第154話 小学生たちの夏 ー1

【前書き】

オウガ→男鹿 優作

パンチョ→八千代 澪里

メイ→天王寺 皐月

ゾーマ→半田 創真



【本文】

 8月4日。午前7時。


 ヨハンたち社会人が憂鬱な気分で出社準備をしているこの時間。


 小学生のオウガこと男鹿優作おが ゆうさくは、近所の河川敷でボールを蹴りながら走っていた。それに付き合うのは、元々同じチームだったパンチョこと八千代澪里やちよ みおり


 互いにワンタッチでパスを繰り返しながら、100メートル程の距離を駆け抜けていく。そして、ゴールラインにたどり着いた優作は、腕で額の汗を拭う。


「ふぅ……大分体力が戻ってきた」

「そうみてーだな優作」


 一度はサッカーを辞めた優作。だが、ゲームとはいえクロスに勝った優作の気持ちは、次に向いていた。

 中学に上がったら部活に入り、サッカーを再開する。


 そのための、早朝特訓である。夏休みに入る少し前から始めた早朝特訓は、夏休みに入ってから澪里(パンチョ)が合流。そしてもうひとり。


「なぁ優作。アイツ何しに来てるんだ?」


 優作に耳打ちする澪里。指差す先に居るのは、ベンチに腰掛けた白いワンピースの少女。白い大きな帽子と日傘で日差しを遮り、顔の半分くらいの大きさのサングラスをしているのはメイこと天王寺皐月てんのうじ さつきである。


 優作が朝トレーニングを澪里と一緒に行っていることを知ってから、毎朝現れるようになったのだ。


「さぁな。アイツの考えていることは俺にはわからないよ」

「ふぅん。まぁ、大体想像つくけどなー」


 澪里はニヤっと笑う。


「おーい! 見てるだけじゃつまらないだろー! お前もやろうぜー!」


 そして、大声で皐月に呼びかける。だが、皐月は無言で足をすっと上げる。


「あー」


 皐月が履いているのが白いサンダルだと気づいた澪里は、サッカーに参加させるのを諦めた。


「あれじゃ無理だわな」

「マジで何しに来たんだ天王寺のやつ……」


 皐月の考えが読めずに困惑する優作。その後、30分ほど練習を続けて。


「よし。そろそろ解散するか!」

「じゃ、朝飯食ったら闇の城に集合だぜ?」


 タオルで豪快に汗を拭った澪里はにこやかに言った。


「いや、集合は晩ご飯の後でしょ?」

「まぁ、それまでは勉強だよなー」


 そんな澪里の提案には乗ってこない皐月と優作。


「ま、マジかよお前ら……夏休みだぞ? イン・ザ・サマーだぜ? あ、ああそうか。宿題やってるのか」

「宿題は7月で終わったよ?」

「8月の日中は、自分の勉強に時間を使ってるな」


 最近の夏は、命に関わるレベルで暑い。なので、運動は早朝に済ませ、昼間は家で勉強。夕方~夕食後くらいの時間からゲーム。


 これが優作の夏休み版ルーティーンである。


 当たり前のような顔で勉強と言い放った二人のことを、信じられないものを見る瞳で見ながら澪里は呟いた。


「お、お前らマジかよ……優等生じゃねーか。俺たち小学生だぜ? 遊ぶのが仕事だろ?」


「いや別に強制はしねーよ? 先にログインして遊んでりゃいいんじゃね?」

「そうね。今の時間ならレンマさんがいると思うし」


「レンマ……ああ! ゴリパイのことか!(ゴリパイ→ゴリラパイセンの略)なら早めにログインしてモフモフさせて貰うぜ」


「うし。それじゃあ本格的に暑くなる前に、解散しようか」


「うん」

「おーう。また後でなー」


 と、三人が解散しようとしたその時。


 ふと、気配プレッシャーを感じた。その気配を追って、土手の上を見上げると……意外な人物がそこには立っていた。


「お、お前は……まさか」

「生きていたのか……!?」


 土手からこちらを見下ろしているのは、優作たちのクラスメイト、ゾーマこと半田創真はんだ そうまだった。


 ここ数日連絡が取れず、仲間内では死亡説が囁かれていただけに、優作たちは驚きを隠せない。


「よう優作。めんそーれ」


「……っ!?」

「野郎……っ!」

「あの浮ついたアロハシャツ……間違いねぇ」

「ああ、あいつ沖縄旅行に行ってやがったんだ!」


「その通りだ。親父が急に言い出した旅行だった上にスマホを家に忘れてな。心配かけてすまなかったよ」


「とにかく無事ならいいけどさ。わざわざ何の用だよ」


「ああ、そうだったな。お前に直接伝えたいことがあって、わざわざ来たんだ」


「直接?」


 その言葉に引っかかりを覚えつつ、優作は土産だという紅芋タルトを受け取った。


「優作。今日の20時にGOOで落ち合わないか?」

「20時? いいけど。ギルマス居るかな……。面談すっぽかしてすみませんって、一緒に謝りに行くか?」


「うん。それがいいよ! ヨハンさん全然怒ってなかったし、きっとすぐにメンバーに入れてくれるよ!」


「オメーも混ざれよ。あのギルドの人たちめっちゃ面白いぜ?」


 創真のGOOでの用事が、竜の雛への加入だと思った三人。だが、創真は首を振った。


「悪いが優作。俺は竜の雛には入らないよ」

「なっ!?」


 驚く優作。親友と言っていいくらい仲の良い創真に断られ、ショックを受けたのだ。


「なんでだよ? 一緒にやろうぜ?」


「なんでだよ……か。その理由は……そうだな。GOOで集まった時に話すよ。だから準備をしておいてくれ」


「準備?」


「ああ。俺とデュエルしろ優作」

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