第142話 過去+過去+過去=未来

 アルティメットクロノドラゴン。

 三つの首と漆黒の外装を持つ、神級召喚獣。バチモンコラボ召喚獣でありながら、原作には登場しない、GOOだからこその進化形態である。

 コン、メイ、クリスター。それぞれのクロノドラゴンを究極融合召喚することで誕生した。


「まさかホンマに成功するなんて……」


 相対するS・O・Gスピリットオブゴッドアメン=ラーとアルティメットクロノドラゴンの迫力に、四人が息を呑む。


「アルティメットクロノドラゴン……素晴らしい仕事だわ、GOO。神に感謝を」


 まさかクロノドラゴン単体のパワーアップを見られるとは思っていなかったヨハンは、両手を合わせ運営に感謝の言葉を口にした。そして、ファラオを見やる。


「さぁ、こちらも神級の召喚に成功したわ」

「これで【太陽神】の耐性を突破して、アメン=ラーにダメージを与えられますね!」


「フッ……ハハ。フッハハハハハハハハ!」


 だが何がおかしかったのか。メイの言葉にファラオは大声で笑った。


「甘いぜお前たち。同じ神級であったとしても、ファラオである俺とお前たちの召喚獣には明確な力の差が存在するのさ」

「……むむむ」


 唸るヨハン。アルティメットクロノドラゴンのステータスは確かに高い。プレイヤーでいうとLv100相当のステータスである。だが、敵のアメン=ラーは今までファラオが使ってきた召喚獣の例に漏れず、ボスモンスターとして高めのステータスが設定されている。

 単純な力比べなら、敗北は必死である。


「いやなんで落ち込んでるんですかヨハンさん。スキル。スキルを確認してくださいよ」

「そ、そうだったわ」


 究極融合召喚によって召喚された召喚獣のスキルは、召喚が確定した瞬間に生成される。その能力は、合体元の能力を引き継ぎつつも、絶望的な盤面をひっくり返すための効果となっている。

 ヨハンがステータス画面を開くと、コンとクリスターが「どれどれ」といった感じでのぞき込んできた。その後ろから、遠慮気味にメイも画面を覗く。どうやら気になるらしい。


「スキルは二個……」

「なんやショボいなぁ」

「でもこれなら……行ける!」


 ヨハンはスキルを確認。そして、4人で勝利までの道筋を考えた。


「相談は終わったか? なら、さっさと勝負を再開しようぜ」


 待ちくたびれたといった様子のファラオ。


「ごめんなさいね。あと、攻撃せずに待ってくれていてありがとう。それとも、攻撃できないのかしら?」

「な、なななんのことだかわからないぜ」


 動揺するファラオ。だが、それも一瞬。すぐに尊大な態度に戻ると、アメン=ラーに指示を出す。


「お前たちがモタモタやっていたから、【ミレニアムクライシス】の再使用が可能となったぜ。食らいな――【ミレニアムクライシス】!!」


 再びアメン=ラーから強烈な光が放たれる。ストレージの、まだ召喚されていない召喚獣へのダメージ。前回のミレニアムクライシスで手持ちが全滅したメイ以外の三人の手持ち召喚獣も、これで全て全滅。

 後はアルティメットクロノドラゴンに全てを託す形となる。


「今度はこっちの番や!」

「ヨハンさん」

「決めちゃってください!」


「ええ任せて。アルティメットクロノドラゴン、スキル発動! ――【超時空竜皇領域フューチャーメイカー】」


 発動と同時に、アルティメットクロノドラゴンの周囲の空間が歪む。そして、クロノドラゴンの時と同じように、時計を模した魔法陣が展開する。だが、その針はクロノドラゴンと時と違い、未来へと進んでいた。


「クロノドラゴンは過ぎ去った過去を取り戻す能力を持つ竜。けれどこの子は違う。この子の力は失われた未来を取り戻す! 【超時空竜皇領域フューチャーメイカー】はこのフィールドに存在しながらも、発動できなかったスキルを発動させることができる!」


