9話 まったりイチャイチャな日曜の夜



 俺は買い物を終えて、真琴まことと帰宅する。


 一息ついている間に、真琴がテキパキと夕飯を準備する。


「な、なあ手伝うぞ」


 台所に立つ真琴の後ろから、俺は彼女を見やる。


 長い黒髪をポニーテールにしていた。

 白いうなじが実に艶めかしい。


 ホットパンツにTシャツ、その上から赤いエプロンを着ている。


 今の真琴には……新妻感があった。


「いいって、お兄さんは休んでて。明日からもお仕事あるんだからさー」


「いやまあそうだけど……でも、おまえ一人に全部やらせるのは、気が引けるよ」


 くるんっ、と真琴が俺を振り返る。


「じゃあミッションを与えましょう!」


「おう、何でも言ってくれ」


 びしっ、とあさっての方向を指さす。


「今お風呂のお湯入れてるから、先にお風呂、入ってて♡」


「お、おう……」


 ……それ、手伝いなんだろうか?

 そう思いながら俺は風呂場へと向かう。


 本当に、ちょうど良い温度だった。


 しかも、俺の好みの温泉の元まで入ってる。

「至れり尽くせりすぎてやばいな……」


 一人暮らしだと、湯船をためて風呂に張るのがおっくうになってくる。


 一人しか入らないのに風呂掃除したり、湯をためるのが面倒だからだ。


 でも……俺は湯船につかるのが好きだ。


 ……その面倒な作業を、誰かがやってくれる。

 これほど楽なことはない……んだが。


「どうにも泥沼にはまって行ってる気がしてならん……」


 俺が風呂から出ると、タオルと着替えが用意されていた。


 着替えて外へ出ると……。


「あ、お兄さん♡ お夕飯できたよー」

「お、おう……」


 夕飯もまた手のこんだ料理が並んでいた。


 なぜだ、なぜあんな短時間で用意できるんだ……?


「ささっ、たーべよっ」

「うっす……」


 俺たちは食卓を囲む。


「「いただきまーす!」」


 美味い飯だ。実に美味い。

 というかグラタンなんてうちにあったか……?


「冷凍じゃないよ。手作り。ホワイトソースから作ったんだもんね」


「マジかよ……おまえ天才か?」


「ふっははー、天才じゃないよ。奥様だよ♡ ほらほら、もっと褒めて褒めて~♡」


「ああ、すげえよほんと」


 んっ、と真琴が俺に頭を突き出してくる。

 

「すげえすげえ!」

「えへへ~♡ わしゃわしゃすきー♡」


 飯食った後……。


「じゃ、ちゃちゃっと洗ってくるねー」


「あ、おい! 皿くらい洗うって」

 

 真琴は俺を無視して台所に立つ。


「な、なあ……手伝うよ? 手伝わせてくださいよ真琴さんよ」


 真琴が手を動かしながら、こちらを見る。


「ではお兄さんにミッションを与えましょー!」


「おう、何でも言ってくれ」


 くいっ、と真琴があごで、冷蔵庫を指す。


「冷蔵庫に杏仁豆腐あんにんどうふが入ってるから、先食べてて♡」


 ……。

 ……それは、ミッションなのだろうか。


「そこに突っ立ってても邪魔だからどいててね」


「あ、はい……」


 俺はおとなしく冷蔵庫を開けて、中から杏仁豆腐を取り出す。


 スプーンを探す前に……。


「はいスプーン」

「なぜわかったし……」


「妻ですから♡」

「ああそうですか……」


 俺は椅子に座って杏仁豆腐を食べる。

 言葉を失うくらい美味かった。


 なんだこれは。なんだこれは!


「どこで買ったんだ!?」

「あははー。やだなぁ、買ってないよー。手作り」


「マジで!?」


 マジで天才かよ!


「そんなに食べたいならもー1個入ってるからたべていいよー」


 俺は冷蔵庫を開けて、二つ目の杏仁豆腐を手に取ろうとした……ふと気づく。

 

 これは真琴の、自分の分ではなかろうかと。

「うっし、あらいものしゅーりょー……って、何してるの、お兄さん?」


 真琴が冷蔵庫をぱたん、と閉める。


「これおまえのだろ?」


 二つ目の杏仁豆腐を、俺は真琴に向ける。


「ん、まあ。それが?」

「俺は食ったからいいよ。これはおまえんだ」


 俺は真琴に杏仁豆腐の入ったカップを渡す。

「んー……にししっ♡ そうだ。お兄さん、ぼくいいこと考えたんだっ!」


「良いこと?」


 俺たちはリビングへと移動する。


「シェアしよ♡」

「ぶっ……! シェアっておまえ……」


 ようするに分け合って食べようってことだろ?


