第145話 追加メンバーたち

 メンバー募集当日の昼。集合時間の一時間前。


 竜の雛のミーティングルームには、見慣れない顔が揃っていた。


 対外的にメンバー募集を発表した竜の雛。希望者には軽い面接の後にギルドに加入してもらう予定だが、現メンバーの顔見知りには、特に面接もなく加入してもらうことになっている。そんな友人経由の希望者には、一般の集合時間よりも早めに集まってもらっていた。


「ヨハンさん。私の友達二人をご紹介します!」


 改まってゼッカがヨハンの前に連れてきたのは二人の女子高生プレイヤーだ。


 一人はヨハンもよく知る人物、元【最果ての剣】ギルドマスターのギルティアだ。桃髪のツインテールにド派手な服装着こなし、不機嫌そうな顔で腕を組んでいる。


「まぁ、ゼッカにどうしてもって言われたから? アンタたちのギルドに入ってあげ……グッ!? よ、よろしくお願いします……」


 いや、緊張しているのだろうか。尊大な態度で喋っている最中、横のゼッカに肘打ちをくらい、礼儀正しい言葉に切り替え、挨拶を済ませるギルティア。


「はい、よろしく」


 また三人で新しいギルドを作るのか。それとも、パーティとして活動するのか。色々と迷っていたギルティアとゼッカだったが、とりあえず、竜の雛に合流することに決めたようだった。

 そして、それを断る理由はヨハンたちにはなかった。


 寧ろ、三人がまた楽しく遊べる場所として、自分のギルドを選んでくれたことが嬉しかったのだ。


「わ、私も……よろしくお願いします」


 そして、もう一人。


 ゼッカとギルティアの親友で、ギルドの強さを追い求めた二人について行けず、一度はこのGOOを去った少女。丁度ゼッカとギルティアの間くらいの身長の、可愛らしい黒髪ボブの少女【ミュウ】は、ペコリと頭を下げた。


「よろしくね、ミュウちゃん。それに、ギルティアちゃんも。ギルドに入ってくれて嬉しいわ」


 ヨハンは微笑む。漆黒の鎧カオスアポカリプスではなく、煙条P作成の私服に身を包んだ姿は、ミュウの目にどう映ったのだろう。ミュウも、緊張がほぐれたように笑う。


 そして、ゼッカと三人「よかったよかった」と笑い合っていた。


 僅かなすれ違いから、一度は離ればなれになってしまった三人。その三人がこうして楽しそうに笑っているだけで、ヨハンはとても嬉しかった。


「あ、そうだヨハンさん。私、ハゼルさんから召喚石を預かっているんですけど……やっぱり親友のヨハンさんが持っていたほうがいいのかなって」


 ハゼルとは、子供の頃からのヨハンの友人で、7月の少しの間だけ、このGOOを遊んでいたサモナーである。

 GOOを辞めてしまおうと思っていたミュウがなんとか踏みとどまったのは、そのハゼルとの出会いがあったからだという。


(ハゼル……あの子も裏で一枚噛んでたのよね……ちゃんとお礼、言ってなかったけど)


 ヨハンはミュウの目を見て、確信する。自分がゼッカと出会い、少しだけ変われたように。親友だったハゼルにも、良い出会いがあったのだろう。それは、再開したときの様子からも、良くわかる。


「それはミュウちゃんが持っていて。あの子が貴方に預けたなら、貴方が持っているべきだわ」

「わかりました。大切に使わせてもらいます!」


「ええ、イヌコロたちをよろしくね」


 軽く会釈すると、ミュウたち三人は、ドナルドたち他のメンバーたちの所へと向かっていった。皆新しいメンバーが嬉しいのか、穏やかな歓迎ムードだ。


 そして、次にヨハンの前に現れたのは思わず涎が出そうになるほどの美少年……ではなく、中性的な魅力に溢れる女子小学生プレイヤー【パンチョ】。

 オウガとメイのクラスメイトでもあり、オウガの元パーティメンバー。そして、崩壊してしまったギルド【セカンドステージ】のメンバーだった女の子だ。


「ッス! よろしくお願いしますっ!!」


 サッカーチームで指導されているのだろう、ハキハキとした声で挨拶をする。スポーツ少年のような(少女だが)その元気の良さに思わず面食らったヨハンだが、すぐに気を取り尚すと、優しく微笑んで答える。


