7話 JKと買い物



 俺たちは駅前に買い物に来ている。


「お兄さんたいへんだよー!」


 びっくりしながら、真琴まことはスーパーを指さす。


「スーパーが! スーパーが自宅から徒歩数分のところにあるっ!」


 驚くのも無理はない。

 真琴と俺の実家は、スーパーと言えば車でいくものって認識がある。それくらい周りに何もないのだ。


「わかる、わかるぞ真琴……おまえの驚き。俺も最初そうだった」


「なんてこった……都会、便利すぎない?」


「ああ。そうだ、覚悟しておけよ。一度都会の便利さを知ってしまったら……もう戻れないぜ?」


「そ、そんな……!」


 青ざめた顔で真琴が叫ぶ。


「ごめんお兄さん……ぼく……もう田舎じゃ満足できない体になっちゃった……」


「ああ……俺もだ。二人一緒に墜ちよう、どこまでも……」


 ふぅ……と俺たちは吐息をつく。


「いこっか」

「おう」


 さっきの茶番はまあ、茶番だ。

 真琴は結構ノリがいい。ぼけるとぼけにのっかってくる。


 そういう昔のノリが非常に心地よい。


 スーパーへと到着。


 ころころと真琴がカートを押しながら、まずは野菜コーナーへ。


「お兄さんおかしいよっ! 野菜が……野菜がこんなに高いなんてっ!」


 青果コーナーに響き渡る真琴の声。


 ただでさえ目立つんだから、あんま注目が集まるようなことはやめてほしい……。


「見てよこのキャベツ! この大きさで、このお値段!? うちの近くの農協で売ってるのなんてもっとやすいよ!」


「わかる、わかるぞ……真琴。だがここではこれが普通なんだ」


「都会……恐るべし……」


 戦慄を覚える真琴がなんだかおかしくって、俺は笑ってしまう。


 それを見て真琴が、うれしそうに笑う。


「何かうれしいことでもあったのか?」

「うんっ! お兄さんの笑顔が見れたからっ!」


「俺の?」

「うん。お兄さんの笑った顔……私……好きよ」


 小さく微笑む彼女は……とても美しかった。

 その笑みと、そして好き……という言葉に、どきり、とさせられてしまう。


「とゆーふーに大人びた女を演じてみたんですが、感想はどうですか~?」


 にまーっと真琴が一転して、子供みたいに笑う。


 ああくそ……また俺をからかいやがったな……。


「随分見ない間に、美人になったもんだなーって感心したよ、チクショウ」


「ほんとっ! わぁ……♡ うれしいなぁ~……えへへっ♡」


 真琴が頬に手を当てて体をよじる。


「これでもけっこー頑張ったんだよね! お兄さんにきもちよーく抱いてもらえるように♡ 体作りがんばりました、胸とか!」


「ぶっ……お、おまえな……」


 雑談しながら俺たちは買うものをそろえる。


「後ほかにいるもんあるか?」

「薬局行きたい」


 俺たちは隣接する薬局へと移動。


 歯ブラシとか生理品とか、そのほか、細かいものを買っていく。


「お兄さんお兄さん」

「ん? どうした?」


 真琴がちょいちょい、と手招きする。


「ちょっと重要なことを聞きます」

「ほぅ、なんでしょう」


「お兄さんのムスコさん、何センチ?」

「は………………………………?」


 急に何を言い出すのだ、こいつ……?


「お兄さんのここだよ、こーこ♡」


 にんまり笑うと、真琴が俺の股間に手を伸ばす。


 ぺろん、と真琴が手で、なめるように、股間を触ってきやがった……!


「お、おまっ! 何やってるんだよ!」


 さっ、と内股になって股間を隠す。


「だから大きさ。これ買っても長さ合わないんじゃ、無駄になっちゃうでしょー?」


 真琴の手の中にあるのは……ゴムでした。


 あれです、幸せ家族計画的な。


「コンドームじゃねえか!」

「え、お兄さん生がいいの~? んも~しょうがないなぁ。いいよ♡」


 ぺんっ、と真琴の頭をたたく。


「おま、おまえな……その、そういうの、やめときな」


「そーゆーのって?」


「だからその……簡単に体を開くみたいなこと、言うなって」


 人前だってこともあるが、軽々と口にしたら、女としての価値が下がる気がする。


「何言ってるのさ。簡単じゃないよ。私、お兄さん以外に抱かれる気ないし」


 至極真面目に、真琴が言う。


「初めては、お兄さんじゃないとやだもん……」


 拗ねたように、真琴が唇をとがらせる。


 ……嫁になるってあれは、マジのやつなのだろう……。


「悪かったって」

「……何が悪いの?」


「いやその……嫁になるってやつが、冗談とばかりに」


「…………」


 後ろ向いて、ふるふると肩をふるわせる。


 ……さっきも同じことあったけが……だがさすがに二度目はないだろう。


「ごめんって……どうしたら許してくれる?」


「…………」


「なんでもするから、言ってみ?」


「え? 今何でもするっていったー?」


 くるっと振る向くと、満面の笑みで俺を見てくる。


 こ、こいつ!