 クロノドラゴンの【真時空竜皇領域タイムメイカー】は、発動されたスキルを発動するスキル。それに対し、アルティメットクロノドラゴンの【超時空竜皇領域フューチャーメイカー】は、未発動のスキルを発動できるのだ。


「どんなスキルかと思えば……俺は慈悲深いから教えておいてやるぜ。例え神級のアルティメットクロノドラゴンを介して発動したとしても、下級召喚獣のスキルは俺のアメン=ラーには通用しないぜ」


 ファラオの言う通り、【超時空竜皇領域】でどんなスキルを発動しようとも、元々持っていた召喚獣が神級でなければ、アメン=ラーの【太陽神】の耐性を突破することはできない。

 だが、ヨハンたちの狙いはそこではなかった。


「いいえ。私たちの狙いは別にあるわ」

「何?」

「コンちゃん。貴方の相棒の力、借りるわよ」

「かまへんよ」

「九尾の狐のスキル【半魂術・憑依装着】を発動! 倒されていった召喚獣たちの全てのステータスが、アルティメットクロノドラゴンのステータスに加えられる!」


「もちろん、【ミレニアムクライシス】でやられた召喚獣たちも、この数に含まれます」


「そんな馬鹿な!?」


 二度のミレニアムクライシスで倒されたストレージの召喚獣たちのおおよその数はヨハンが1050個。コンが1400個。クリスターが1200個。メイが850個。

 おおよそ4500体の召喚獣の力が、アルティメットクロノドラゴンに集約する。


「ぐるおおおおおん」


 莫大なパワーアップを果たしたアルティメットクロノドラゴンの体は黄金に輝き、あふれ出た魔力が可視化され、稲妻のようなオーラとなって迸る。

 その光は太陽のように輝き、本来の太陽神であるアメン=ラーすら霞ませる。


「凄い……アルティメットくん。本物の神様みたい」


 メイがうっとりと呟く。ヨハンも同じ気持ちだった。確かに神級ではない召喚獣たちの力では、アメン=ラーに届くことはない。だが、その力が集うことで、これだけの力を発揮するのだ。


「私たちが持つ全ての召喚獣の力が今、アルティメットクロノドラゴンに宿ったわ。さぁ、これで私たちの勝利よ――【アルティメット・ジオサイド・フォース】!」


 アルティメットの攻撃スキルを使用。三つの首から放たれた膨大な魔力が螺旋状に交わり、ひとつとなってアメン=ラーを襲う。


「これが決まれば、私たちの勝ち!」

「フハハハ。それはどうかな?」

「はっ!?」


 だがこのタイミングで、ファラオが不敵に笑う。


「お前、今攻撃したな? この瞬間、アメン=ラー最後のスキル【神聖なるバリア】が発動するぜ」


 突如、アメン=ラーの前に虹色の壁が現れた。アルティメット・ジオサイド・フォースの光は、その虹の壁に吸い込まれてしまう。


「【神聖なるバリア】は相手の攻撃を吸収し、倍にして跳ね返す神の最後の防御。さらにこの反射は、あらゆる防御スキルによる守りを貫通かんつうする」

「ず、ズルい! ズル過ぎる!」


 勝利の希望を打ち砕かれたメイが泣きそうな声で叫ぶ。


「神級しかダメージを与えれないのに。こっちが神級を出したら、その攻撃を跳ね返すバリアって……そんなの酷いよ……」

「嘆くことはないぜ。俺のアメン=ラーが強いってことは、お前たちがそれだけ俺を追い詰めたという証なんだからな」


 EXスキル【究極融合召喚】の特性上、ファラオを追い詰めれば追い詰めるほど、強い召喚獣が呼ばれることになる。理不尽を感じたなら、それは自分たちがその分強かった証だと、メイを慰めるように言うファラオ。


