3話 俺は幸せな、元カノは不幸な新生活を



「とゆーわけで、岡谷おかや 真琴まことくんは、真琴ちゃんでしたー!」


 風呂から上がった後……。


 リビングのソファに、真琴があぐらをかいて、ニコニコしながら座っている。


「おまえ……スカートなのにあぐらをかくなよ……」


 最初の服装から一転、今の真琴は、ミニスカートにTシャツというラフな姿だ。


 ……改めて思う。


 すっげー美少女!


 昔男にしか見えなかった真琴は、今や見違えるくらい、美しく成長している。



 さらさらの黒くて長い髪の毛。

 真っ白な肌。


 長いまつげ。

 そして、女性にしては身長が高い。そして、胸がデカい。


 モデルと言っても差し支えないくらいの、まごうことなき、美少女だ。


 それが……弟だと思っていた真琴の正体だって?


 すぐに受け入れられん……。


「というか、すまん……まじで」

「ん? どうしたの? お兄さん?」


「俺のせいで……その、裸見られちゃって……嫌だったろ? すまん」


 きょとん、と真琴が目を点にする。


 にこーっ、と笑うと……。


「あーあー、裸見られちゃったなー。これはー。責任取ってもらわないとなー」


「うぐ……そうだな」


 とても楽しそうに、しかし、嬉しそうに、真琴は笑う。


「それじゃあお兄さん。ぼく……じゃなくて、私を一生、そばに置いてよ♡」


 え?

 は……え?

 な、なんて……?


「だーかーらー、私をお兄さんのお嫁さんにしてーって」


「いや……いやいやいや! お前何言ってるの!?」


 お嫁さんって!


「歳離れすぎてるだろ!」

「そう? 7歳差でしょ? 私、年上の彼氏ぜんぜんOKだし」


「お、親父さんが反対するだろ!」


「ぱぱにはオッケーもらってきたから。ここで永久就職してもいいって」


 そ、そう言えば源太さん、電話でなんか変だった。


 って、そうか! 向こうは俺が、真琴を女だと思ってるって上で、言ったってなってるのか!


「ま、まじ……?」


「ん♡ まじっ♡」


 な、なんてこった……。

 外堀、埋められてる……。


 てゆーか、俺自分で、こいつの親父に娘を責任持って面倒見るって言ってしまったし。


 あ、あれ?

 もしや、詰みでは?


 いや! まだまだ!


「おまえ……学校どうするんだよ?」


「えー、どうって?」


「だっておまえ……女だったじゃんか。男と一つ屋根の下でなんて……暮らせないだろ?」


 んふふ~と真琴が楽しそうに笑う。


「そんなことないよー。さっきも言ったじゃん、私はお兄さんのお嫁さんになるためにやってきたんだってー」


「お、俺の家から通うのか……学校?」


「もちっ! アルピコ学園ってこっからめっちゃ近いんだよー。リサーチ済みです」


 マジかよ……!


「いやでも……」

「おやおや~? お兄さん、さっき言ったよねー? 責任取るってぇ?」


 上目遣いに、からかうように、真琴が言う。


「私を放り出す? 困るなぁ。この時期でもう新しく住む場所なんて、すぐ見つからないよー」


「た、確かに……」


 俺も大学生、社会人を経験したから、わかる。


 3月の時期は、異動の時期だ。


 ゆえにアパートもなかなか見つからないし、なにより、引っ越し業者がどこもいっぱいで、受け付けて貰えないのである。


「お兄さん、私を外に放り出す? 三月とは言え肌寒いよー外。うえーんえんえん……ちらり」


 そんなこと言われたら……。


「断れないじゃないか……」


「えー? なんだってー? 聞こえないなぁ。大きな声でおねがーい?」


「ああもう! わかったよ!」


 俺は真琴を見やる。


「しばらく、よろしくな」


 にかっ、と笑って、真琴が手を伸ばす。


「末長く、よろしくっ!」


 がしっ、と力強く、真琴が俺の手を握る。

 その手は……小さくて柔らかくて、女の手をしている。


 思わずドキッ、としてしまい、手を離す。


「いや、しばらくだから。高校の間だけだから」


「ふははー! あきらめたまへー、お兄さんは私の魔の手から逃れられないのだー」


「魔の手っておまえ……」


 にぃ……といたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「私、この日のためにずぅっと特訓してきたんだ。家事とか、料理とか……あと殿方を喜ばせる誘惑術とか♡」


 おいなんだよ最後のヤツ!


「あの手この手使って、お兄さんを、メロメロにしちゃうんだ♡ そんで、私がいないと生きてけない、駄目人間にしてあげる♡」


 こいつ……そのために、全て仕組んでやがったな……!


 くっ……! 俺は負けないからな!


 駄目人間になんて、ならないんだからな!


    ★


 薮原やぶはら 貴樹たかきが、幼馴染みと同居を始めた一方で……。


 元婚約者、犀川さいがわ かすみは……。


「痛っ! 痛いッ! やめてっ!」


 彼女がいるのは、かすみと、そして新しい彼氏とすんでいるアパートだ。


 かすみは彼氏に髪の毛を引っ張られ、殴られている。


「くそっ! クビにしやがった! あのクソ上司! くそっ!」


「やめて! 離して! 痛い痛い痛い!」


 彼氏は乱暴にかすみを放り投げると、部屋を出て行く。


「……どうして、こんなことに」


 そう、新しい彼氏は、DV男だったのだ。


 かすみが元彼たかきと別れ、正式に自分の女になった途端……。


 先ほどのように、暴力を振るうようになってきたのである。


 優しかったのは、最初だけ。


「あんなのより……貴樹のほうが良かった……貴樹……貴樹……」


 かくして、貴樹が幼馴染みと幸せな同居生活をスタートする一方で、かすみの後悔の日々がスタートする。


 かすみは今彼からのDVに耐えられなくなり、貴樹のもとへ、泣きついてくるのだが……。


 それはまた、未来の話である。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


これにてプロローグ終了。


次回から同棲が本格的にスタートします。


頑張って更新していきますので、

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