 またも嘘泣きを!


「ふっふーん、何でもするって言ってしまったね~。これは本当になんでもしてもらわないと、契約不履行ですなぁ~♡」


 によによ、と真琴が笑う。

 くそっ……落ち込んでなかったのかよ!


「心配して損した……」

「んふふ~♡ そっか~心配してくれたんだ~♡ ……うれしい」


 真琴が俺に寄り添って、目を閉じる。


「……すごく安心する。お兄さんの隣って」


 どきりとするほどの美人が、驚くほど、近い距離にいる。


 こいつは、たぶん外では相当な美人だ。


 俺がもし同級生だったら、カースト上位すぎて、近づけないほどに。


 そんな彼女が、俺にだけ……こんなに近くにいてくれる。


 それがうれしかった。

 優越感……とでもいうのかな、こういうの。


「買い物かごにしれっとゴムを入れるな」


「ちぇー、目ざとい!」


 俺は元にあった場所に戻す。


「いざつかうって時になってないと、困るでしょー?」


「ばか。そんなときは来ないから」


「そうかなぁ。来週くらいには……いや、来月にはもう使ってそーだけど?」


「はは、まさか」


 ……と、そこで、気づく。


 薬局に来ていた、お母様たちが……。


「あらあら」「若いカップルねえ」「ほほえまー♡」


 ……生暖かい目で見られてるし!


「あ、いや、カップルじゃないですよ!」

「そーでーす!」


 真琴が笑顔でそういう。


 ……即答って……ちょっとやだな。いや、いやだなってなんだよ……。


「カップルじゃない……私たち、夫婦でーす♡」


「「「きゃあああああ♡ いいわぁ~♡」」」


 奥様がたが誤解してしまった!


 俺はさっさと会計を済ませて、真琴を連れて外に出る。


 帰路につきながら会話する。


「ったく、妙なこと言いやがって……」


「だってほんとじゃーん。一緒に住んでいる、仲の良い夫婦なんだし♡」


「一緒に住んでる仲の良いやつらは、全員夫婦になるのか、おまえのなかじゃ……」


「え、ちがうの?」


 いやでも……そうか。

 仲の良くて一緒に住んでるのなって、カップルか、それか夫婦くらいで……あ、あれ?


「も、もしかして……俺……結構、詰んでる?」


「え、今更~?」


 んふふっ、と真琴が実に楽しそうに笑う。


「もうあと数手で王手かなー?」


「いや、まだだ……! まだ諦めないぞ!」


「そんなあなたに、はい、こんどーむー」


 買い物袋から、真琴が箱を取り出す。


「おまえ! いつの間に!」

「慌てて支払いしてる時に、ぽいっと紛れ込ませておいたのだー! いやぁ、これほしかったんだよー」


 真琴がスカートのポケットの中に、箱をしまう。


「おまえな……そんな無駄なもん買わせやがって」


「ふっふーん♡ さぁ、果たして本当に無駄になるかな~?」


 かさかさ、と真琴が箱を揺すって笑う。


「ったく……おまえはよぉ……」


 今日一日で、どんだけ振り回されたか……。

 ちょっと買い物へ行くつもりだったのだけで……。


「さー、かえろー!」


 両手で袋を持つ真琴。


 俺は、彼女から袋をひょいっと回収。


「え、どうしたの?」

「持つよ」


 両手で持つってことは重いってことだろうしな。


 真琴は女だ。

 いくらノリが昔の……弟だと思っていたときと、同じでも。


 か弱い女の子なのである。


「ふーん……ふふふっ♡」


 真琴が後ろから、ぎゅっとハグしてくる。


 お、おっぱいが当たる……!

 ぐにってなる!


「おま……離せ!」


「いやーでーす。帰るまでこーしてまーす♡ へへっ♡」


 ああくそ、両手が塞がってるから引き剥がせないしっ。


「お兄さん……頼りになるね。かっこいいよ……ほんと」


 か弱い一面を見せられ、こうして大人っぽい声音でつぶやかれると……やっぱりドキドキしてしまう。


「胸板さわさわ」

「ひょわっ……! や、やめろよぉ!」


 艶っぽい雰囲気から一転。


 にししっ、と真琴が笑う。


「どうだい、エロい気分になったかね?」

「みじんもねえよ!」


 そんな風に馬鹿馬鹿しいやりとりしながら……俺たちは帰路についたのだった。



――――――――――――――――――――


そろそろ、かすみ側にも触れてきます。


面白い、続きが気になる、ざまぁも気になる


と少しでも思ってくださったら、


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