第147話 コン「オタクに優しい高収入イケメンは存在する」(迫真)

「もう。ウチ頑張ったんに。酷いわぁ」


 みんなが庭を見守る中、窓から離れた席で友人の返事を待っていたオウガの元へ、    青ざめた顔のコンが戻ってきた。

 口では強がっているものの、よほど怖かったのだろう。その唇は少し震えていた。


たちの悪い冗談言うからっすよ」


「え、冗談? どの辺が冗談思ったん?」


「どの辺って……うわ、この人本気でキョトンとしてる!? さっきの一から十まで全部本気だったんだ……」


「そらそうや。近くに置くならやっぱり優秀な男の方がええやん? その内オフ会もやるかもしれへんしなぁ。上手くいけば選り取り見取りやったんに」


「……」


 オウガは泣いた。


 コンの言っていた「高身長」「高収入」「イケメン」を全て兼ね備えていれば、確かに男として最上級だろう。


(かわいそうに。そういう優秀な男は選ばれる立場じゃなくて、選ぶ立場なんすよ。20年以上生きててそんなこともわからないんだこの人……)


 と、本気で哀れんだ。


「ところで」


 ようやく恐怖も引いてきたのか。コンは話題を切り替えるように口を開いた。


「あんたは好きな子とかおらへんの?」

「いないっす」

「ええー? ホンマにぃ?」

「……」


 ちょっと「ウザいな」と思うオウガ。だがそれを表情に出すことはしなかった。


 そしてコンは、最近の小学生にしては珍しいと言いながら続ける。


「女の子らしくて可愛いメイちゃん? それとも、あのパンチョちゃん? それとも……ウチ?」


「いやー、それはないっす」


「なんやつまらんな」


 本当につまらなそうな顔をするコン。さしてオウガの好きな人にも興味は無かったのだろう。暇を持て余すように前髪を弄り始めた。


「まぁ……クラスメイトの話とかされても、ウチわからへんし。小学生男子にガチ恋愛相談とかされても困るしなぁ」


 イケメン高身長高収入が女性に話しかけるマナーとか言ってる奴に恋愛相談するわけねーだろと内心突っ込みつつ、オウガは口を開いた。


「まぁ、クラスメイトじゃないっすけどね」


「やっぱおるんやん!!!」


「……。いないっす」


 メッセージウィンドウに目を落とし、コンと視線を合わせないようにしながら、この場を乗り切ろうとするオウガ。


「盛り上がってるところ悪いけど……オウガ、ちょっと来て」


 そんなオウガたちに、窓の方からやってきたゼッカが割って入る。親指でクイっと窓の外を指差すと、オウガに手招きをする。

 どうやら、ゼッカはオウガに外の様子を見せたいらしい。


「まぁ、行ってええよ」


 コンは別段引き留めることもせず、その背に手を振った。コン自身は、外を見るつもりはないらしい。


「来てって……一体何を?」

「いいから早くしろ」

「……はいはい」


 オウガはやれやれといった様子で立ち上がると、すたすたと歩き去るゼッカの後を追う。


 コンはだらっと机に突っ伏しながら、横目で離れていく二人を追った。


(ん? んん~???)


 ゼッカの後ろについていくオウガの様子を見て、コンは目を細めた。そして、しばらく考えて、何かに思い至る。そして、ニヤリと悪役のような顔で笑った。

 それはまるで、新しい玩具を見つけたような、そんな表情だった。


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