第136話 神官の試練

 無事砂漠を脱出したヨハンは、コンたちと合流。

 ヨハンは遅れたことを謝り、みんなはそれを仕方ないと許した。


 途中で出会った蜃気楼との戦いのことを話しつつ、超高難易度クエスト【巨大合成墓地ピラミッド】を受注。ヨハンたちは、ようやくピラミッドに足を踏み入れた。


 石でできたピラミッド内部の道を、ヨハンたちは進んでいく。クリスターの情報によれば、中ボスのいる部屋までの道中、敵は一切出現しないらしい。

 なので、ヨハンやメイも身構えることなく、スタスタと奥を目指して歩いて行く。


 ただ一方で、コンだけは不満そうな顔で最後尾を歩いていた。


「どうしたの?」

「どうしたのやあらへん。なんであの子がいはるん?」


 あの子とは、先頭を歩くクリスターのことである。


「呼びましたぁ?」

「いいえ、何でもないわよ」


 そう。今回のピラミッド挑戦には、コンが出し抜こうとしたクリスターも参加している。

 ヨハンが遅刻したため、コンとメイは二時間ほど、ピラミッドの前でクリスターと待っていたのだ。


「私が呼んだのよ。だってせっかく情報を教えてくれたのに、仲間外れにするなんてかわいそうじゃない……それに」

「それに?」

「このクエスト。多分3人だけじゃ勝てないと思うわ」


 超高難易度クエストは第四層のメインコンテンツである。故にその難易度は過去最高。本来ならばこの第四層を隅々まで探検し尽くし、レベルを80まで上げてから挑むべきクエスト。

 その過程を無視して挑戦しているのだ。人数は多い方がいいというのが、ヨハンの考えである。


「まぁええけどな? けど毎回クエストを一発クリアしてはる魔王はんには馴染みが薄いかもしれへんけど。クエストいうんは本来は何度も失敗してコツや情報を掴んで、ようやくクリアできるものなんどす」


 コンはこれまで圧倒的なキャラクタースペックのゴリ押しで勝利してきたヨハンに、クエストの本来の攻略方法を説く。

 本来、未知のクエストというものは何度も失敗しつつ、攻略情報を集め、対策を立ててクリアを目指すもの。

 最初から何回か失敗するのは前提で立ち回るべきだという。


「時にはなんの情報も得られず失敗し続けることもある。そんな時、大して仲良くもないクリスターはんと険悪にならへんとええんやけど」

「そこまで考えてはいなかったけれど……まぁなんとかなるでしょ」

「まぁせやね。一回一緒にやれば義理は果たしたようなもんやし。二回目からは誘わんでもええか」


 なんてことを小声で話していたとき。


 先行していたクリスターがおもむろに【サモンライド】を発動した。使用した召喚石は【ドリリングモグラ】。クリスターの見た目は頭部、両腕、両足に合計5つのドリルを装備したモグラの姿となる。


「え、いきなりなんなん?」

「道中は敵は出現しないんですよね?」


 いきなりサモンライドを発動したクリスターに対し、コンとメイが疑問を投げかけた。


「ああ、あれはですね……嘘です」

「え?」

「中ボスまで敵が出現しないと言ったのは……嘘です」


 その時。天井からメイの顔に向かって、ボトっと何かが落ちてきた。


 メイの顔を丁度覆うほどの大きさのソレは、着地するなりメイの顔の上を這う。その感触にメイは震えた。


「ぎゃあああああああああああああ!?」

「メイちゃん!」


 コンはすかさず銃型の杖【ディーパークラック】を引く抜くと、メイの顔面に向かって闇魔法【ガンド】を打ち込む。すると、メイの顔を覆っていた何かに命中。弾かれたようにその何かは地面に落ちた。


