第137話 VS神官
戦いが始まるや否や、ヨハンは神官に向かって走り出す。これこそがプランA。敵の召喚獣を無視し、先に神官を倒してしまおうというのだ。
召喚師である神官を倒してしまえば、従えている召喚獣も消滅する。
「まさにプレイヤーにダイレクトアタックや!」
「卑怯な。
陸上選手のように華麗なフォームで神官の元へ走るヨハンに、
「ヨハンさんの邪魔はさせませんよ。【ロイヤルガード招集】!」
天帝ゼルネシアにサモンライドしたクリスターがスキルにより、五体のロイヤルガードを呼び出した。現れた五体のロイヤルガードが、道を塞ぐ二体を受け持った。
「さぁ今の内に」
「ええ、ありがとう!」
クリスターのお陰で、ヨハンは神官の元へとたどり着いた。ヨハンと向き合って尚、神官は微動だにしない。
「このまま決めさせて貰うわよ――ブラックフレイム!!」
ヒナドラのスキル【ブラックフレイム】を神官に向かって放つ。だが、黒い炎がぶつかる瞬間、神官の周囲に光のバリアが現れ、攻撃がかき消されてしまった。
「愚かな。このピラミッドに居る限り、私はフィールドギミック【ピラミッドパワー】の加護を受けている。その効果により、召喚獣を従えている限り、お前たちからのあらゆる攻撃、スキル効果を受け付けない」
「なるほど……ズルはできないということね」
ならば先に召喚獣を倒す。そう思い振り返ると、丁度クリスターの呼び出したロイヤルガードが倒されているところだった。
「加勢するわ」
「お願いします。こいつら中級召喚獣の癖にやたら強くて困ります」
「おそらくボス戦仕様の特別な召喚獣なのね」
ヨハンはクリスターに加勢する。
「ヨハンさん、受け取ってください!」
その時、後衛のメイがプレレフアのスキルを発動する。【フラワー・オブ・ライフ】により、ヨハンの魔力数値は三倍となる。
「ありがとうメイちゃん! さぁ、行くわよ!」
ヨハンは両腕をヘラクレスオオカブトの角のように構えると、バスタービートルのスキル【テラーズブラスター】を放つ。
ヘラクレスオオカブトの構えから放たれたビーム攻撃はS・O・Gソルジャーを襲う。回避しようとするソルジャーだったが。
「逃がさないですよ。ロイヤルガード!!」
クリスターの手によって、再び招集されたロイヤルガードの二体が、まるでバスケットボールのディフェンダーのようにS・O・Gソルジャーの退路を塞ぐ。逃げ場を失ったS・O・Gソルジャーに、テラーズブラスターが押し寄せる。
「ぐぎゃ!?」
極太のビームはS・O・GソルジャーをHPゲージギリギリ、瀕死の状態まで追い込んだ。だが。
「あれ、ロイヤルガードも消滅した? 味方なのに」
S・O・Gソルジャーと同時にヨハンの攻撃を食らったロイヤルガードの二体はHPを失い消滅した。GOOでは通常、味方の攻撃は食らってもダメージを受けない。
「ヨハンさん。どうやらこのクエストでは、味方の攻撃でもダメージを食らってしまうようですね」
「そのようね。気をつけないと」
コンとクリスターが互いにダメージを与えたら険悪になりそうだなと不安になりながら、ヨハンはS・O・Gソルジャーにトドメを刺そうとする。だが。
「見事だ。しかし、これ以上はやらせない。我がスキル発動!」
神官の指示を受けたS・O・Gソルジャーは盾を構える。すると、全身が青白く光輝き、ヨハンの放った【ブラックフレイム】を弾いた。
「何を! こちらは無敵貫通ですよぉ!」
新たな召喚獣をサモンライドし、自分の攻撃に無敵貫通を付与したクリスターが、S・O・Gソルジャーに武器を叩きつける。だが、それでも敵のHPはびくともしない。
「無駄だ。我がスキル【ピラミッドフォース】を受けたS・O・Gソルジャーは動くことが不可能になる代わりに、これ以上HPが減ることはない」
「でもそれじゃ戦えない……いや、融合ですか」
「その通り、ここからが本当の試練だ。君たちに見せてやろう。これこそ古代エジプトより伝わる伝説のスキル」
言うと、神官は手に持つ杖を天に掲げる。すると、S・O・Gソルジャーとシャーマンの二体は光の粒子となって中央で交わり、混ざり合い、巨大な魔法陣を展開する。
「王に仕えし二体のしもべよ。古の奥義によりその真の姿を現せ。融合召喚――顕現せよ!
