第149話 新生【竜の雛】爆誕!!

【前書き】

ピエールの様子はサポーター様限定で公開させていただいております。


【本文】


 闇の城のミーティングルームに、10人以上のプレイヤーが集まっていた。

 掲示板の民の暴走という波乱がありつつも、無事ふるい落としを突破した6人の面接が終わる。面接とは言っても、それほど堅苦しいものではない。


 竜の雛幹部たちとの軽いやり取り。


「なんで応募してきたの?」とか、そういった質問のやり取り、そして雑談だ。そうして、竜の雛は本日、新たに6人のメンバーを加えることになった。ギルティアたち3人を加えれば、合計9名が加入。一気に倍以上の大所帯となる訳だ。


「なんか一端のギルドっぽくなってきたわね☆」と感慨深げに、目に涙を浮かべるドナルドを他所に、自己紹介をしようという流れになった。


 ではまずはギルドマスターから……という話になったのだが、今更知らない人はいないということで、今日は新人たちが自己紹介をすることとなった。


「ギルティアよ。よろしく!」

「ミュウです。……あの、よろしくお願いします」


 ゼッカの友人枠で入ったギルティア、ミュウが軽く挨拶をする。


 続けて。


「ピエールだ。よろしく頼む」


 先ほど圧倒的な強さを見せたピエールがぶっきらぼうに挨拶する。


 続けて。


 ピエールの影に隠れて目立たなかった、忍者装束を身に纏った女性プレイヤー。年齢は大学生くらい。黒い狐耳と尻尾、切れ長でクールな瞳、口元は黒いマスクで覆われている。


「私はほろび。Lvは60。職業は【忍者】。よろしくお願い致しまする」


 GOOに忍者という職業はない。ほろびと名乗ったプレイヤーの本来の職業は【破壊者】である。だが、滅の言ったことも完全に間違いではない。

 GOOで最もプレイ人口の少ない職業と言えば、ダントツで召喚師である。だがこれは召喚師が不人気だったわけではなく、仕様変更による大幅な弱体化の末にプレイヤーが引退しまくったことが原因である。

 ではそういった要因を取り除いたときの不人気職がどれなのかというと、実は破壊者なのだ。


 こちらは単純に人気がないという悲惨ぷりで、何度か運営によるテコ入れが入っている。例を挙げれば【侍】や【忍者】など、特殊スキルを入手することで、それっぽい戦い方ができるようになるというテコ入れだった。


 ほろびも破壊者を選び、そして忍者スキルによって忍者の戦いを身につけた、そんなプレイヤーの一人なのだ。


 続けて。

 前に立ったのは見るからに陽キャといった雰囲気の三人の女子中学生。どうやら同時にGOOを始めた仲良し三人組らしい。


「私たち【最果ての剣】からの転向です!」

「戦闘は得意です!」

「よろしくお願いしますー!」


 プレイヤー名は【リン】【ルナ】【もるひね】。その名を聞いた煙条Pが、「ピンっと来た」と呟く。


「彼女たちの名前……」


「どうしたんですか煙条P。いきなり」


「リン、ルナ、もるひね……すべて薬の名前だ。つまり、ユニット名【薬物少女】……うん。行ける。このユニット……行ける!」


「いやアイドルでその名前はアウトやろ」


「二重の意味でイケナイです。頭沸いてるんですか?」


 と辛辣な突っ込みを受ける。


 そして最後に前に出たのは。


「ふっ。ようやく君に並んだぞオウガ! まずは君にリベンジを果たす」


 前に出たクロスはビシッとオウガを指差した。


「けっ。嫌な奴が入ってきたなぁ」


 本当に嫌そうな顔をするパンチョ。一方指を差されたオウガは「受けて立つ」という表情で迎え撃つ。

 そのオウガの態度に満足したのか、気分を良くしたようにクロスは、ギルドマスターであるヨハンに指を向ける。


「その次はおばさん、貴様だ! 貴様を倒し雪辱を果たす!」

「はいやり直し」

「え?」


 ヨハンが叫んだ瞬間、クロスの背後にドナルド・スマイルが移動する。そして、クロスの肩をがっちり掴んだ。そして耳元に顔を寄せると、みんなには聞き取れない声で、何かを呟いた。途端、クロスの態度は急変する。


