第139話 攻略の鍵

 ピラミッドの入り口。

 一足先に脱落したコンとクリスターは、二人で先ほどの戦いのログを確認していた。


【融合解除】

自分が融合召喚した融合体を消滅させ、その融合召喚に使用された二体の召喚獣をフィールドに呼び戻す。その後、スキル【融合召喚】を再使用可能にする。


「これが【融合解除】の効果やね」

「【融合召喚】の再使用までの時間は10分。なるほど。ファラオが融合を連発していたのは、このスキルのお陰だったという訳ですね」


 【融合召喚】と【融合解除】を使い分けることで実質三種類の召喚獣を状況によって使い分ける。それがファラオの戦術。しかも、融合召喚によってHPはすぐに全部回復。つけいる隙は無いように思える。


「やはり時間をかけて、融合召喚に使える召喚獣を集めるべきですかね?」

「せやねぇ……」


 二人が「う~んう~ん」と唸っていると、ヨハンとメイが現れた。


「おかえり」

「やはり駄目でしたか?」


 戻ってきた二人に、コンとクリスターが声をかけた。


「いいえ、そうでもないわ」

「聞いて下さい! なんとヨハンさんは、攻略の糸口を掴んだようなんです。ですよね、ヨハンさん」

「ええ、まぁ」


 誇らしげなメイの発言に、コンとクリスターが食いついた。


「ほんまに?」

「ええ。あの時は、場の雰囲気に呑まれていたのだけれど、コンちゃんたちが居なくなってしまってからね。気が付いたことがあるのよ」


 ヨハンが注目したのは【融合解除】後に呼び出される二体の融合素材召喚獣。そのHPだ。融合召喚で呼び出されたS・O・GホルスのHPが全て回復していたのは、ファラオ自身が言っていたことだ。

 だが、そのインパクトに気を取られ、ヨハンたちは融合素材となったアヌビスとアポピスのHPに気が回っていなかった。融合解除によって再び現れた、二体のHPに。


「そういえばそうやな……」

「で、融合解除で現れた二体のHPはどうなっていたのですか」

「えっと、あくまで相手の頭の上のHPバーを目視した感じなんだけど」


 一度目の融合解除の時。ヨハンとクリスターによる集中砲火のおかげで、ホルスのHPを残り70%まで削った時。

 その時の融合解除で現れたアヌビスとアポピスのHPは、目視でどちらも35%程度。


 そして二度目。ホルスのスキルをコピーしたクリスターの攻撃を回避するために使用した時。残りHPが100%の状態で融合解除を使った際の融合解除によって現れたアヌビスとアポピスのHPは、それぞれ半分程度だった。


 これが意味する所は……。


「つまり、融合解除で呼び出されたアヌビスとアポピスは、融合解除時点のホルスの残りHPの半分になるってことですか!?」


「正確には割合やな。数値が半分になるわけやない……けど」


「ええ。ホルスのHPを削れば削るほど、分離した二体のHPは確実に小さくなる」


「そうなのよ。だから、ホルスのHPを削れば削るだけ、ファラオは融合解除を使いにくくなる。何せ、分離した二体はホルスより弱いのに、HPが低い状態で現れるわけだからね」


 少なくとも、無限融合戦術はノーリスクの最強戦法ではなかった。弱点と呼べるものがちゃんと残されていた。


 だが。


 そのヨハンの発見に、クリスターは苦言を呈す。


「けれど、問題はどうやってホルスのHPを削るか……ですよ。先ほどの戦いからもわかるように、ファラオはホルスのHP管理を徹底してます。アヌビスとアポピスは、強化解除スキルとスキル無効スキルを持っています。それらを搔い潜って、再びホルスに融合するまでに削れるHPは20%程度でしょう。つまり、ホルスのHPを40%まで減らさないと、融合解除の牽制にはなり得ないということです。そこのところ、どうお考えなんですか?」


「確かにそうやね」

「クリスターさんの言うとおりだ……ホルスのHPを削っても、すぐに解除、融合ってされたら全然意味ないよ~」


 コンとメイも、クリスターの意見に同意した。確かに、ファラオはそこまで甘くない。そもそも超高難易度のボスを任されるAIは、プレイヤーが正しい行動を取ったからといって勝てるとは限らないのだ。

 与えられた手札の中で、勝利のため最高最善の戦いを行う。プレイヤーはそれを超えなければならないのだ。

 結局、課題は融合解除を搔い潜り、いかにしてホルスのHPを削るかに戻ってきた訳だが。


「ホルスのHPよね。それに関しては、ちょっと試したいことがあるのよ」


「試したいこと?」


「ええ。だから、付き合ってくれるかしら?」


 超高難易度クエスト。別段、負けたからといってペナルティがあるわけでもない。謎の自信に溢れたヨハンの考えが気になった3人は、再びピラミッドへと足を踏み入れるのだった。


***


***


***


「また君たちか。いいだろう、何度でも相手になってやろう」


 神官再び。

 ヨハンたちの前にはS・O・GソルジャーとS・O・Gシャーマンが並び立つ。


「君たち相手に出し惜しみは無しだ。最初から全力で行かせてもらうぞ」


 神官が杖を天に掲げると、S・O・Gソルジャーとシャーマンの二体は光の粒子となって天に舞う。そして、その二体が居た場所の丁度中央に巨大な魔法陣が展開し、粒子となった二体を吸い込み、混じり合う。


「王に仕えし二体のしもべよ。古の奥義によりその真の姿を現せ。融合召喚――顕現せよ! スピリット――」

「ブラックフレイム!!」

「あおおおおおおおんんん!?」


 なんと、ヨハンは融合召喚の途中、まだ体が形成されている最中のS・O・Gアヌビスに向かって攻撃を行ったのだ。


「やっぱり。あの状態でも攻撃は当たるのね」


「ち、ちょっと魔王はん……」

「一体何を……」


「え、何をって。攻撃したんだけど?」


 ヨハンは融合召喚を何度か見てきたが、その時から気になっていた。何故他のみんなは、黙って融合召喚獣が現れるのを待っているのだろうと。


 融合素材となった二体が光りの粒子となって巨大な魔法陣に吸い込まれ、その後、融合後の召喚獣が徐々に姿を現す。まず光の塊になり、その後シルエットができあがり、最後に色がつき、召喚獣の形となる。


 だが、魔法陣から光の塊が現れた段階で、その頭上にはHPバーが表示されているのだ。神官の台詞でいうと「~古の奥義により~」の辺りである。


「寧ろ疑問だったのよ。なんでみんな、大人しく待っているのかなって。隙だらけなのだから、攻撃し得だと思うんだけど」


 ヨハンは首を傾げた。どうやら今までは、みんなが攻撃しないから黙って見ていたらしい。


「え、いやな……それはなぁ……」

「合体中に攻撃するなんて、卑怯ですし……」


「……? よくわからない理屈だわ」


 キョトンとするヨハン。


「とにかく、派手な演出に惑わされがちだけれど。融合召喚の弱点は間違いなく合体直後よ。そこを集中攻撃で叩き潰しましょう」


 融合召喚攻略の鍵を手に入れたヨハンたちは、超高難易度をリタイアすると、後日、ファラオへの再戦のため、再び集まるのだった。

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