スピリット・オブ・ガーディアン アヌビス!!」
現れたのは黒い犬型の召喚獣。全身に宝石の散りばめられた黄金の装備を纏っており、神々しさを感じさせる。大きさはクロノドラゴンと同じ程度。この空間においての威圧感は半端ではなかった。
「これが融合召喚……」
「強そう……」
「以前挑戦したとき、私はこのアヌビスに手も足も出ませんでした。皆さん、ここからが本番ですよ」
クリスターの口調は強がっていたが、少しだけ震えていた。
「
「アオオオオオオオオオンッ!!」
神官の指示と共に、アヌビスは大きな口を開き、大声で鳴いた。耳をつんざくような音と、気を抜けば吹き飛ばされそうな衝撃がフィールドに走る。
「こ、これは……!?」
「全体に対する強化解除攻撃です」
ヨハンの言葉に、隣にいたクリスターが答える。そのクリスターは、天帝ゼルネシアの姿から、元の軍服の姿に戻っている。
「バフだけではなく、私のサモンライドも強制解除されてしまうんですよね」
「なるほど……それは勝てないわね」
クリスターのようなタイプが自分たちを頼ってくるのは妙だと思っていたヨハンは、ここでようやく納得した。いくらなんでもクリスターの戦い方と相性が悪すぎる。
「で、ヨハンさんは大丈夫なんですか?」
「ええ。私は強化ではなく、常時発動型だから……」
「なるほど。今後の参考になりますねぇ」
「貴方ねぇ……」
ヨハンは呆れたようにため息をついた。だが、深く追求してもしょうがない。今はとにかく、目の前の敵を倒すのが先だ。
「――メテオレイン!!」
ヨハンはメテオバードのスキルを発動。天井から五つの火球が、S・O・Gアヌビス目掛けて降り注ぐ。
「躱せ!!」
「アオオオンンッ!!」
だが、S・O・Gアヌビスは華麗なステップで攻撃を全て回避。さらに体を回転させ、尻尾で反撃を繰り出してきた。
「くっ……巨体なのになんてスピードなの」
「動きを止める必要がありますねぇ……サモンライド【ワーフェンリル】!!」
今度はワーフェンリルにサモンライドするクリスター。だが。
「無駄だ。アヌビス――【冥界の轟咆】!」
「アオオオオオオオオオオンンンッ!!」
「ああもう、イライラしますねぇ!」
だが、速攻で強化解除されてしまった。
「動きを止める……ね」
ヨハンは背後のコンと目配せすると、ワーフェンリルのスキルを発動する。
「――【グレイプニール】!!」
S・O・Gアヌビスの足下から無数の鎖が伸び、その体を縛り上げる。
「続けて【デモンフリーズ】」
続けてグレイプニールの鎖で拘束した相手のスキル発動を封じ、さらに防御能力を0にする【デモンフリーズ】を発動。いつものスキルコンボでS・O・Gアヌビスを無力化する。
「よし、今のうちに!」
「甘いぞ挑戦者よ。私は【シフトチェンジ】を発動。S・O・Gアヌビスと、私の立ち位置を入れ替える」
神官が使用したのは、いつもヨハンが悪用しているスキル【シフトチェンジ】。その効果によって、S・O・Gアヌビスは鎖の拘束を逃れる。その代わりに神官が鎖に拘束される。
「だが、私には【ピラミッドパワー】の加護がある。よって鎖の効力は消える」
神官を縛っていたグレイプニールの鎖が消滅する。このスキルコンボを破られたのは初めてなので、ヨハンは驚いた。
だが。
「どうした。アヌビスを倒す決定打を失い、戦意を失ったか?」
「いいえ、計画通りよ。コンちゃん!」
「はーい!」
「何……いつの間にあんな所に!?」
ヨハンと神官の攻防の最中、コンは召喚していたネクロドールと共にアヌビスへと接近していた。
「何のつもりかは知らないが……迎撃しろ――【冥界の炎】!」
