第150話 その後
会議が終わり、大人たちは「本当の恐怖を教えてやろう。ふっふっふ」と言いながら、百物語の準備を開始した。
開始時間は19時から。それまでに各々、リアルで食事を済ませておくようにとのことだった。会議室を出たギルティアは、そこで三人の少女に呼び止められる。
「お疲れ様ですギルマス!」
薬物少女こと、リン、ルナ、もるひねの三人だ。
(この子たちって……最果てでもよく他のメンバーと揉めてた子たちよね。大丈夫なのかしらアイツ。この子たち入れて、トラブルにならなきゃいいけど)
ギルティアの彼女たちに関する認識は、真面目だがよく周囲と揉める厄介な三人組。そんな印象だった。
(ここはゼッカのギルド。揉め事は起こしたくないわね……穏便に穏便にっと)
「あはは。アタシはもうギルマスじゃないわよ。ギルマスはヨハンさん」
「えぇ……」
「私たちにとってはギルマスがギルマスなのに」
「私たち、ギルマスを追いかけて来たんですよ!」
「……」
彼女たちの言葉に、ギルティアを馬鹿にするような感じは、一切無かった。それどころか、自分を追いかけて竜の雛に入ったという彼女たちの言葉に、驚いていた。
『奴はお飾りだ』
『最強ギルドのギルマスの器じゃない』
『早く兄にその座を譲れ』
聞き飽きた、ギルドメンバーたちの陰口。
(いや。もう最後の方なんて、直接そう言ってくるやつだっていた)
自分はそんな器じゃない。そんなことはギルティア自身が一番よくわかっていた。だがそれでもギルマスという立場に固執したのは、居なくなったゼッカとミュウという二人の親友のためだった。
三人で作ったギルドを手放してしまったら、もう二度と、三人で楽しく遊ぶことはできないのではないか。そんな恐怖がギルティアを縛っていた。
そして、ギルドを最強にすれば二人は帰ってきてくれるはず。そんな根拠もない望みに縋りながら、嫌われつつもギルドマスターを続けていたのだ。
「あの、覚えてませんか? 私たちが他所のギルドにPKされて、もうやめようかって言ってたときに……」
「颯爽とギルティアさんが現れて、ギルドに誘ってくれたんですよ?」
「だから私たち、ギルティアさんを追ってこのギルドに入ったんです!」
「あ……っ」
『アタシのギルドに入りなさい! 聞いたことない? 最強ギルド【最果ての剣】。入ってくれたら……もうあんな連中に手出しはさせない。アタシがアンタたちを守ってあげる。だから安心して遊べるわよ!』
そういえばそんなこともあった気がする……と思うギルティア。ゼッカが去った後。剣士だけのギルドというこだわりを捨てたギルティアは、様々な職業のプレイヤーをスカウトしていた。彼女たちも、そんな時期にスカウトしたプレイヤーだった。
「ちょっと待ってよ。この前の殺し合い祭りに負けたからって、最果てはまだ最強ギルドの一角に違いはないでしょ? やめちゃって良かったの?」
「いいんです!」
「私たちはギルティアさんと同じギルドがいい!」
「あはは……っていうか、私たち、他の人たちと結構喧嘩しちゃって、居心地悪かったし……」
「それはルナがギルティアさんの悪口を言ってる人に突っかかるからでしょ?」
「だ、だって許せないじゃん! 頑張ってるギルティアさんのことを影でコソコソと」
「だよね。私もルナに賛成。私はギルティアさんが作ったギルドが好きだったから」
「あ、アンタたち……」
そう。ギルティアから見れば他のメンバーたちと衝突してばかりに見えたこの三人は。実はギルティアの陰口を言っているメンバーと、喧嘩していたのだ。
自分が大好きな人を侮辱された。それが許せなかったのだ。
(気が付かなかった……)
そして思い知った。良くも悪くも、やはりギルティアは、居なくなった二人のことしか見えていなかったのだろう。
自分の味方で居てくれたこの少女たちの存在に、気づいていなかった。
(なんだ、やっぱりギルドマスターとしては失格ねアタシ。でも……)
静かに笑うと、ギルティアは三人に向かって、右手を差し出した。それを見て、首を傾げる三人娘。
「握手よ。もうアタシはギルマスじゃない。ただのギルティアだから。これからは、対等な仲間でいましょう」
そのギルティアの手を、三人娘は一斉に握り返した。
「「「はい! よろしくお願いします、ギルティアさん!!」」」
「ふふ、よろしくね。リン、ルナ、もるひね」
最果ての剣で意地を張り、ギルドマスターを続けてきたことは、全部無駄だったと思っていた。だが、そうではなかった。三人の笑顔が、それを証明していた。
ギルティアはギルドマスターとして、彼女たちの楽しい時間を、守っていた。嫌な思い出だけを抱えたままGOOをやめようとしていた彼女たちを引き留め、嫌な思い出が消えるまでの時間を守り抜いた。
そしてこれからは、ただ一方的に守るだけじゃない。一方的に守られるだけじゃない。共に、楽しい思い出を作る、本当の仲間となったのだ。
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