「はい。よろしくね、パンチョちゃん」


 初めて出会ったときの印象は最悪だったものの、オウガから事前に注意されていたのだろう、礼儀正しく振る舞い、パンチョは無事、竜の雛へと迎えられた。

 もう一度お辞儀をしてヨハンの元を離れたパンチョは、別のテーブルに腰掛けながら様子を窺っていたメイの元へとやってくる。


 そして、どこか挑発的な顔で「へへん」と笑うと、口を開いた。


「これでようやく対等だぜ。色々な意味で……な」

「ふんっ。負けないから」


 女同士、目に見えない火花が散っていた。そんな様子に気が付くこともなく、ヨハンの横に座っていたオウガは落ち着きなく、メッセージを確認していた。


「まだ連絡がつかないの?」

「はい……おかしいな。ちゃんと連絡したんすけど……」


 オウガは、パンチョと同じく、クラスメイトにして元パーティメンバー、ゾーマからの連絡を待っていた。本来ならば、パンチョと一緒にギルドマスターへの挨拶を済ませるつもりだったのだ。

 だが、姿を現さないうえに連絡までつかない。オウガは青ざめた顔で、ヨハンに頭を下げた。


「すんません……いつもは、遅れる時はちゃんと連絡くれるヤツなんですけど」


「いいわよ。別に企業の面接って訳じゃないんだから。時間があるときにいつでも……ね? でも、連絡がつかないとなると、心配ね」


「はい。まぁ事故とかはないと思うんですけど……すんません。今度必ず、ちゃんと挨拶させるんで」


「だから、気にしないでいいわよ」


 ちなみに、オウガの友人枠で竜の雛へ入るのはパンチョとゾーマの二人だけだ。

 もう一人のユウヤは、片思い中のクラスメイトの女子が別のゲームを始めたとのことで、今はそちらへ浮気中らしい。


 そして、オウガのライバルにして目標でもあった天才少年、クロスは。


「クロスくんも入りたいって言ってたんでしょ? 友人枠でよかったのに」


「いや、駄目です。アイツは目上の人への礼儀とか、そういうの全然できないっすから。だから、ギルマスたち大人の目で判断して欲しいんです。アイツがここで、ちゃんとやっていけるのかを」


 ヨハンとしては、小学生くらいの子供は生意気なくらいが丁度いいと思っている。だが、おそらくオウガは、クロスが変わってくれることを……成長してくれることを願っている。


 それは、クロスの将来を思ってのことだろう。有り余る才能から得られる成功体験により、自分に自信を持つのは良いことだ。だがそれ故に他人を見下していては、不要な敵をつくったり、不和を招くことになる。


 セカンドステージが崩壊してしまった時のように。


 初めての挫折と全能感の喪失に傷ついていたクロスに、オウガとしても何か感じるところがあったのだろう。


 だったら、ここは敢えて、オウガの望みに応えることにした。


「わかった。ちゃんと審査してみるわね」


「うっす。ありがとうございます」


 そう元気に答えると、再びメッセージウィンドウを開く。どうやら、未だログインしてこない友人のことが心配なようだ。


「魔王はん。そろそろや」


 コンに声を掛けられて、ヨハンは時計を見る。すると、集合時間の5分前だった。


「うん。そうね」


 そう呟き席を立つと、ミーティングルームの窓の方へと向かう。窓からは、集合場所である庭が直接見渡せるのだ。


「5人くらいは来てくれていると嬉しいんだけど……ん? ええ~!?」


 ヨハンの予想は、大きく裏切られることになる。なんと、庭には100人を超える入会希望者たちが押し寄せていたのだ。

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