「い、一体なんなの?」


 ヨハンがその物体を注視すると、名前とHPが表示される。小型だがモンスターのようだ。


【メタルクラスタスカラベ】というらしく、金属のような銀色をしたスカラベだった。

 怯えたメイは涙目になりながら、助けてくれたコンの腰にしがみつく。


「あわわわわ……私、虫だめなんですぅ……」

「おうよしよし。怖かったなぁ。気持ち悪い虫はウチがやっつけたから安心して。さて、どういうことか説明して貰わんとな」


 優しい声色から一転。クリスターを睨み付けるコン。

 そんなコンの視線を受けて、「敵は出現しない」という嘘をついていたクリスターは悪びれることなく笑う。


「フェイクですよフェイク。あんな口約束の状態で、全部本当のことを言うわけないじゃないですかぁ」


 クリスターは裏切られる可能性も考えて、嘘を混ぜた情報を伝えていたのだ。


 もし裏切って三人だけでピラミッドに向かった時、ヨハンたちが慌てふためいて全滅するよう保険をかけていたのだ。


 仮に全滅とまではいかなくても、攻略の予定が大幅に狂うことになるし、自分が持ってきた他の情報も一気に信用できないものになる。

 それが彼女の仕掛けた、裏切られたときのための罠だった。


「もう、酷いわ。ウチらがそんな酷いことするわけないやない。なぁ魔王はん?」

「エエ、ソウネ」


 ヨハンは「調子いいなコイツ」と思いつつコンを見やる。


「いえいえ、信じていましたとも。本当ですとも。ただ、保険ですよ保険。許して下さい。他の情報はすべて本当ですから」

「あわわわわ……」

「ん、どうしたん、メイちゃん?」

「あれ……」


 メイの指差した先には、コンが倒したメタルクラスタスカラベが横たわっている。


「あれが何か……げぇ」


 倒された筈のメタルクラスタスカラベの体に穴が開くと、その中から無数の小さなメタルクラスタスカラベが湧いてでる。


 現れたそれらはすぐに元の大きさに戻る。結果、一体の中から30匹ほどのメタルクラスタスカラベが現れた。


 その30体だけではない。最初に倒された個体の体からは、今も新しいメタルクラスタスカラベがどんどん湧き出ている。


「メタルクラスタスカラベ。一度でも魔力系の攻撃をしてしまうと、そこから無数に増殖するんですよ。しかもその攻撃力はレベル40程度のプレイヤーなら一撃で倒してしまうほどの攻撃力。ああ、なんて悍ましいモンスターなんでしょう」

「早く言えや!」

「ですからこうして、ドリルを装備した次第です。さて……」


 クリスターの五つのドリルが回転する。


「疑ったお詫びです。ここは私が引き受けましょう」


***


***


***


 何度かメタルクラスタスカラベに襲われたものの、無事に中ボス【神官】が待ち受けるエリアまでたどり着くことができた。

 四角く広い部屋の上部にはクリスタルが浮いていて、青白い光でフィールドを照らしている。


「うわぁ、綺麗な場所ですね!」

「ええ、なんだか神々しいわ」

「そうでしょうか? ウチの大学もこんな感じですけど」

「あんたの大学、エジプトなん? ピラミッドなん?」

「ああ、違います違います。照明の話ですよぉ」


 ボス部屋にたどり着き盛り上がる女子たちを一喝するように、部屋中に金属音が響く。その音のした方を見やると、そこには神官と思わしき人物が立っていた。どうやら神官が、持っていた杖で地面を叩いたらしい。


「よくぞ来た、挑戦者たちよ」


 神聖な雰囲気漂う部屋に、神官の高貴な声が木霊する。屈強な体に白いマントを纏い、黄金でできたアクセサリーを身に纏っている。さらに腕には黄金の杖。杖の先には、二種類の召喚石がセットされていた。


「今から君たちを試すための試練が行われる。ファラオに挑戦する実力の持ち主かどうか。見極めさせて貰う。――召喚獣召喚!!」


 神官の前に、二つの魔法陣が広がる。そして、黒い犬の面を被った屈強な二体の戦士が現れる。


「現れよ! スピリットオブガーディアン・ソルジャー! そして、スピリットオブガーディアン・シャーマン!!」


 剣士風と魔術師風の、それぞれ装備の違う二体の召喚獣が出現した。


「さあ、君たちも自分の召喚獣を呼ぶがいい」


 言われ、ヨハンたちもそれぞれ、召喚獣を取り出す。


「それじゃ、計画通りに」

「ええ」

 

それぞれ、事前の計画通りの召喚獣を召喚する。


「召喚獣召喚――ミラージュマジシャン!」


 ヨハンは新しく入手した中級召喚獣ミラージュマジシャンを。


「召喚獣召喚――ネクロドール」


 コンは中級召喚獣ネクロドールを。


「サモンライド――天帝ゼルネシア」


 クリスターはゼルネシアへサモンライド。


「召喚獣召喚――プレレフア!」


 そしてメイはおなじみプレレフアを呼び出した。


「それじゃあ行くわよ。作戦プランA。融合召喚を使われる前に召喚師を叩き潰す!!」

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