第138話 ファラオとの死闘
神官と戦った部屋を抜けた先、ヨハンたちは立ち止まり、とある検証を行っていた。
ミラージュマジシャンの能力で手に入れた【融合召喚】。その正しい使い方を調べ、次の戦いに活用できないかと考えていたのだ。
大前提のルールは『同じ級のモンスター2体を使用し、一つ上の級の融合召喚獣を呼び出す』というもの。
そして、融合召喚のやり方は大きく分けて二つ。
ひとつは場に呼び出している召喚獣1体と、手持ちの召喚石を使った融合。
もうひとつは召喚している召喚獣がいない状態で、二つの召喚石を使った融合。
大事なのは、同じ級の召喚獣ならばなんでも融合できるというわけではなかったと言うこと。
この【融合召喚】のスキルは、あらかじめ決まった組み合わせでなくては発動させることはできないのだ。
そして、残念なことにヨハンたち4人の手持ちには、その組み合わせはひとつも存在しなかった。
「なんや……結構残念やね」
「バチモンの融合の組み合わせ……なかった……ナカッタヨ……」
「あの……元気だして貰ってもいいですかね?」
露骨にテンションが下がっているヨハンに、クリスターが呆れたように言った。クリスターとしては【融合召喚】のスキルはあくまで見栄。超高難易度をクリアした証といった側面が大きいので、自分の理想の効果でなかったとしても、そこまでダメージはない。
「けどウチら4人の召喚獣合わせて、ひとつも使える組み合わせがあらへんなんてなぁ。思いもしなかったわ」
「そもそも実装されてないんでしょうか? それとも、まだ私たちが見つけてないだけなのかな?」
「おそらくはそうでしょうねぇ。第四層が実装されてまだ二週間あまり。本来なら四層全ての召喚獣を手に入れて、砂漠でミラージュマジシャンを入手。神官戦で【融合召喚】をパクって、こちらも融合を駆使してファラオを倒す……ってのがこのクエストクリアまでのゲームデザインなんでしょう」
「まっ。順番は前後してもうたけど。やることに変わりはなし。ほら行くでー魔王はん?」
コンは落ち込むヨハンを引き摺って進む。メイとクリスターもそれに続く。そこからしばらく階段を上がると、道が二つに別れていた。
そのまま真っ直ぐ上へと登る階段と、右へ曲がってから下る階段。コンは振り返ると、どちらに進むかみんなに尋ねた。
「右がいいと思います」
「賛成です。アイテムの取り逃しとか、嫌いなんで私」
「ならそうするか」
4人は右に曲がると、今度は階段を下る。そのころにはヨハンのメンタルも回復。「バチモンコラボ二弾に期待」とブツブツ呟きながら、最後尾をついてくる。そして、しばらく進むと、再び四角い部屋に出た。
先ほどと同じ青白い神秘的な照明。だが、違うのは全体的に煌びやかな装飾がなされていることだろう。
部屋の最奥には黄金の玉座があり、そこには一人の少年が腰掛けていた。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぜ」
少年は立ち上がる。背丈は中学生くらいか。全身に煌びやかな黄金の装飾品、そして白いマントを纏っている。
だが何より目を引くのは、彼の顔を覆う黄金のマスク。それはツタンカーメンのものを思わせる。
「どうやらこっちが正解ルートだったみたいですねぇ」
「せやね。あれは、どうみてもファラオや」
「ええ。ファラオ感が凄いわ」
ヨハンたちは部屋の中に踏み入れる。すると、ファラオはマスクの奥で嬉しそうに笑った。
「その通りだぜ。俺こそがファラオ! あの神官野郎を倒し、よく来たと褒めてやるぜ!」
そして、高らかにそう宣言した。
「なんか思ってたのと違いますね」
「そうね。テンションが高いわね」
「暇やったんやろ」
「マジで誰も来なかったらどうしようかと思ってたぜ! さぁ、とっとと始めようぜ!」