「アオオオオンッ!」
コンたちに向かって、アヌビスの口から、青白い炎が放たれる。だが、その攻撃は虹色の蝶たちによって防がれる。
「ナイスやメイちゃん!」
「えへへ! コンさん頑張って下さい!」
メイが従えるプレレフアのスキル【不死蝶の舞】によって、コンたちは守られたのだ。
「さぁいくで――【ファイブフェイス】!」
ホラー映画に出てくる薄汚れたフランス人形のような姿をしたネクロドール。可愛らしい顔をしているが、髪は全てなくなり服も剥がれ、体中が薄汚れひび割れた不気味な姿をしている。そんなネクロドールがスキルを発動させると後頭部が破裂し、そこから同じような人形の顔が四つ現れる。
「これでネクロドールは召喚獣五体分のコストにすることができる! ウチはネクロドールをコストに上級召喚――【ハイドラプランツ】!!」
ネクロドールをコストに召喚されたハイドラプランツ。ツタが絡まり竜のような姿をした召喚獣である。その姿を存分に活かし、S・O・Gアヌビスにツタを伸ばし絡め、動きを封じる。
「ええい何をしているアヌビス! 【冥界の炎】で焼き払え!」
「がむっ……ぐぐぐ」
だが、ツタにより口も塞がれており、必殺スキルの【冥界の炎】を放つことができない。
「今や魔王はん! ハイドラプランツには構わんでええから、殺ってもうて!」
「オーケーよコンちゃん!」
必死にS・O・Gアヌビスを押さえ込んでいるハイドラプランツの「え?(泣)」という声が聞こえた気がしたが、ヨハンは気にしない。
自分自身に【フラワー・オブ・ライフ】を掛け、さらにメイのプレレフアからも同じスキルを受け取る。
「――【メテオレイン】!!」
身動きの取れないS・O・Gアヌビス(とハイドラプランツ)に、五つの火球が降り注ぐ。強化されまくったその火力に耐えきることはできず、S・O・Gアヌビス(とハイドラプランツ)は光の粒子となって消滅した。
「……見事だ」
その様子を、神官は嬉しそうに見つめていた。カシャリカシャリと足音を立てながら、ヨハンが神官に近づく。
「よくぞ我が融合召喚獣を乗り越えた。君たちのような召喚師を、我々は三千年待っていた。さぁ、私にトドメを刺し、ファラオの元へと向かうがいい」
自らの仕事はやりきった。そんな充足感を感じさせる表情で自身の首を指差す神官。ファラオへの挑戦者を見極める者という設定でもあるのだろう。その顔は、大きな使命を果たした者のみが浮かべられる、満足感に満ちていた。
「ああ王ファラオよ。ようやく貴方へ挑戦する者がやってきましたよ……我らが待ち望んだ、融合を継ぐ者たちが……」
「あ、ちょっと待って頂戴ね。倒すまえにやることがあるの」
「何?」
ヨハンは手招きすると、ずっと背後で待っていたミラージュマジシャンを呼び寄せた。丸い鏡から玩具のような手足が生えたミラージュマジシャンは、ふわふわと浮遊しながらこちらに寄ってきた。
「えっと……【幻影複製】!」
ミラージュマジシャンが、体の鏡に神官を移し込む。すると、ヨハンの視界にメッセージが表示された。
『スキル【融合召喚】が使用可能になりました』
『※このスキルは一度使用するか、ログアウトすることによって消滅します』
「やった。限定的だけど、【融合召喚】が使えるようになったわ! ありがとう」
「そ、そうか。それは良かったな」
「ええ。それじゃ、さようなら」
そうつぶやくと、神官の首に一発。それを受けた神官はなんとも言えない表情で、光の粒子となって消滅していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます