第143話 融合、その後…
ファラオとの激闘から数日後。
ギルドホーム【闇の城】の庭には、珍しく【竜の雛】全メンバーが集結している。
「今日は来てくれてありがとうね、みんな」
「ヨハンさんの呼び出しとあれば、地の果てまでも参上しますよ私は!」
「……ボクはいつも居るけどね」
「何が始まるんだ?」
「クスクス。さて、何でしょう?」
「なんだよ、教えてくれよ」
メイに事情を尋ねたオウガだが、メイはいたずらっ子のように笑いながらごまかした。あの超高難易度をクリアしたコン、メイには、今からヨハンのやることがなんとなく理解できているのだが、それ以外のメンバーは不安そうな表情だ。
「ウッキウキで呼び出してくれちゃって。何なのかしら☆」
「意味はよくわかりませんが、とにかく楽しそうですね」
ちなみに全メンバーをヨハンが無理矢理集めた訳ではなく、チャットで声を掛けたらたまたま全員集まった。だが、それは最近では珍しいことだった。
親友たちと仲直りしたゼッカは、離れていた時間を取り戻すように、三人組で行動することが多くなった。
クロスとのわだかまりが消えたオウガは、殆どクロスやゾーマたち、クラスメイト組と遊んでいる。
だから、呼びかけたとはいえ、こうして全員が集まったのはかなり久しぶりのことだった。
ヨハンのテンションの上がりようも理解できるだろう。
「さて、今日みんなに集まって貰ったのは他でもないわ。実は私たち、噂のEXスキルを入手したの!」
ギルドメンバーや庭に放たれた召喚獣たちに囲まれながら、ヨハンはそう宣言する。
「あらあら、凄いじゃない☆」
「せやろ? もっと褒めて」
「私たちってことは……メイもゲットしたのか?」
「もちろんだよオウガ」
「ま、マジかよ……」
メイが随分と先に進んだことを理解し、暗い顔をするオウガ。「そのうち取れればいいか~」と気楽に構えていたので、地味にショックを受ける。
「ヨハンさんがEXスキルを……?」
「ん? どうしたゼッカ?」
なんとも言えない表情で呟いたゼッカに、オウガが訪ねた。いつもなら「凄いです!」とはしゃぐところだったので、オウガも少しだけ心配になったのだが。
「流石ヨハンさん! 凄い」
すぐにいつものゼッカに戻る。まるで憧れの人を見るような、熱を帯びた視線でヨハンを見つめるゼッカの横顔は、オウガから見てもいつも通り。だが、少しだけ違和感があった。
「何?」
そんなオウガの視線に気が付いたのか、ガン付けるようにオウガの方を見るゼッカ。そのイカれた表情の切り替わり具合があまりにもいつも通りだったからか、オウガは笑った。
「何でもない」
「そう? ならいいけど」
ゼッカは再びヨハンに視線を戻す。ヨハンはストレージから、卵型の召喚石を取り出したところだった。
「取り出したるはバチモン【メタルブラックドラゴン】と【ワーフェンリル】! 今からこの二体を合体させ、オメガプライムを作ってみるわ」
オメガプライム。アニメバーチャルモンスターズにおいて、クロノドラゴンとフェンリルボーグが融合合体することで誕生する奇跡のモンスターである。
「……ちょっと待ってお姉ちゃん」
「オメガプライムって【クロノドラゴン】と【フェンリルボーグ】が必要なのよねぇ? 進化前のその二体で果たして呼び出せるのかしらぁ☆」
レンマとドナルドが疑問の声をあげる。確かにそうだ。だがヨハンは。
「確かに厳しいかもしれないけど……なんか行ける気がするのよね」
できる根拠はなかった。だが自信はある。
「……まぁオメガプライムが誕生するかはともかく。EXスキルには興味あるよね」
「ヨハンさんのEXスキル……見たい!」
周囲の期待は高まる。ヨハンはもったいぶるのを辞め、スキルを起動した。
「Dシステム発動。スキル【融合召喚】をEXスキル【究極融合召喚】に覚醒。スキル発動――【究極融合召喚】!! 私が融合させるのはメタルブラックドラゴンとワーフェンリル!」
『Dシステム起動』
『これより融合召喚を開始します』
『成功確率0.03パーセント……』
「あれ、なんか前より確率低くないですか?」
「せやね。ソシャゲのUR排出率みたいな数値になっとるわ」
「嫌な予感が……」
『融合召喚失敗――これより強制融合を行います』
「えええええ!?」