ファラオは神官が持っていたものよりも、よりゴージャスな召喚石二個差しの杖を振り回す。すると、地面には巨大な魔法陣が二つ展開する。
「来い。スピリットオブガーディアン・アヌビス! そして、スピリットオブガーディアン・アポピス!」
そして、二体の巨大な召喚獣が姿を現す。その内一体は先ほど戦った
「今度は上級二体なんですね」
「予想通り。じゃ、行くわよコンちゃん」
「当然や。召喚獣召喚――【ゴクウ】!」
ヨハンは何も召喚せずに前に出る。コンは召喚獣ゴクウを呼び出す。そして、メイはスケープゴートを召喚。
残ったクリスターはプレレフアを呼び出すと、後ろに回る。アヌビスがいる以上、サモンライドはすぐに解除されてしまう。なので、ファラオが融合を使い、場からアヌビスが消えるまで、後方支援に徹するつもりだ。
「それじゃ、バトルだぜ。お前たちの全身全霊、全力で掛かってきな!!!」
「ほなお言葉に甘えて。魔王はん!」
「ええ行きましょうコンちゃん」
ヨハンとコン、そしてゴクウはS・O・Gアヌビスの元へと向かう。二人の集中攻撃によって、【融合召喚】を使われる前のアヌビス単体撃破を狙うのだ。
「そうはいかないぜ。S・O・Gアポピス、アヌビスの加勢に回れ」
「おっと、そうはいかないよ。ひつじくん、【増殖】からの【デコイ】!」
「メェ~」
一方、S・O・Gアポピスの前に立ったメイは、スケープゴートに【デコイ】を使わせる。これでアポピスはスケープゴートしか攻撃できなくなり、S・O・Gアヌビスの加勢に向かうことができない。
「ほう……?」
メイが作った時間を使い、ヨハンとコンはS・O・Gアヌビスを集中攻撃。そのHPを一気に25%程度削る。
「ほーう。お前たちやるじゃないか。褒めてやるぜ」
「なんや偉そうやね」
「まぁ、王様だからね」
神官、そして今対峙しているファラオは共にキャラクターロール用のAIを積んだNPCだが、それでもやたらとキャラが濃かった。
「だが調子に乗るのもそのくらいにしておいた方が良さそうだぜ? 見せてやる。古代エジプトより伝わる伝説の奥義を」
言うと、ファラオは杖を置き、融合の準備に入る。
「む、もう使うのね?」
「今度はどんな召喚獣なんやろ?」
「冥界の守り手よ、闇の世界の主よ。我が力を持って一つとなれ――【融合召喚】! 顕現せよ超級――スピリットオブガーディアン・ホルス!!」
姿を現したのは超級モンスター。
白銀の燃えさかる炎のような光沢を放つ鎧を纏った、巨大な鳥型のモンスターだった。
「キシャアアアアアア!」
「むっ……なんというプレッシャー!?」
場に出ただけで逃げ出したくなるような威圧感を放つ
「フハハハ。ビビっちまうのも無理はないぜ。だがホルスの力はこんなもんじゃないぜ。受けてみな! スキル発動――【天空の裁き】!」
S・O・Gホルスのスキルが発動すると、天井から雷が降り注ぎ、クリスターが召喚していたプレレフア、そしてメイのスケープゴートに降り注ぐ。そして、この攻撃を受けた二体は消滅してしまった。
「そんな……」
「二体同時に!?」
「教えてやるぜ。【天空の裁き】はホルスが場に出現したときに一度だけ使用できるスキル。フィールドに居る上級以下の召喚獣を、あらゆるスキル、耐性を無視して消滅させることができるのさ」
「ええー!? 私、超級とか持ってないのに!? 酷いよファラオくん!」
「安心してください。ファラオが言うには、このスキルはホルス召喚時点の一度きり。二度目はありません」
「そ、そうだった。ありがとうクリスターさん」
「いえいえそれほどでも。さて、それでは相手のアヌビスも消えたところで……サモンライド!」
クリスターは嬉々としてサモンライドを発動。天帝ゼルネシアを身に纏い、ヨハンたちのいる前線へと向かう。
「暴れますよ!」
