第141話 永遠を超える竜の星

「神級……?」

「まさか、超級より上があったなんて」

「下手な脅しを……っ!」


 神級召喚獣はフィールドの上部にて、未だ光につつまれ、完全に出現していない。サモンライドにより複数の召喚獣の姿を合体させたクリスターは、ヨハンのメテオバードを駆ると、そのまま神級召喚獣アメン=ラーの元へと向かう。


「あきまへんわ。流石にそれは……」

「見えた、HPバー! サモンライド――【クワガイガー】! そして――【放電】」


 新たにクワガイガーの力を取り込むと、増幅させたステータスで電撃を放つ。だが、太陽のような光に包まれたアメン=ラーには一切通用しなかった。


「そんな、HPが全く減ってない!?」


 敵のHPバーの減少はない。

 やがてアメン=ラーを包んでいた光が収束し、その姿が明らかとなる。その姿はまさに光の巨人。4メートルほどの大きさを持つ、体が青く輝く巨人だった。さらに、その体をファラオを超えるようなゴージャスな黄金の鎧に包んでいる。

 

「――」

「……ひっ!?」


 アメン=ラーの瞳がクリスターを見やる。思わず彼女の口から悲鳴が漏れたが、アメン=ラーは攻撃しない。まるで天上から人々を見守る、神のような慈悲深い瞳だった。


「メテオバード、今のうちに戻って」


 ヨハンがメテオバードを地上に降ろす。それに続くように、アメン=ラーもゆっくりと地上に降りてくる。敵意も、戦意も感じられない、穏やかな空気を纏いつつ、アメン=ラーは支配者のポーズで地上へと降り立つ。


「私の攻撃が全く通用しなかったんですが!?」

「フッ。教えてやるぜ」


 悔しそうなクリスターの呟きに、ファラオが答える。


「アメン=ラーには強力なスキルが備わっている。その名も【太陽神たいようしん】というスキルがな」


 スキル【太陽神】。持っているだけで神級召喚獣以外の攻撃、スキル、能力を一切受け付けなくなる無敵のスキルである。


「太陽。それは人の身では決して触れることができない神の力。このスキルは絶対に無効にできないし、アメン=ラー以外が扱えば体が燃えて死に至る。はは。お前たちが卑怯な真似まねで俺を追い詰めてくれたお陰で、最強クラスのスキルが備わってくれたぜ」


「はん。神級以外のスキルを受け付けへんて……ファラオはんのスキルも効かへんいうことやないの?」


「ま、まぁそういうことになるぜ……」


 召喚師ファラオからのサポートは切れた。これにより、もう無限融合を使われる心配はない。いや、そもそも究極融合召喚はそのシステム上、必ず成功するわけではない。元々、無限融合は使えないのだ。

 そして、ファラオは敢えて口にしなかったが、これだけのスキル。当然デメリットがある。【太陽神】のデメリット、それは持っているだけで、一切攻撃行動が取れなくなるというもの。(一部例外あり)

 太陽が人々に与える恵も、破滅も、それは太陽の意思とは無関係だからだ。

 だが、それを抜きにしても、ヨハンたちにアメン=ラーを倒す手段が存在しない事実に変わりは無かった。


「これは……リタイアですかね?」


 メイが呟く。既に心が折れているのだろう。だが、ヨハンが首を振った。ヨハンはメテオバードの召喚を取り消しつつ、口を開く。


「いえ、あの究極融合召喚の性質上、ここでのリタイアは意味がないわ」

「え?」

「魔王はんの言うとおりや」

「普通のクエストならここでリタイアして、対策を立てた上で再戦というのもいいんでしょうけど、次もあのアメン=ラーが現れるとは限らない」

「そうどす。常にこっちの対策を裏切る召喚獣が生成されるのがオチや」


「じ、じゃあアレを倒すしかないってことですか? でも、どうやって?」


 メイが泣きそうな目で言った。それを安心させるように、ヨハンが召喚石を取り出す。それを見たメイの顔がぱっと明るくなった。


「あ、それは!」

「そう。召喚獣召喚――ミラージュマジシャン!!」


 ヨハンは早速、砂漠でゲットした召喚獣ミラージュマジシャンを呼び出すと、そのスキルを発動させた。

【幻影複製】によって、ファラオが使用した【究極融合召喚】を一時的にヨハンのスキルとして加えることに成功した。


『スキル【究極融合召喚】が使用可能になりました』

『※このスキルは一度使用するか、ログアウトすると消滅します』


「こっちもやるしかないでしょ、究極融合召喚」


 ぐっと親指を立てるヨハン。


「そうか、その手がありました!」

「せやね。頼むわ!」


「ええ、任せて頂戴!」


 ヨハンはストレージを開くと、少し迷う。


(アメン=ラーを倒すには、超級と何かを融合させて、こっちも神級を作る必要がある……それなら手っ取り早く、クリスタルレオとゴクウの超級同士で……よし)


