第153話 美少女コンテスト開催

 百物語から一夜明けた8月2日の午後。


 レベル上げと練習を兼ねた狩りを終えたゼッカ、ギルティア、ミュウの三人は、アマテラスシティの中を歩いていた。

 【GOO夏祭り】の準備期間ということで、いつもよりも街に人が多い。そして、ワイワイと活気に満ちていた。


 だが、三人にはそれ以外にも、気になることがあった。


「はい、あーん♡」

「うん。あーん♡」


「手、繋いでいい?」

「うん、いいよ」


「見せつけてくれるねぇ」

「なんかカップル多いねー」


 気が付けば、三人の視界には無数の男女、カップルが居た。


「夏は恋の季節って感じかしら? まったく鬱陶しいわね」

「どうなんだろうね?」

「イチャイチャイチャイチャ。鬱陶しくて仕方が無いわ!」

「まぁでも本人たちは幸せそうなんだし、いいんじゃない?」


 少々照れくさそうに言うギルティアとミュウ。


 だがその時。


 ガンッ。


 二人の後ろを無言で歩いていたゼッカに、一組のカップルがぶつかった。


「あっ、すみませーん~」

「ぶつかっちゃいましたーテヘッ」


 ぶつかったカップルが謝罪する。自分たち以外まったく目に入っていないような幸せそうな雰囲気。それでも、一応謝罪してくれた。

 だがその適当な謝罪が逆にゼッカの逆鱗に触れた。


「チャラチャラヘラヘラと……手首ごと切り落とすぞっ!!」


「「ひっいいいい!?」」


「やめなってゼッカ!」

「みっともないわよ!」


 暴走するゼッカを羽交い締めにするミュウ。その間に、無事カップルプレイヤーたちは逃げ出した。


「まったく昼間からイチャイチャと、邪魔くさい」


 逃げ去るカップルたちの背をキマッた目で睨み付けながら、吐き捨てるように言うゼッカ。


「邪魔と言えば、外のフィールドに設置された道路みたいなやつも邪魔よねぇ」

「あ、あれは……ヨハンさんが楽しみにしてる奴だから……」


 ギルティアが言っているのは、殺殺ホビー部主催レースの為のコースのことである。


「まぁまぁ二人とも。お祭りが盛り上がるのはいいことじゃない。今しか味わえない雰囲気を楽しもうよ」


 ミュウがにこやかに二人の肩をたたく。


「まぁ……別に嫌じゃないけどね? 本当よ」

「私も。カップルたちにはもう少し自重して欲しいけど……ん?」


 いまだにカップルたちへの怨恨を捨てきれないゼッカは、とある看板を見つける。駆け寄ってみると、広い公園にはステージのようなものが設置されている。


「【美少女コンテスト】……ミスコンみたいなものかな気持ち悪い」


 嫌悪感をあらわにするゼッカ。


「本当だ~。今のご時世でよくこれの審査が通ったね」


 と同意するミュウ。


「本当よね全く。アタシを呼ばないなんて、主催者は何を考えているのかしら」

「ギルティア?」

「話付けるわ。ちょっとちょっと。責任者出てこーい。美少女が参加してあげるわよー!」


 大きな声で叫ぶギルティア。すると、その声に気が付いたのか、一人のプレイヤーが駆け寄ってきた。

 そのプレイヤーの名はライル。かつて殺し合い祭りでヨハンたちと同盟を組んだギルド【神聖エリュシオン教団】のギルドマスターである。


「やぁやぁ。ようこそようこそ。おや、これはこれは。元【最果ての剣】のギルドマスター、ギルティアさんじゃありませんか。今日は一体どんなご用ですかな?」


「どんなご用もないわ。アンタたち、美少女コンテストを開催するんでしょ?」


「ええまぁ。見てわかりませんかな?」


「喜びなさい。その美少女コンテストに、アタシも参加してあげる。盛り上げてあげるわよ!」


 自信満々に胸を張るギルティア。それを受けてライルは、訝しげな瞳でギルティアの頭の上からつま先までを、値踏みするように見つめると。


「お断りします」

「なんでよ!?」


 ギルティアの参加を断った。


「あの、理由はなんなんですか? あっちには『エントリー受付中』って書いてありますけど」

「頭はあれですけど、ギルティアは身内のひいきを差し引いてもかなりの美少女だと思うんですが……」


 流石に理不尽かと思ったのか、ゼッカとミュウも、低姿勢ながら抗議する。


「そうよ。アンタまさか、アタシが美少女じゃないって言いたいわけ?」


「いえいえそんな。寧ろギルティアさんはとても魅力的な美少女だと思いますよ。ですが美少女……そう。ギルティアさんは女性ですよね?」


「そうよ、当然じゃない」


「残念ながら我々の開催する美少女コンテストは、女性は参加不可能となっておりまして」


「なんでよ!? 美少女コンテストでしょー!?」


 困惑するギルティア。後ろのゼッカとミュウも流石に混乱する。


「ええと、それじゃあ男性しか参加できない……女装コンテストということでしょうか?」


「女装? いいえ違います。まぁ美少女力を計る為に女の子の服や下着を着て貰うことはありますが、我々がやるのは女装コンテストではなくあくまで美少女コンテスト」


 力説するライル。だが三人には、目の前の居る男が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。


「おかしい。同じ日本語を話しているはずなのに、私には目の前のこの人が一体何をしゃべっているのかわからない」


「かの有名なロシアの詩人、オトゥコ・ノ・コスキー氏もこう言っていました。『男の娘は美少女よりも美少女であろうとしている分、本物の美少女よりも美少女だ』と。つまりそういうことです」


