第155話 小学生たちの夏 ー2
そして20時。
待ち時間がなくていいだろうということで、【竜の雛】ギルドホームの地下デュエル場に集まったオウガ、メイ、パンチョ、そしてゾーマ。
バトルフィールドではオウガとゾーマが向かい合い、パンチョとメイは観客席にて、成り行きを見守っている。
両者無言でにらみ合っていると、デュエル開始のシステム音声が鳴り響いた。
「……っ!? ゾーマ、それは」
「見せてやるよオウガ。これが俺の新戦術――【沼地作成】」
魔法使い専用の武器である【魔道書】を広げたゾーマは、新スキルである【沼地作成】を発動する。
それと共に、一瞬の内にバトルフィールドは沼地に変貌する。
「あいつ……まさか」
オウガの脳裏に、先日のピエールの戦いが思い出される。ゼッカたちですらまだ、具体的な対抗策を見つけていないこの戦法を、ゾーマはマスターしたというのだろうか。
(いや、ハッタリだ。例えスキルポイントを振り直したとしても、魔道書を揃えるのにはそれなりの資金が必要なはずだ)
現に、ゾーマが操る魔道書は手に持った一冊のみ。複数の魔道書を同時に操ることができる【
(ならやりようはある)
「――【さざなみ】!」
「その手は食らうかよ――【ソードディメンジョン】!!」
オウガはストレージから7本の剣を呼び出す。空中の剣を足場にすることで、波を回避した。そして、手動操作でゾーマの所まで等間隔で剣を配置すると、ジャンプで飛び移っていく。
「このまま接近すれば……」
「甘いな――【暴風】!」
「しまっ!?」
凄まじい風がオウガを襲う。その風の力を空中で受けてしまったオウガは次の剣に飛び移れず、沼地に落下する。
「おっと」
だが、沼地に体が引きずり込まれる前に立ち上がる。
(考えろ。決め技の【マーズ・グラビティ】発動のためには10000ポイントのMPが必要……まだ時間はある)
「おっと、休ませないぜオウガ――【ロッドディメンジョン】!」
ゾーマがスキルを発動すると、彼の周囲に7本の魔法杖が出現する。それらはオウガを捉えると、それぞれに内蔵されたスキルを発動する。
【ファイヤーボール】や【ガンド】といった低レベルのスキルがマシンガンのようにオウガ目掛けて放たれる。
「ちっ……」
魔法によるダメージ軽減効果のある【ミスティックシリーズ】を装備したオウガにとって、一発一発は致命傷にはなりえない。だが【ガンド】の追加効果を引くと厄介なので、結局回避を強いられる。
だが、その回避の途中、黒い魔法弾がオウガの肩を掠めた。ダメージはない。だが【ガンド】による数秒間の【スタン状態】がオウガの動きを止める。
「今だ――【ストーンフォール】!」
オウガの頭上から、巨大な石がいくつも降り注ぐ。
「ぐっ――!?」
その落石に押しつぶされる形で、オウガの体は沼地の中に沈む。
(くっ……マズい……早く出ないと……でも……動けない)
「驚いたかオウガ? 1VS1なら、別に【マーズ・グラビティ】なんて使わなくてもいい。この戦法、本当に奥が深いよ……って、聞こえないか」
オウガは結局脱出することができず、このデュエルはゾーマの勝利に終わった。
***
***
***
「メイさんとパンチョが降りてくる前に、手短に済ませるよ」
勝負が終わり、バトルフィールドが戻った後。ゾーマは真剣な顔でオウガに向き合った。
「GOO夏祭りで、タッグトーナメントが行われるのは知っているだろう?」
「ああ。ってか、主催はウチのギルドの新入りさんだからな」
「なら話は早い。誰でもいい。タッグを組んで出場しろ。そして……俺と戦え」
「……なんでだよ?」
オウガの質問に、ゾーマは答えない。まるで「言わなくてもわかるだろ?」と言わんばかりの強気な目。
「寧ろ出場するなら……俺はお前と組んで出たかったんだけど?」
「それは無理だ。俺はお前と組む気はないからな」
「……そうかよ。けど、わからねぇな。俺に勝ちたいんだったら、今ので十分じゃないのかよ?」
「いや、俺の戦い方はまだ未完成だし、こんな不意打ちみたいな勝ち方に、価値はないよ。それに、戦うならより大きな舞台で戦いたい。男なら、そう思うだろ?」
とりあえず、お互いに準備期間を置いて、改めて戦いたいらしい。
「だから俺以外と組んで戦え。そして勝ち上がってこい。さもないと……そうだな。お前の好きな人に、お前の気持ちをバラすぞ?」
オウガは信用しているゾーマにのみ、自分の気持ちを相談したことがある。その時はいろいろとアドバイスを貰ったものだ。
「俺は別にバラされても構わねぇよ……」
「いや、構わないじゃないだろ……」
「その内自分で言うつもりだし。ただ、お前がそんなことする奴じゃねーって俺は信じてるけどな」
「はは、随分信頼されているな。けど、わからないぞ?」
「駆け引きはやめようぜ? まっ、お前が似合わないようなことしてまで俺と真剣勝負したいっていうなら……受けてやるよその勝負」
「よく言ってくれたオウガ。じゃ、楽しみにしているよ」
「……」
言いたいことを言い切ったのか、ゾーマは地下デュエル場を後にした。
「なんなんだよアイツ……真剣勝負? 意味がわからねぇよ」
困惑するオウガ。あんなに闘争心をむき出しにしたゾーマの姿は、初めてだった。
「それにしても……」
自分に向かって駆け寄ってくる女子二人をぼんやりと眺めながら、オウガは思った。
「タッグパートナー……どうしよう」
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