「お前たちとのバトル、楽しかったぜ。また挑戦しに来いよな」


 そして、仰々しく手を翳すと、アメン=ラーに最後の攻撃命令を下した。


「【神聖なるバリア】解放。吸収した攻撃を倍にして返す。消え去れ、アルティメットクロノドラゴン!」


 虹色の壁から極太のビームが放たれ、アルティメットクロノドラゴンを貫いた。


「ぎゅ……ぎゅおおおおお」


 そして、HPを失ったアルティメットクロノドラゴンは沈黙。目の輝きが消え、そのまま地面に倒れ込んだ。その様子を、目に涙を溜めながら見守るメイ。


 そして、そんなメイの肩をヨハンが叩いた。


「泣かないでメイちゃん」

「え?」

「そうどす。ここまでは計算通りや」

「ええ!?」

「アルティメットのステータスが上昇している間、ファラオはずっと余裕な態度でしたから」

「ええ、だから絶対何か隠し球があるって思ってたの」


 大人三人の言葉に、メイは目を丸くした。


「す、凄い……三人とも、気が付いてたんですか!」

「まぁね。そして、ファラオの奥の手は反射だった」

「これにより、私たちの勝利が確定しました」


 今度こそ、勝利を確信するヨハン、コン、クリスターの三人。


「馬鹿な。お前たちの神級はすでに消滅したじゃないか……いや……馬鹿な」

「ようやく気が付きましたかぁ?」


 そこでファラオが気づく。三人の狙いに。


 なんと、攻撃を跳ね返されてHPがゼロになったアルティメットクロノドラゴンの体は、消滅せずにその場に留まり続けている。


「ど、どうして?」


 メイも驚いている。


「それはね、ほら」


 そんなメイの肩に手を置くと、ヨハンは部屋の隅を指差した。そこでようやく、メイも理解する。部屋の隅で転がっているのは、ここに入る時、メイの背中に付着していたメタルクラスタスカラベ。

 ヨハンが圧殺し、部屋の隅に投げ捨てたまま転がっていたこのダンジョンのモンスター。


「そ、そうでした。今回はあの虫のスキルが発動しないようにしてここまで来たから」


「超時空竜皇領域の『まだ発動していないスキル』に、あの虫のスキルも該当するのよ」


「そう。アルティメットクロノドラゴンはメタルクラスタスカラベの【魔力繁殖】を発動していました」


「その状態で魔力を使った攻撃の反射を食らった。これで発動条件クリアや」


 倒れたアルティメットの鎧のような外殻が割れ、中から現れたのは……。


「もきゅ!」


 黄金に輝くヒナドラだった。


「キャー!! か、かわいい!!」

「あんな見た目やけど、アルティメットの全ステータスを引き継いどる、神級召喚獣や」

「一匹だけじゃありません。ほら、どんどん溢れて来ますよ」


「もっ」「もっ」「もっ」


 アルティメットの中からどんどんあふれ出る黄金のヒナドラ。早くアルティメットの体を完全破壊しなければいけないのだが、自分から攻撃する手段を持たないアメン=ラーには、この状況を打開することはできない。


「さぁトドメよ。ヒナドラたち!」

「「「「「「「「「「もきゅ!!!」」」」」」」」」」


「――【アルティメット・ジオサイド・フォース】!!」


 黄金のヒナドラたちから一斉に放たれる必殺スキル。たとえ【神聖なるバリア】を使ったとしても、防げるのは一回のみ。全ての攻撃を防ぎきることは困難だった。


「――」


 そして、全ての攻撃が命中。S・O・Gアメン=ラーのHPはゼロとなり、消滅した。その様子を見届けたファラオ。仮面を外し、ヨハンたちに向き直る。まだ幼さを残すその素顔は、どこか晴れやかだった。


「見事だ。見事神を打ち倒した。お前たちの勝ちだ。楽しいバトルだったぜ。召喚師のEXスキル、お前たちなら必ず使いこなせる。これからもこのゲームを楽しんでくれよな」


 そう言うと、ファラオは自分の首に指を当てる。


「さぁ。俺にトドメを差しなぁ!」


 ファラオを倒すまでが、超高難易度クエストなのである。


「ええ、貴方のお陰で、こっちも良いものが見られたわ。ありがとう」


 ヨハンはそう呟くと、黄金のヒナドラたちに攻撃命令を出す。おおよそ数百体にまで増えていたヒナドラたちからの一斉攻撃によって、見事、ヨハンたちはファラオに勝利。四人は超高難易度クエスト【巨大合成墓地ピラミッド】をクリアしたのだった。

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