「あ……クロスです。あ、弓使いです……。あ、あ、よろしくお願いします」

「はい、良くできました☆」


 ドナルドから解放されたクロスは力なく自分の席に戻った。その肩はガクガクと震えていた。


「まぁ……元気だせよ」


 そして、パンチョとオウガに励まされた。


「うん……」


***


***


***


 顔合わせが一段落したところで、話題は【GOO夏祭り】へと移る。


「とは言っても、ギルドとしてやることは特にないのよね。各自、誰かの企画に参加するもよし。当日のみ楽しむもよし。自由に楽しんでちょうだい」


 皆の前に出たヨハンはそう呟いた。


【GOO夏祭り】は、夏休みを狙ったユーザー参加型の文化祭のようなイベントである。


 祭りの開催は8月の20日~22日。準備期間は明日の8月2日からとなる。


 7月中に運営に企画を提出し、それが受領されれば第4層のアマテラスシティの区画が与えられる。そして、準備期間中は割り振られた区画内で、各々が企画した店やイベントの準備を行うのだ。

 また、このイベントのために始めたプレイヤーたちが第四層まで上がってこられるように手伝ったりと、実は大忙しのイベントだったりする。


 このように、準備に時間がかかるイベントのため、社会人プレイヤーには厳しいイベントとなるだろう。

 だが、特別報酬があるわけでもなく、そこまで不満の声は上がっていない。そもそもこのゲームは学生の方が圧倒的に多いのだ。


「それで、みんなは何かに参加するん?」


 コンが話題提供といった風に呟くと、新入りのピエールが立ち上がる。


「えっと、ピエールさん。何か?」


「フッ。俺は独自に、とある企画を進めていてな。手空きなら、竜の雛のみんなにも是非参加して盛り上がって欲しいのだが」


 言いながらつかつかと前に出ると、ホワイトボードに自身の企画を表示する。


「えっと……」

「【第一回タッグデュエルトーナメント】?」


「そう。GOO最強ペアを決める戦いの祭典。優勝ペアには俺が用意した豪華景品が与えられる……。先ほど運営からの許可も降りたのでね。どうだ我が魔王。誰かとペアを組んで参加してみては?」


 ピエールの問いに、座席側に居たゼッカがびくんと反応する。どうやら、ヨハンと一緒に出たいようだ。


「うーん。実は私、別のイベントに出るから……パスね」


「そうか。我が魔王が出てくれればかなりの集客になると思ったのだが」


「魔王はんはどんなイベントに出はるん?」


「フッ。よくぞ聞いてくれたわねコンちゃん」


 ヨハンは待ってましたとばかりにニヤっと笑うと、ストレージからとあるアイテムを取り出した。


「こ、これはー!?」


 ヨハンがすちゃりと取り出したのは、ギア四駆。


「これが私専用のギア四駆。その名も【ヒナドラグーンK-I】よ!」


「【ヒナドラグーンK-I】だってー!?」


「そうなのよ。実は【殺殺(ころころ)ホビー部】主催の【サマーレース】に呼ばれていてね。なんでも4層の色々なフィールドを使った超大型レースらしいのよ。私もこのヒナドラグーンK-Iで最速を目指すわ」


 どうやらホビー部の連中から貰った素体ギア四駆を自分でカスタムしたらしい。ともあれ、ヨハンにも、当日は楽しそうな予定があるというわけだ。

 楽しみといったヨハンの様子を見て、他の煙条P、ドナルド、コンたち大人組は「自分もなんかのイベントに参加してみようか」と考え始める。


「あ、あの!」


 そして、そんな雰囲気の中、メイが少し遠慮がちに手を上げた。


「どうしたのメイちゃん?」

「私たち、他のギルドの子たちと一緒に【お化け屋敷】をやる予定で」

「まぁ、いいじゃない!」


 メイ、オウガ、パンチョの小学生三人は、竜の雛以外の小学生プレイヤーたちと連携し、お化け屋敷をやるらしい。ギルド以外のメンバーと組むことに後ろめたさを感じているのだろう。そんなメイの思いを感じ取ったヨハンは、気にする必要はないとメイの肩を叩く。


