14話 あったか嫁布団にトロトロにされてる


 ……俺は年下幼なじみの真琴まことに、マジのキスをされた。


 ほっぺにちゅー、ではすまない。


 がちのやつだ。

 正面から、ハグされて、そして……。


「ぐわぁあああああ!」


 風呂上がり、リビングで、俺は一人悶えていた。


 脳裏には、真琴とのキスシーンがはっきりと焼き付いている。


 唇に触れた、水ようかんみたいな感触の唇……。


 胸板にぐにょりと押しつけられたおっぱいの感触。


 ……そして何より。


 目を閉じて、俺に唇を重ねてきたときの……真琴の、大人びた表情。


 そこにいたのは、一人の、美しい【女】だった。


 俺は真琴の正体が女だと知っても……。


 やはり、昔弟のように接していた、幼なじみって意識があった。


 だが……。


 あのキスによって……


 真琴は、女なんだと……刻まれてしまった。


「お兄さん?」


「ひょわっ! な、なんだよ真琴……」


 パジャマ姿の真琴が、俺の顔をのぞき込んでくる。


 どっ、どっ、どっ……と心臓が、早鐘のように高鳴ってる。


 い、いかん! 不整脈です!(困惑)


「お兄さんが頭抱えてぐわーってなってたから、何してるのかなーって」


「いや、なんでもないよ……おまえこそ、何やってたんだよ?」


「化粧水つけてたの。あと乳液」


「け、化粧水……乳液……」


 まさか、あの、がさつな真琴が……肌の手入れをするようになるとは……。


 い、いかん……女だ。

 

 そう意識してしまうと……真琴の体に、目が行ってしまう。


 大きな胸はもちろんのこと。


 くびれた腰とか、お尻のカーブラインとか、内股気味の太ももとか……股の間の三角地帯とか……。


 あ、あれ?

 なんだ……真琴って、こんな女らしい体してたのかっ?

 

 てゆーか、今の今まで、俺はなぜ、こんなにも美しい少女と一緒に居るって……


 真琴が美人だって、気づいてなかったのか……?


「お兄さん♡ そろそろ……寝る時間じゃない?」


 寝る、という単語にドキッとしてしまう!


 ば、ばかっ。何を勘違いしてるんだ!


「お、おう……そうだな」


 うん、だめだ。

 いったん寝てリセットしよう。


「真琴やい」

「なにー?」


「今日は自分とこで寝てください」

「どうしてー?」


 こてん、と真琴がかわいらしく首をかしげる。


 垂れた前髪を手で書き上げる仕草に、思わずドキッとしてしまう……。


「ど、どうしてもです。一人で寝なさい。もう来週から高校生でしょっ」


 くそ……だめだ。

 真琴をいつも以上に女だって意識しちまう。

 こんなときに、一緒に寝たら……。


 理性が、持たん!


「ん。それもそっか。いいよ~」


「は? え……? い、いいのか?」


 いやにあっさり了承する真琴に、俺は困惑する。


「うんっ」

「お、おう……」


 真琴は立ち上がると、びしっ、と手を上げる。


「そんじゃ!」

「あ、ああ……」


 真琴は自分の部屋に引っ込んでいった。


 ……残された俺は、戸惑う。


 な、なんだ?

 いつも過剰に、ぐいぐい来る真琴が……今日は何もしてこないだと?


 しかも、俺が一番動揺している時に……。


 何もしてこないなんて……。


 ……。

 …………ちょっとがっかり。


 いやいや! がっかりってなんだよ!


 ええっ、俺よ!?


「あー、もうだめだ。本格的に駄目だ。寝よう……」


 俺は自分の部屋へ行き、ベッドに潜り込む。

「…………」


 ぶるり、と震える。

 ベッドの中は、氷のようだった。


「ベッドって……こんな冷たかったっけ……?」


 真琴が来て、一緒に寝たときの……あのぬくもりに、なれてしまった今では……。


 もう……あの暖かな布団と、とてつもなく良い匂いのする最高の抱き枕が……。


 手放せなくなっていた。


 ……特に今日は、寒かった。


 そういえば、この今日の夜から明日にかけて、冷え込むってニュースで言っていたな。


「……さむっ」


 俺は布団の中で一人、丸くなる。


 暖房でもつけるか?