「いやどういうことよ!? あとその人誰!? さも知っていて当然みたいな感じ出さないでくれる!?」


 キレ気味のギルティア。そんなギルティアをミュウが宥める。


「や、やめなよギルティア。この人ちょっとおかしいよ。関わらない方がいいって」


「止めないでよミュウ! このアタシが美少女コンテストに出場すらできないって……認められないわ!」


「HAHAHA! 貴方ごときが美少女とは笑わせる。股間にイチモツ生やしてから出直してきたまえ」


「唐突にセクハラ!?」


 一方ゼッカは、好戦的に瞳を輝かせる。


「女性には参加権はない。逆に言えば男性なら参加権がある。そういうことですねライルさん?」

「まぁ……そうなりますね」


「どうしたのゼッカ?」

「アンタ……まさか」


 ライルの言っていることはおかしい。だが、逆にそれがゼッカのゲーマー魂に火を付けた。


「ギルティア、ミュウ。私はこの美少女コンテストを攻略したくなった」


「ほう……?」


 挑発的なゼッカと、その気概を感じ取り笑みを浮かべるライル。


「辞めておきなさいよゼッカ」

「そうだよ。人生の時間はもっと有意義に使おうよ」


 優しさから止めに入る二人。こうなったゼッカは、友人の二人でさえ止めれない。


「だがゼッカさんとやら。君とて美少女。当然この美少女コンテストの参加権はない。一体どうするつもりかな?」


「当然、参加権がありそうな人を呼ぶ」


「言っておくが【煙条P】と【ドナルド・スマイル】は禁止カードだ。呼んではいけないよ?」


「むっ……?」


「いや図星なのか!? 君は可愛い男の娘を見に来た客に一生もののトラウマを植え付けるつもりだったのか!?」


「え? そんな奴らがどうなろうと構わないじゃないですか」


「本気のキョトン顔やめろ。君は鬼か……」


 切り札を封じられたゼッカ。その時点で多少熱は冷め、どうでもよくなり始めているが……。


(このまま負けるのは癪だな……)


 という負けず嫌いで、今度はオウガを呼び出す。


 既にログインしていたオウガは、3分ほどで現れた。


 何事かと現れたオウガに事情を説明するゼッカたち。


 そしてオウガの返答は。


「嫌だよ」


 至極当然の反応が返ってきた。


「まぁそうよね」

「嫌だよね~男の子なのにこんなの出るの」


「……」


 だがゼッカは納得がいかないようだった。


「よしオウガ。もし優勝できたら何でも言うこと聞いてあげる」


「……っ!? いや無理だって。俺に美少女要素とかないし……そうっすよねぇ?」


 助けを求めるようにライルの方を見るオウガ。


「うむ……悪くない。イケる!」


「ほら行けるってさ。私のために死んでこいオウガ!」


「うわあああああああああ」


 あまりの恐怖に発狂しそうになるオウガ。


「お、我が親友オウガじゃないか!」


 そんなとき、騒いでいたオウガの声を聞きつけたクロスが、パタパタと駆け寄ってきた。


「く、クロスか……?」


 駆け寄ってきたクロスは【美少女コンテスト】の看板を見つけると、ふふんと笑う。


「なるほど、これに出場するのかオウガ。ならば僕も出場しよう! どちらが良い点数を取れるか勝負だオウガ!」


「いや待ってくれ。お前はもうちょっと色々なことに疑問を持ってくれ」


「この世のあらゆる事象には必ず答えがある。ならば敢えてそれに疑問をもつことはない。おや、あなたが主催者か? 当然、僕も参加できるんだろう?」


「ももももももちろんだ!」


「……?」


 クロスを見たライルは、顔を赤らめ、興奮した様子でクロスの手を握る。その態度は流石に不気味に感じたのか、クロスの顔が若干引き攣った。


「素晴らしい実に素晴らしい! 君は我が聖女にも匹敵する逸材だ! え、しかも小学生なのかい? Foooooo!! 同士たちよ! 来たぞ! 新たな時代が!」


「え? え? え?」


 ライルの叫びに共鳴するように、奥で作業をしていた教団メンバーたちが沸き立つ。そんな中にクロスは引き摺り込まれていく。

 そしてクロスを目にした教団のメンバーたちは歓喜。美少女コンテスト会場はまるで祭りのように盛り上がった。

 そんな中、容姿を褒められまくって調子に乗ったのか、クロスの大きな声が響いてくる。


「フハハハハハ! オウガ。僕とお前の次の戦いは、この美少女コンテストで行おう! 決着を付けるぞ!」

「嫌だよ……」

「なっ!? 待てオウガ……逃げるのか? ならば僕の勝ちと言うことでいいんだな? アッハハハハハハハ!」

「いいよ」


 一言そう言うと、オウガは公園を後にした。


「あ、アタシたちも帰ろうか」

「うん……」


 そして、ゼッカたち三人も、この場を後にした。


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