「頑張って下さいクリスターさん!」
そんなクリスターを見送りながら、メイは三人を支援するための準備を開始した。
「さて、どいつから倒すか迷うぜ」
圧倒的な召喚獣ホルスを従え、ファラオはご満悦。「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・言う・と・お・り♪」と、余裕な様子。ヨハン、コン、そしてクリスター。誰から倒そうか楽しそうに吟味している。
「よし。俺が最初に倒すのは――」
「アンタの相手はコイツや――【サクリファイスエスケープ】!」
ファラオの言葉を遮って、コンは【サクリファイスエスケープ】をゴクウに使用。これで、ホルスはゴクウしかターゲットに指定できなくなった。
「いいぜ。そこまで言うなら、まずは貴様からだ。ホルス!」
「キエエエエエエエエ」
「焼き払え! 天空の炎――ソルフレイム!!」
放たれた業火に、ゴクウの小さな体は一瞬で飲み込まれ、為す術なく消滅する。
「ふははは、ゴクウ
「あら、ようやくお気づきで?」
「貴様……一体俺のホルスに何をした?」
ホルスの白銀の体に、毒々しい紫色のエフェクトが現れる。コンが持つユニークスキル、通称【
「ゴクウの体はウィルスの媒介だったんよ。そのゴクウを倒した召喚獣は、ウィルスに感染。効果はHP・MPを除く全ステータス0と行動不能。ゲームエンドどす」
「馬鹿な……動け。動けホルス!! ちょっ……ヤバいって!」
ファラオの声は、ホルスには届かない。ホルスはまるでフリーズしたかのように、動きを止めていた。
「よし、ここは集中攻撃よ!」
「ええ、任せて下さい。サモンライド!」
ヨハン、そしてクリスターの二人はホルスに集中攻撃を仕掛ける。高いHPも、防御力が0の今ならば何の意味もない。ヨハンたちはバフを掛けつつ、攻撃を繰り返す。
その攻撃は全部命中。ホルスのHPゲージはみるみる減っていく。
「ふふふ。超高難易度、楽勝やったわ」
「それはどうかな?」
「は?」
ファラオの言葉に、コンが不服そうに顔を歪める。
「【クラックウィルス】は召喚師でも解除不能どす。それこそ召喚を解除でもせんと」
「それがあるのさ。召喚を解除せず、戦力を維持したまま、ホルスを復活させる方法が。お前たちはまだ【融合召喚】の真の恐ろしさを知らない」
ファラオの言葉に、コンはゾクッとした。何かヤバい。直感的にそう感じた。
「二人とも、もっと火力を……はよトドメを!!」
「遅い! 俺はスキルを発動するぜ――【融合解除】!!」
ファラオのスキルが発動すると、ホルスの体が粒子となって空を舞う。そして、二つに別れると、場には再びS・O・GアヌビスとS・O・Gアポピスが姿を現した。
「融合解除!?」
「ホルスの召喚を解除し、融合に使った二体の召喚獣をこの場に呼び戻したということでしょうか?」
「その通り。さぁアヌビス、お前のスキルを発動しな!」
「わおおおおおおおおん」
S・O・Gアヌビスが【冥界の轟咆】を使うと、ヨハンたちの強化状態が解除。クリスターも元の姿に戻されてしまう。
「さらに俺は、二体を再び融合させる。我がしもべよ。
「キエエエエエエエエエエエ」
呼び出された二体は再び合体すると、S・O・Gホルスが姿を現した。
「ち、ちょっと……そんなのアリですか!?」
「HPが全部回復してる……」
クリスターとヨハンはホルスのHPゲージを見て驚いた。先ほどまで自分たちが削ったHPが、全て元通りになっているからだ。
「それだけやない……。【クラックウィルス】もなかったことに……くっ」
「一回きりの切り札だったんだろ? 残念だったなぁ? だがそれだけじゃないぜ。【天空の裁き】!!」
ホルスが再び現れたことで、【天空の裁き】が発動。上級以下の召喚獣は全て消滅させられる。後方支援のために控えていたメイのプレレフアが問答無用で消滅させられた。