「はん! お前たちが召喚するのを黙って見ているとでも思ったか! さっきのお返しだぜ。アメン=ラーよ、スキル発動――【ミレニアムクライシス】!」


 アメン=ラーの体から強烈な光が放たれ、フィールド全体を包み込む。その光は思わず目を閉じるほどの眩しさで、全員が数秒ほど目を閉じた。


「ってあれ? あれれ?」

「ダメージも状態異常も受けてへんわ……」

「一体何をされたんでしょう?」


 アメン=ラーのスキルが終わるが、ヨハンたちが何か害を受けた形跡はなかった。HPは減っておらず、状態異常もない。


「フハハハ。ストレージを見てみな?」

「ストレージって……ああ!?」


 ヨハンたちがストレージを確認すると、まだ使っていない筈の召喚獣が使用不能になっていた。だが、これは封印されたのとは違う。


「そう。【ミレニアムクライシス】はお前たちが持つストレージの召喚獣に直接ダメージを与えることができるスキル。ランダムに1000個の召喚石にダメージを与えることができるのさ。まぁ、俺のストレージもやられるんだが……ここまで来たら関係ないよなぁ?」


 ミレニアムクライシスを受けると、召喚されていないにも関わらず、戦って敗北したのと同じ状態にされてしまう。


「アカン……九尾も管狐もやられた……くぅ。それにゴクウも……」

「わ、私も主力メンバー全滅です」

「ものの見事に超級が全滅……おのれファラオ……」


 ヨハンも慌ててストレージを確認する。逆転のチャンスを掴めるかもしれないクロノドラゴンを始めとしたバチモンたちは全滅。さらに、たった今融合に使おうと思っていた超級の二体も倒されてしまっていた。


「これは詰んだかしら……いや待って」


 ヨハンは考える。


(上級+上級=超級。超級+強いの=神級……ということは)


「コンちゃん、メイちゃん、クリスターさん。残っている手持ちの中で、一番強い召喚獣を貸して頂戴」


「魔王はん……」

「ヨハンさん、何を言って……」

「いいから。みんなが貸してくれた召喚獣を究極融合してみるわ」


 ヨハンの提案に、皆が驚く。


「残念ですが、私も、あなたも、コンさんも。超級は全てやられてしまいました。おそらくですが、それでは神級に至ることはできませんよ」


「そんなこと、やってみなくてはわからないじゃない?」


「ほう……自信アリといった表情。わかりました。こうなったら、貴方に賭けるしかないようだ」


 サモンライドが解除されたクリスターは、どこかふてくされたようにストレージに残された召喚獣を捜す。そして、とある召喚獣が目に留まると、ニヤリと笑った。


「フッ。偶然でしょうか。運命でしょうか。ヨハンさん、貴方にピッタリな召喚獣が、私のストレージに残っていましたよ」


「ウチも。魔王はん、これ使ってな」


「わ、私の……いえ、これは元々ヨハンさんに貰ったものですね。使ってください!」


 ヨハンは三人から【クロノドラゴン】の召喚石を受け取った。三人から託された卵型の玩具の形をしたそれを、握りしめる。


「ありがとうみんな。必ず成功させる」


 ヨハンはこちらを見下ろすアメン=ラーを睨む。そして。


「スキル発動――【究極融合召喚】! 私が融合させるのは三体のクロノドラゴン!」


『Dシステム起動』

『これより融合召喚を開始します』

『成功確率10.7パーセント……』


 様々なメッセージがヨハンの視界に表示される。


「馬鹿なっ……上級召喚獣三体で融合だと? 成功するわけがない」


「それはどうかしら?」


『融合召喚成功――これより融合を開始します』

「何っ!?」


 中央に巨大な魔法陣が展開する。ヨハンが持っていた三つの召喚石が光の粒子となって、その魔法陣へと吸い込まれる。


「ええと、これを読めばいいのね」


 ヨハンは視界に現れたメッセージを読みあげる。


「過去を支配する時の王者。三つ束ねしその力が今、未来を切り開く――究極融合召喚!」


 そして、新たなるクロノドラゴンが姿を現した。


「顕現せよ神級――アルティメットクロノドラゴン!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る