「メイちゃんたちが作るお化け屋敷、凄く楽しみだわ。必ず行くから、招待してね?」

「は、はい! すっごく怖いお化け屋敷を作ってみせます!」


 ぱっと顔を輝かせるメイ。


「ヨハンさんたちが来てくれるなら、恥ずかしい仕上がりにはできないね!」

「あのークロスなんだけど」

「ああ。超怖いお化け屋敷を作ってやろうぜ」

「あのー僕小学生なんだけど」

「今みんなで怖い話とか色々集めてるからな。きっといい企画になるぜ」

「あのー僕誘われてないんだけど」

「さっきからうるせえぞクロスっ」

「酷くないか!?」


 楽しそうに騒ぐ小学生組を見て、ヨハン以外の大人組は。


「「「……」」」


 羨望の眼差しで小学生組を見つめていた。いや、もしかしたら、自分たちの子供の頃を思い出しているのかもしれない。

 あの頃、永遠にも感じられた夏休み。何でもできるような、無敵になったような気分でいられたあの頃。

 遙か昔に過ぎ去った、手の届かないあの輝きは、しかし目の前の小学生たちにとっては、今なのだ。


 コン、ドナルド、煙条Pが互いに目配せすると、うんと頷く。


「パンパカパーン☆」


「うわっ、なんだいきなり!?」


 ドナルドが叫ぶ。


「新人たちの歓迎会イベント、いつにしようか考えてたんやけど」

「それを今日やろうということになったんですよ」


「え、ギルマスの私抜きで決まったの!?」


 一人寂しさを感じるヨハン。


「で、どんなイベントなんすか?」


「フフ。よく聞いてくれたわオウガちゃん。イベント内容は夏の風物詩、肝試し大会。その名も……【第一回 竜の雛・百物語】よ~☆」


「「「ひ、ひゃくものがたりぃ~!?」」」


 百物語。各々がとびきりの怖い話を持ち寄り、交代で語り手となり怪談を披露する。


「そうです。皆さんのお化け屋敷の参考になればと」


「ワタシたちは手伝えないから、せめて……ネ☆」


「それにな。ウチら大人は、学生組に楽しい夏の思い出を残して欲しいんや。ほら、みんなで集まって怖い話するなんて、青春って感じやろ?」


 爽やかな笑顔で言うコン。そんなコンに、ヨハンが訪ねた。


「で、本音は?」

「大人が暑い中働いてるいうのに、ずっと休みなんてズルいやん? 生意気どす。怖い話で少しくらいトラウマを植え付けられろって思ったんや」


 ゲスの顔で言うコン。だが正直だった。


「うぅ……怖い話か」

「俺はわりかし平気な方だけど……ドナルドさんの話とかヤバそうだな」


 震えるメイと、武者震いするオウガ。そんな二人の肩をバシバシと叩きながら笑うパンチョ。


「あはは。二人とも、ビビって漏らすなよ?」

「いや、余裕そうだけどよパンチョ。お前の方が怖い話苦手だろ?」


 オウガに言われると「ヤベぇそうだった」と青ざめるパンチョ。そんなパンチョを見て、敵の弱点を知れたというようにニヤ~っと笑うメイ。


「へぇ~。あなた怖い話苦手なんだぁ」


 メイの勝ち誇った顔に「うげぇバレちった」と苦い顔をするパンチョ。そんなパンチョを笑うように、オウガも口を開いた。


「あはは。それがさ。去年の合宿のとき肝試しがあってさ。コイツその後眠れなくなってな」


「あーそういやオウガをトイレに付き合わせたなー。あの時は悪かったよ」


「ん? それって夜の話? 夜に二人で? ふ、ふーん……」


 メイの表情から笑みが消える。


「結局俺の布団までついてきてさー。『手離すんじゃねぇぞ……絶対だぞ? 俺が寝るまで離すなよ?』って。いやどんだけ怖いんだよって。マジで笑ったわ」


「お、おい恥ずかしいからやめてくれよ」


「……」ゴゴゴ


 愉快そうに話すオウガ。恥ずかしがって顔を赤くするパンチョ。怒気(オーラ)を発するメイ。

 そんな三人の様子を、薬物少女たちとピエールが見ていた。


「あそこだけラブコメの匂いがする!?」

「最近の小学生は進んでますなー」

「オウガ少年鈍いねー」


「ふぅむ」


 顎に手を当ててオウガたちの様子を鑑賞していたピエールは、横に居たコンに訪ねる。


「オウガくんと言ったか。彼はなんだ……主人公なのか?」

「まぁそんな感じやね」

「そうか。羨ましいなアイツ……」



そんなこんなで次回……恐怖の竜の雛百物語開幕!?


***


***


***


おまけ・竜の雛メンバー表


Lv52 ヨハン 召喚師


Lv62 ゼッカ 剣士


Lv55 レンマ 守護者


Lv60 コン  召喚師


Lv60 ドナルド・スマイル 魔法使い


Lv51 煙条P プロデューサー(副業:槍使い)


Lv46 オウガ 剣士


Lv52 メイ 召喚師



Lv62 ギルティア 剣士


Lv55 ミュウ 剣士


Lv40 パンチョ 破壊者


Lv64 ピエール 魔法使い


Lv42 クロス 弓使い


Lv60 ほろび 破壊者 


Lv62 もるひね 守護者


Lv62 ルナ 槍使い


Lv62 リン 魔法使い

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