11話 職場の可愛い後輩がグイグイ来る


 さて、俺も一応社会人。

 

 四月から3年目となる。


 俺が務めているのは、【スターライズ・クリエイティブ】という企業だ。


 元々は小さな出版社だったのだが、敏腕社長のおかげで、今や大企業へと進化した経緯がある。


 この企業の、俺は【営業部】に所属していた。


「おはよーございまーす」


 俺が出社すると……。


 会社の机を、拭いている、一人の女子の姿があった。


「あ、せんぱいっ。おはようございます!」


 めがねをかけた、小柄な女性社員だ。


 俺と目が合うと、めがねの奥で瞳を輝かせる。


 俺の元へやってくると……その背の低さが目立つ。


 ヒールを履いてるのだが、なお低い。

 140に、多分届いてないくらいだ。


 ……しかし、その幼すぎる見た目に反して、大きすぎる胸。


 いわゆるロリ巨乳ってやつだ。

 そんでもって、めちゃくちゃ美人である。


「おう、安茂里あもり、おはよう」


 このめがねロリ巨乳は、【安茂里あもり ひな】。


 今年新卒で入った子であり、俺が面倒を見ている。


「今日も安茂里あもりは偉いなぁ。毎朝掃除してない? いいんだぜ、毎日やらんでも」


「いえっ! 自分は一番下っ端ですので、皆様にご迷惑一番かけてるのでっ。これくらいはして、恩を返さないとです!」


「真面目だなぁー。安茂里あもりは学生の時、委員長って呼ばれてそう」


「なっ! なぜそれを……!」


 あわあわ、と安茂里が慌てる。


「ま、まさかエスパー!?」

「そう、実はエスパーなの俺」


「ええー!? そんな、すごい!」

「嘘だよ信じるなよそんなの……」


 安茂里は真面目で、元気が良い。


 素直だし、指示をよく聞いてくれる。

 いい後輩だと思う。


 俺が席に座ると、安茂里が心配げな顔で、俺を見てくる。


「あ、あのせんぱい……つかぬ事をお聞きするのですが……」


「お、どうした? 仕事での悩みか?」


「い、いえっ! 仕事の話じゃないです……プライベートのことで……」


 安茂里が俺のプライベートを知りたい?


