6話 街をぶらりとデート



 日曜の昼前。

 俺は、こっちへ越してきたばかりの真琴まことに、街を案内することになった。


「おぉー! すっごい! 大都会だー!」


 俺たちがいるのは、自宅マンション近くの駅だ。


 駅ビルを眺めて、真琴が目をキラキラさせる。


「おまえうち来るときも、この駅使ったんじゃなかったの?」


「すぐタクシー乗っちゃったから、じっくり見てなかったんだよー。わぁ……! 都会だなぁ~……」


 ふっ……かわいいなこいつ。


「むっ、なぁにその顔」

「いいや、この程度で都会なんて、はしゃいでてさ……」


「なん……だって……」


 わなわな、と真琴が喉を震わせる。


「ま、まさか……お兄さん、これ以上の都会が……あるって言うの!?」


「もちろん。つーかここ、都心部から結構離れてるし」


 俺が住んでいるのは大田区、東京の南側だ。

 都内とはいえ、ほかのとこと比べて、発展はしていない。


「渋谷新宿いったら、腰抜かすなぁこれは」


「むぅー……」


 ぷくっ、と真琴が頬を膨らませる。


「どうした?」

「なんだよお兄さんっ、一人だけ都会人ぶってっ! 自分だって田舎生まれ田舎育ちの生粋の長野県民のくせにー! なまいきー!」


 どうやら都会自慢されたとおもって、すねてるのか。


「これくらいで拗ねるなって」


「拗ねてませんっ」


 ぷいっ、とそっぽを向く真琴。


 まいったな……。


「わかった、すまなかったって。今度渋谷連れてってやるから」


 くるっ、と真琴がこちらを向く。


「はい言質とった~♡」


 その手にはスマホをが握られており、ボイスメモが起動されていた。


 こ、こいつ……!


「拗ねたふりして、俺との外出の予定を取り付けやがったな!」


「ふははー! 甘いなぁお兄さん。ぼくがそんな程度で拗ねるわけないじゃーん」


 にまにま笑いながら、真琴がボイスメモを再生する。


【わかった、すまなかったって。今度渋谷連れてってやるから】


「はい次のデートは渋谷にけってー!」


「いやあの……真琴さん?」


【わかった、すまなかったって。今度渋谷連れてってやるから】


「ああもうわかったよ!」


 なんだか終始、こいつの手のひらの上で、踊らされてる気分になる。


「ぬへへ~……♡ へへっ♡ セカンドデートは渋谷かぁ。楽しみだなぁ!」


「ったく……ほらいくぞ」


「うん!」


 きゅっ、と真琴が、実に自然体で、俺の腕をつかんできたのだ。


「ちょわっ!」

「んー? どうしたの、お兄さん?」


 きょとんとかわいらしく首をかしげる真琴。

 くそっ! かわいいな!


「いやおまえ! 距離! 距離感!」


「ん? なんかぼく変?」


「適切な距離を保ってください!」


 なるほど、と真琴がうなずく。


「はい、ぎゅー♡」


 さっきよりも密着してきやがったー!


 む、む、胸が腕に!?

 こいつ……こんなでかいのか!?


「は、離れませう!」

「いやでせう♡」


 ぐいっ、と俺は真琴を押しのける。


 彼女がけらけらと笑う。


「お兄さん顔まっかーだよー? あれれ~? もしかして女子と腕組んでお出かけとかしたことなかったのかな~?」


「…………」


 思い起こされるのは、かすみとのデート。


 こいつのいうように、腕を組んでデートとか……したことなかったな。


 なんというか、女と、どう接していいのかわからなくて……結局遠慮していた。


 そっか……そういうとこが、だめだったのかな……。


「おにーさん♡」


 ぐにっ♡


「ちょっ!?」


 真琴が今度は、体にハグしてきたっ!


「お、おま……」


 だが真琴は、静かに微笑んで、俺を見上げる。


「ぼくは逃げないし、拒まないよ?」


「!? お、おまえ……もしかして……」


「うん。知ってる。別れたこと」


 ……そうか。

 考えてみりゃ、うちと真琴の実家は、仲がいいし隣同士だ。


 俺が都会へいって、何があったのか、知ってても……おかしくない。


「ぼくはあんな恩知らずとは違うよ。ずっとお兄さんのそばにいるし。何しても拒否しない、ぜーんぶ受け止めるから……ね? だから安心して」


 ……俺は、元々女との付き合いが、得意ではない。


 かすみと付き合っていたときでさえも、それは直らなかった。


 でも……真琴は違う。


 こいつとの付き合いは、なんといか、昔のままなんだ。


 こいつは俺に対して、変に気を遣わないし、逆もまたそうだ。


 ……気を遣わなくていい相手なんだ。


「そうだな……うん。そうだったよ。おまえは……真琴だ」


「うんっ、ぼくは真琴。お兄さんのかわいい妹で……私はお兄さんのかわいいお嫁さんなんだぞ♡」


 にこっ、と笑う真琴がかわいくて、俺は頭をくしゃくしゃとなでる。


「ん~♡ それたまりませんなぁ~♡」


「ったく、あんがとな真琴」


「ん。まあーいいよっ。だめな亭主を支えるのも、良妻だってお婆ちゃんが言ってた!」


 俺は自然体に笑い、彼女もまたいつも通りに笑みを浮かべる。


 ああ、どこまで行ってもこいつはこいつのままなんだ……


 うん、なんかほっとする……。


「いくか」

「おー♡」


 俺の腕にひっついたまま、真琴が俺についてくる。


 歩くたび……ゆっさゆっさ、と真琴のおっぱいが揺れる。


 ゆ、揺れるってすごいな……で、でかい……。


 どれくらいなんだ、サイズは……。


「Gです!」


「ふぁ……!?」


 こ、こいつ!? 急に……え!? も、もしかして思考を読んだのか!?


「ふっふっふー♡ お兄さんは、単純だなぁ~♡」


 にひひっ、と真琴がいたずらっ子のように笑う。


「顔にすーぐ出る♡ おっぱいのサイズが気になってるって、ばーればれだよ♡」


「あ、いや……その……」


「別にいいよー。お兄さんにならぜーんぶ教えてあげる♡ 何知りたい? スリーサイズ? 生理の周期? 1日何回おなにーしてるとか?」


「ぶっ……!?」


 お、おな……おまえぇ!?


「あははっ! 顔真っ赤ですけど、どうかしましたお兄さんくーん?」


「くっそ……こいつめ……年上をからかいよって……」


「別に年上ぶらなくていいよー。そのままのお兄さんのこと、私だいすきだし」


 実に楽しそうに、さらっと……真琴が言う。

 な、なんか照れる……。


「ちなみに5回です。おかずはもちろん全部お兄さんです♡」


「ご……!? マジで言ってるのか!?」


「うっそーん♡」


 ……こ、こいつってやつはよぉ。


「お兄さんはちなみに何回?」

「ノーコメントで」


「ベッドの下のエロ本のジャンルが、髪の長いおっぱいの大きい女性であることについて一言」


「ノーコメントで!」


 真琴が楽しそうに笑う。


 ほんと……ずっと笑ってるなこいつ、ったく。


 ……でも不思議と、真琴の笑みは見てると癒やされる。


 明日が会社であることも、かすみに手ひどくふられたことも……。


 彼女の笑顔の前では、全部がどうでもよく思えるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


物凄くモチベになりますので、


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