 いやでも……喉を痛める。


 ああくそっ、なんでこういうときに……居ないんだよ。


 真琴……。


 と、そのときだった。


 きゅっ♡


 ……後ろから、誰かにハグされた。


「おやおや~? およびですかなぁ♡」

「真琴……」


 ニコニコ笑顔の真琴が、すぐそばに居た。


 彼女はきゅーっ、と力一杯俺を抱きしめてくれる。


 背中に当たる、ふわふわで、もちもちで……けれど、張りもきちんとある、おっぱいが気持ちいい……。


 それにこの……ああ、そう、これだ。


 この……暖かなぬくもり……。


 俺の体が、求めていたものが、そこにはあった。


「必殺、押して駄目なら引いてみろ、作戦! せいこうっ!」


 こいつ……わかってやがったんだ。


 俺が真琴を意識してるときに、あえて、身を引く。


 そうすることで、俺の方から、真琴を求めるように……仕向けられていたのだ。


「まんまとハメられたよ……」


 現に、俺は真琴の抱擁から、逃れられない。

 このとろけるような暖かさと……。


 頭がくらくらするような、甘い匂いと……。

 そして、男を駄目にする……この究極的に柔らかな、魅力と若さあふれる至極の肉体……。


 真琴のすべてが、俺を離してくれない。


 そして俺も……そんな真琴から、逃げられない。


 特に……今日は。


「おやおや、出て行けーって、言わないんだね♡」


「……今日は、寒いからな」


 なんて、そんな言い訳? かっこつけ? をしてしまう。


 もちろん真琴もわかってるのだろう。


「そっかそうだよね、今日は……特に寒いもんねぇ」


 実に楽しそうに、真琴が俺の体にまとわりつく。


 彼女の両足が、俺の左足に絡みつく。


 彼女の両手が、俺の胴体にまとわりつく。


 ……普段以上に彼女が密着していた。


 呼吸するたび……果物のような、甘い香りが鼻の奥をくすぐる。


 全身を真琴に包まれて……体の中が、ぽかぽかと暖められていく。


「あったかお嫁さん布団の、具合はどうですかー♡」


 ふっ……と耳元に真琴の吐息がかかる。


 くっそ……これも、わざとだろ。


 ぞくぞく……と背筋に快感が走り、俺は生唾を飲んでしまう。


 知らず……俺の股間が膨らんでいく。


「足に何か堅いものが、当たってるんですがー♡」


 ああこれもばれてる……。


 もう、あかん……完全に真琴に、コロコロと転がされていた。


 身も心も……真琴の手のひらの上にある気がする……。


「お、おまえさ……こ、こんなことして……俺が、襲ったら、どうするんだよ?」


 言って、俺は……俺は何を言ってるんだっ!?


 正気じゃねえ! くそっ!


「襲って♡」

「え……?」


「だから……襲ってよ♡ 野獣のように、飢えたライオンみたいに、むしゃぶりついてよ……ね?」


 目を細めて、真琴が艶っぽく笑う。


 こいつは……俺にここまで、許しているのか。


 襲って良い……のか?


 俺は……。


 お、俺は……。

 

 い、いやっ! 駄目だっ!


 俺は鋼の意思で目を閉じて、体を丸める。


 駄目だ、相手はまだ未成年だぞ!

 しかも……付き合ってすら居ない、相手だぞ!


「別に良いのに。私気にしないよ?」


「……俺が気にするんだよっ」


「ふーん。そっか♡ じゃあいいよ。待ってるから」


 きゅっ、と真琴が優しく抱きしめてくる。


「お兄さんの堅い氷の殻を、こうしてぎゅっと抱きしめて……とろとろにとけてしまうように……毎晩嫁布団になりますよ~♡」


 あ、あかん……こんなの毎晩やられたら……。


 理性が、保たん……。


 お、俺は……もう、ダメかも知れん……

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