 なんだろう……。


「せ、せんぱいその……わ、別れたって……本当ですか?」


 ああ、なるほど。

 会社で噂になってるのか、俺が、婚約者と別れたって話……。


「ごめんなさい! 深い意味はないんです! ただ……気になって……」


「え、ああ。うん。別れたよ」


「え……?」


 ぽかん……と安茂里が口を開く。


「どうした?」

「あ、えっと……せんぱい……どうしてそんなに、平気そうなのかなって……」


 安茂里の疑問は至極もっともだ。


 大学時代からずっと付き合ってて、今に至るまでの経緯を知っているものからすれば……。


 入れ込んでいた婚約者と別れた俺にとって、かすみの話題に触れることは、つらいことだろう。


 ただ……俺は、全く心が痛くなかった。


 その理由は……。


 ……脳裏に移る、真琴まことの笑顔だ。


「え、まあー……ほら! いつまでも過去を向いてちゃだめだろ? 前を、未来を見据えてってな」


 目を丸くしていた安茂里だったが……。


「そうですね!」


 ぱぁー! と笑顔になる。


「そっか……そうですかっ! 別れたんですね!」


 子犬みたいだ。

 なんだか犬耳と尻尾が見える気がする。


「おうよ。でももう大丈夫だぜ」


「良かったです!」


 俺が元気になってくれたことを、喜んでいるのか。


 くぅ、なんていい後輩なんだろうか。


「……やった♡ これで……気兼ねなくアタックできます! せんぱいっ」


「え、何か言ったか?」


「ああいえっ! これからも、よろしくお願いしますっ!」


 安茂里が頭を下げ、顔を上げると……凄い笑顔で、そう言うのだった。


    ★


 スターライズ・クリエイティブは、俗に言うホワイト企業だ。


 なにせ、昼休みが1時間半もある。


 正確には、ご飯休憩が1時間、食後休憩が30分。


 これで9時出勤で18時退社。

 しかも社長の方針で、残業は禁止されてるほど、ホワイトすぎる。


 きーこーんかーんこーん……。


 社内にチャイムが鳴る。


 昼休憩のチャイムだ。


「せんぱいっ! 一緒にお昼どうですかっ!」


 まっさきに、安茂里あもりが俺の方へと駆け寄ってくる。


「おう、いいぞ」

「やったー!」


 安茂里とともに、俺は食堂へと移動する。


 彼女は、食堂で食券を買っていた。


 俺は一足先に席に座って、安茂里が来るのを待っている。


「おまたせしましたー……って、え?」


 安茂里が俺を……というか、俺の弁当を見て、目を丸くする。


「どうした?」


「あ、いえっ! ただ……弁当なんだなと思って」


 俺の正面に安茂里が座る。


 背が低いので、マジで子供みたいだ。


 真琴は女の割に背があるから、ちょうど二人並べば姉妹みたいだろうなってぼんやり思った。


「せんぱい……いつも食堂で定食じゃなかったです?」


「ん。まあたまには弁当もいいかなって……」


 まさか年下の幼なじみに、弁当を作ってもらってますとはいえない。


 しかも一緒に住んでます、JKです……なんてことも。


 体面ってやつがあるからな。


「そうですかー! ご自分で作ったんですね! よかったー!」


 ぱーっ、晴れやかな表情になる安茂里。


「んじゃ食うか」

「はいっ! いただきまーす!」


 安茂里はがつがつ、とうどんを食べる。


 この子は慎重の割に結構食う。


 さて俺も食べるか……と弁当箱の蓋を開けて……


「んんぅー!?」


 蓋を、閉じる……!


 あ、あ、あの馬鹿っ! なんてもんをっ!


「あれ? せんぱい、お弁当たべないんですか?」


「あ、あはは! 食べるよ、食べるようん!」


 ……俺はそろり、と蓋を開ける。


 ハートのデンプンで、【♡】が作られていた。


 そして海苔で、【LOVE】の文字が!


 あ、あいつなんて弁当を作ってきやがるんだ!


「せんぱいせんぱい」

「はっ! な、なんでしょう……?」


 俺の不審な行動に首をかしげるも、安茂里が尋ねてくる。


「どんなお弁当なんですか? 見せてくださいよ! わたし、興味あります!」


「あ、あはは……たいしたもじゃないよ……男飯だし……」


 まさかべったべたの愛妻(未定)弁当だとは言えまい……。


 見せられない!


「いいじゃないですかー、見せてくださいよ!」


「いやまじで! 人に見せれるほどのもんじゃないから! ほんとひどいできだから! 食欲失せるから!」


 ……すまん! 真琴!

 おまえを乏しめるつもりはないんだ!


「そうですかー……残念です」


 安茂里は何かを考えこむようにしてうつむき、そして言う。


「あの、せんぱい。もしよろしければ、お家に、いきますよ?」


「へっ? お、俺んちに……? な、なんで……?」


 安茂里は頬を少し赤らめながら、かちかち……とめがねを触りながら言う。


「せ、せんぱい……今、言いましたよね? 料理……苦手だって。だからっ、せんぱいのお家にいって、お料理とか、お掃除とか、ぜひ手伝わせてください!」


 目を><にして、安茂里が叫ぶ。


 そ、それは困る……。

 うちには、年下幼なじみ♀がいるんだから……。


「い、良いよ。そこまでしてもらう義理はないし」


「いえ! せんぱいにはこの一年、すっごくお世話になりました! なので、少しでも恩を返したいんです!」


「律儀なことは良いことだ。けどそこまでしてもらわなくていいよ。後輩の面倒を見るのも、俺の給料のうちだからさ」


「それでもっ、せんぱいのこと……少しでも支えてあげたいんですっ!」


 身を乗り出す安茂里。

 どむ……とテーブルに、その体のサイズに不釣り合いな大きな胸が乗っかる。


「そもそも……なんでそこまでしようとするんだ?」


「……だって、せんぱい、今、家でさみしいかなって。振られたばかりですし」


 ああ、そうか。

 元気づけようとしてくれてるのか。


 まったくもって、できた後輩だ。


「気持ちはうれしいよ」


「じゃあ!」


「でも大丈夫。さっきも言ったけど、もう結構メンタル平気だからさ」

 

 家に帰っても、さみしいなんてことはない。

 むしろ、騒々しいくらいだ。


 だが、その喧噪も……心地良い。


「そう、ですか……わかりました!」


 からっとした笑顔で、安茂里が言う。


「でもっ、いつでも言ってくださいね! 言ってくれれば、お掃除にもいきますし、料理を作りますし……な、なんでもしますから!」


「ん? 今何でもって言ったか?」


「はい! 何でもです!」


 ネタのつもりで言ったのだが……。


 肯定されちゃったよ……。


「……え、えっちなことも、可、です」


「え、なんだって?」


「なんでもありませんっ」


 まあそんな風に、職場での人間関係は凄く良好だ。


 かわいい後輩だけでなく、頼りになる美人の【先輩】と【上司】もいる。


 そしてホワイトな職場。


 仕事もプライベートも、順風満帆だ。



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