「行けホルス――【天空の炎・ソルフレイム】!」
「くっ……【デコイ】」
「遅いぜ!」
ヨハンがデコイを発動したが、間に合わない。
「くっ……ここまで……」
敵の攻撃のターゲットになったのはコンだった。巨大な炎の一撃を受けて、全てのHPを失い、消滅する。
「あわわ……コンさんが」
「おのれぇ! サモンライド【クロノドラゴン】!!」
クリスターはやけくそ気味にサモンライドすると、その姿を漆黒の鎧竜に変える。
「さらに私は【タイムメイカー】発動!」
そしてクロノドラゴンのスキルを発動。空間が虹色に包まれ、至る所に時計を模した魔法陣が浮かび上がる。
タイムメイカー。このフィールドでのバトル中に発動した全てのスキルを発動することができるスキル。
「お返ししますよ――【天空の炎・ソルフレイム】!」
ホルスの強力な必殺スキルを自らが使う。クリスターから放たれた巨大な炎の塊がS・O・Gホルスを襲う。
「無駄だぜ。――【融合解除】!」
だが、ファラオはすかさずホルスの融合を解除。ホルスは分離され、攻撃は外れる。場には再びS・O・GアヌビスとS・O・Gアポピスが現れた。だが、クリスターは狙い通りとばかりに次のスキルを発動する。
「私の読み通りですよ! 今呼び出されたその二体より、私の方が一手早い! 今度は【天空の裁き】を発動! その二体には消えて貰いますよ!」
アヌビスのスキルが発動する前に動く。クリスターは、タイムメイカーの能力でホルスのスキルを発動した。これにより、上級以下の召喚獣、アヌビスとアポピスに雷が降り注ぐ。
「これが決まれば私たちの勝利です!」
「それはどうかな? S・O・Gアポピスの隠されたスキル発動――【闇からの天啓】」
今までスキルを使っていなかったアポピスのスキルが発動すると、二体を狙っていた雷が消滅してしまう。
「そんな……何が起こって?」
「教えてやるぜ。【闇からの天啓】は相手のスキルを効果発揮前に無効にし、さらに相手をスタン状態にする。ここまで温存していた甲斐があったというものだぜ」
ファラオは続けてS・O・Gアヌビスの【冥界の轟咆】を発動。全ての強化状態を解除され、クロノドラゴンの姿をとっていたクリスターは、元の姿に戻る。
「はっ。これは今の私たちには……強すぎる」
瞼を伏せ、諦めたようにクリスターは笑った。少なくとも、今の自分に勝てる相手ではないと理解した。
そして、無防備なクリスターに、アヌビスとアポピスが集中砲火。そのままHPが0になり、クリスターも敗退してしまった。
「これは、一度リタイアですかね」
「そうねぇ」
このまま勝ったとしても、脱落したコンとクリスターは【融合召喚】を得ることはできない。ここはリタイアし、後日再挑戦するのが賢いだろう。
ヨハンたちが迷っている間、ファラオは再び【融合召喚】を発動。S・O・GアポピスとS・O・Gアヌビスを融合し、S・O・Gホルスを融合召喚する。
「キエエエエエエエエ!」
(……あれ? もしかして)
その融合召喚の一連の流れを見て、ヨハンは何かを思いついた。それは、もしかしたらファラオの融合ループ戦術を崩せるかもしれない、重要な発見だった。
「オイオイ。尻尾を巻いて逃げるのか?」
ヨハンとメイはメニューを操作すると、クエストリタイアボタンを押す。挑発に乗る必要はなかった。ヒントは得た。
次は絶対に負けない。その自信が、ヨハンにはあった。
「ええ。でも、また来るわ。貴方を倒しに、必ずね」
「フッ。楽しみにしているぜ」
ファラオの言葉が聞こえるか聞こえないかのタイミングで、ヨハンとメイはピラミッドの入り口まで、転移した。
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