 いやいやいや、さすがに……。


「お兄さんでも、私の作った杏仁豆腐、もっとたべたいんでしょー?」


「そ、それは……まあな」


「じゃあ半分こだ♡ そーしよ、ね? ね? ねー?」


 ぐいぐいと来るなほんと……。


「それとも~……弟の食べかけは……いや?」


 ずるい……その言い方はずるいぞ……ったく。


「わかった、わかりましたよ。半分こ」

「やたー♡ お兄さんちょろーい♡」


 こいつ……!


「真琴、スプーンをもう1本もってきてくれ」


「あははっ、何言ってるのさお兄さん」


 ひょいっ、と真琴が、俺の持っていたスプーンを回収する。


「え?」

「こーすればいいんだよ♡ はい、あーん♡」


 真琴が杏仁豆腐をすくって、スプーンを俺に向けてくる。


「え、い、いやいや! いいってそういうの」

「あーん♡」


「いや、だから……」

「あーん♡」


 う、有無を言わさないとはこのことか……!


「さっきシェアして食べるっていったよねー?」


「シェアってそういう意味じゃねえだろ!」


「そーゆー意味ですぅ~。はい口開けてー♡」


 すぽっ、と杏仁豆腐を俺の口に突っ込む。

 もむもむ……うめえ。


「さてじゃあ私も一口」

「あ、おおい!」


「ぱくっ♡ ん~♡ たまりませんなぁ~♡」


 俺の口に入ったスプーンを、躊躇なく、真琴が口にくわえやがった!


 こ、こいつ……間接キスだぞ?

 なんでそんな平然としてるんだ!?


「はいお兄さん、2杯め~♡」


 笑顔でスプーンを、俺に向けてくる。


「いや、いやいやいや! それ! おまえの口ついてるから!」


「えー? 何か問題でもありますかい?」


「大ありだわ! おまえの唾液がついてるだろうがっ」


 ニコニコと笑いながら、真琴がスプーンを突き出してくる。


「まあまあ、それもまた乙ということで」

「意味わからん……むぐっ」


 真琴が無理矢理スプーンを突っ込む。


 じょ、女子の唾液が!?(困惑)


「どうどうっ? 女子の唾液ですけど?」


「だ、だからどうってこともないな……」


「顔真っ赤にして~?」


 うぐ……! こやつめ……。


「ぬへへっ♡ お兄さんのなかにぼくが入ってくる……」


「いや言い方。やめろそれ……えっちだろうが」


「え? えっちなことしたい? よしわかった! さっそく今日買ったゴムの電番だねっ!」


「わくわく顔で準備するなっ!」


 デザートをそんな風に食べた後……


「くぬっ! くぬっ! ゆけ、ぼくの赤甲羅!」


 俺たちはテレビの前に座って、ゲームをする。


 家から持ってきた64をテレビにつなげて、ふたりでマリカーをする。


「甘い! バナナガード!」


 真琴の赤甲羅をバナナではじく。


「あー! ずっるい! お兄さんずるーい!」

「ふはは! 勝てば良かろうなのだー!」


「カーズぅうううううううう!」


 1位でゴールインする俺。


「むきー! 屈辱だぁ……! もう一回!」


「いいだろう。何度でもかかってきなさい」


 マリカーで真琴をボコった後……。


「ふぁあ……ねむい……」

「もう23時!? はや……」


 時計が、あっという間に進んでいた。


 真琴が船をこぎ出す。


「おまえもう寝ろ」

「んー……そーするぅー……」


 眠いときは思考力が半分以下になるらしい。

 素直にうなずくと、のそのそと重い足取りで……。


 俺の部屋に向かう。


「ちょっと待て」

「ふぁー……なにぃー……ぼくねむいだけろー……」


 くわー……と真琴が大きくあくびをする。


「自分の部屋があるだろうがっ」


「やだ……おにいさんのおへやがいい……」


 真琴はぽすん、とうつ伏せに寝る。


「おまえ……女子高生って自覚持てよ。俺が何かしたらどうするんだ?」


「だいじょーぶ……だいじょーぶ……おにーさんに……そんなかいしょーないから……ぐー……」


 ったく、好き放題やりやがって……


 俺は真琴に布団を掛ける。


 JKのベッドで寝るのも、あれだな。


 俺は少し距離をおいて、横になる。


「んぅ……おにーさん……」


 真琴がふにゃけた表情で、小さく言う。


「たのしかったよぉ……」


 ああ、そうだ。

 今日は、楽しかった。


「おまえのおかげだよ。ありがとな」


 ふにゃ……と笑うと、真琴は一秒で眠りについたのだった。





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【★あとがき】


モチベになりますので、


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