぱいを包んで、強調するように、よせてあげる。


 だぷん……と揺れ動くおっぱいに、思わず目が行く。


「ん? どうしたの、ん? すけべな目ぇしてるよ~♡」


「あ、アホ抜かせ……子供の胸なんて……」


「子供かな~」


 真琴は、胸をさらにぎゅっ、とよせる。

 そして、【何かを挟んで、上下にこする】動きをする。


「こーすると、気持ちいいらしいね~♡」


「や、やめろよその卑猥な動き……!」


「おやおや、卑猥ってなにが? ねーねー、お兄さん? 私のおっぱいを見て、ナニを想像しちゃったの~♡ ん? 言ってごらんよー♡」


 ああくそっ! 完全に手玉に取られてるじゃねえか!


 こうなったら……。


「おまえこそ、それ何のつもりでやってるんだ?」


「え?」


 俺からの反撃に、驚いている様子の真琴。


「それ、なんて名前の行為だ? ん? 言ってみろよ?」


「え、えっとぉ~……」


 かぁ……と真琴が頬を赤くする。


 意外と防御力が弱いぞ、こいつ!


「なぁなぁ、マコさんよ。それはおっぱいに何を挟んでしこしこしてるんだ?」


「だ、だから……そ、それは……お、お兄さんの……お、おち……」


「えー? 聞こえなーい?」


「んもうっ! お兄さんのいじわるっ! えっち! 女の子に何言わせようとしてるのさっ!」


 ぽかぽか、と俺の肩を真琴がたたいてくる。


「ははっ、なーんだ意外とうぶだなぁ、おまえも」


「う、ううるさいっ。ばかばかっ、お兄さんのえろおやじっ! ふんだっ」


 真琴が頬を膨らませ、そっぽを向く。


 拗ねてる姿がまた愛らしいな……。


 ……愛らしい?


「あ、えっと……真琴よ。どうしたら許してくれる?」


「……コンビニのスイーツ」


「安いな、いいよ。買いに行くか」


 ぱーっ、と真琴の表情が明るくなる。


「うんっ!」


 ったく、俺をからかってきたと思ったら、意外とうぶで。


 拗ねたと思ったら、ころっと笑顔になって……。


 ……ああ、ほんと。


 一緒に居て、全く飽きない女だよ、おまえは。

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