Dシステムはピンチからのドラマチックな逆転を演出するためのシステム。何一つ危機の迫っていない場所での成功率は低かった。
「ヌチャー」
メタルブラックドラゴンとワーフェンリルの召喚石が粒子となって魔法陣に吸い込まれると、中から見たことのないモンスターが姿を現した。
3メートルほどの大きさの、おにぎりのような体型。紫色。目や口のようなものは存在しない、それが召喚獣やモンスターなのかさえわからない、そんな謎の物体が姿を現した。
【ステンチスライム】
初級召喚獣
融合召喚失敗により生まれる召喚獣。
「これがオメガプライム?」
「いや明らかに違うやろ」
「……多分失敗用のモンスターだね。それにしても酷い臭いだ」
周囲に悪臭が漂う。集まっていた召喚獣たちはその臭いに耐えきれなくなったのか、離れていってしまった。
「よ、ヨハンさん……お気を確かに」
虚ろな瞳でステンチスライムを見上げるヨハンに、ゼッカが恐る恐る声を掛ける。
「返して」
「え?」
「私の可愛いバチモンを返せっ!」
キレ気味に叫んだヨハンを数人がかりでなんとか諫める。それでも涙目になりながら、ステンチスライムの召喚を解除する。
「はぁ……これじゃオメガプライムは無理か……あれ?」
「やっぱりバチモンコラボ第二弾を待つしかありませんよ! フェンリルボーグが実装されれば必ず!」
ヨハンを気遣うように明るく言うゼッカ。ヨハンはそんなゼッカの気遣いに気が付き、微笑む。
「ええそうね。まぁでも……やっぱりフェンリルボーグが実装されたとしても、オメガプライムの融合を狙うのは辞めておこうと思うの。しばらくは……ね」
「え、どうしてですか?」
「うふふ、秘密よ」
「なっ!? 秘密ってなんでですか!? ヨハンさん、私たちの間に隠し事はなしですよ!」
「ええ~? いいじゃない。秘密のひとつやふたつ」
「はっ!? まさか……男ですか? 男なんですね?」
「違うわよ~」
笑顔でゼッカの追求を躱す。そして、笑いながら、幼い日の約束を思い出していた。
『私のクロノドラゴンと涼ちゃんのフェンリルボーグ……合わせてオメガプライムにしようよ!!』
夕日の約束。向こうが覚えているかはわからない。しかし、それでも。せっかくなので、オメガプライムの初召喚は、しばらく取っておこうと思うヨハンだった。
(寧ろ、今失敗しておいて良かったわね)
なんて思いながら、今日集まってくれたみんなに謝る。
そして、せっかく久々に集まったのだからとミーティングルームに移動すると、運営から新イベントの通知が届く。
一つは8月より開催予定。子供と主婦に人気の特撮コンテンツ【ウルトラ仮面】とのコラボイベント開催予告。どうやら夏休みを狙って、子供向けのイベントが組まれたようだ。
「ウルトラ仮面懐かしいな。ガキの頃見てた」
「私も! 幼稚園のとき、弟と一緒に見てた。懐かしい~まだシリーズ続いているんだ!」
『懐かしい~』と言いながらはしゃぐオウガとメイ。
「なんでやろ。小学生が『懐かしい』とか言うてるの見ると、腹立つなぁ」
「気持ちはわかるわコンちゃん。でもここは抑えるのよ……っていうか」
ヨハンは気になったことがあった。
「学生組はもう夏休みなのね?」
「はい! テストも先週終わりまして、無事夏休みを迎えられました!」
「これからほぼ毎日ログインできるぜ!」
「あ、私は家族旅行があるから……そこまでですけど」
「「「羨ましい」」」
夏休みに目を輝かせる学生組に、大人組が口を揃えて叫んだ。
「……大人たち。気持ちはわかるけど、二つ目のイベントにも目を通そうよ」
レンマの呟きで、一同は8月の二つ目のイベントに目を通す。そこには……。
※ユーザー参加型大型イベント【GOO夏祭り】
〇詳細は後日
と書かれていた。
「夏祭り?」
「ユーザー参加型って意味がわからへんわ」
「……まぁ字面は楽しそうだけど」
「少なくとも殺し合い祭よりは穏やかそうだよ」
「夏祭りか……」
夏……8月。
社会人のヨハンにとって、8月はあまり好きな月ではなかった。ただただ暑くて不愉快なだけの季節だった。
「でも、今年は楽しくなりそうね」
いつもとは違う夏への期待を胸に抱きながら、ヨハンは静かに笑った。
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