第135話 勝利と報酬と

クワガイガーの姿へと変身した蜃気楼から、フィールド全体に電撃がばら撒かれる。【スタン】状態を付与する攻撃【放電】のスキル。


「ぐっ」


 ヨハンとナイトゴーストはその直撃を受ける。


 ヨハンは二回目のガッツを消費。ナイトゴーストは一撃で消滅してしまった。


 ヨハンは召喚する時間を稼ぐ為、増殖を発動。さらに増殖の一体に【デコイ】を使わせ、攻撃を引き付ける。


「今の内に。召喚獣召喚――クワガイガー!!」

「ギチギチィ」


 巨大な魔法陣の中からメカクワガタの召喚獣クワガイガーが姿を現す。


「クワガイガー、【放電】!!」

「ギチィ」


 ヨハンのクワガイガーが強力な電撃を放つ。だが電撃が直撃する寸前、蜃気楼は姿を変える。


「ああもう! ずるいわ!」


 蜃気楼が姿を変えたのは竜の角を生やしたメイド服の美女【メイドラグーン】。


 中級召喚獣メイドラグーンに姿を変えた蜃気楼は大きく口を開くと、スキル【ハイパードラゴニックボイス】を放つ。


 不可視の音波攻撃が生き残った増殖体ごとヨハンを襲う。


「くっ……こうなったら召喚獣を……また!?」


 ヨハンがクワガイガーの召喚を解除した時、蜃気楼は再びその姿を変えた。


 漆黒のスタイリッシュなローブを身に纏った長身の男性。上級召喚獣ダークウィザードである。蜃気楼は魔力を貯めるように杖をぐるぐると回転させると、その先をヨハンに向ける。


 そして、強力な闇の魔法【アルテマバースト】が炸裂。続けざまに三回目と四回目の【ガッツ】を消費させられたヨハン。


(ダークウィザードは上級召喚獣。召喚にはコストが必要。また姿を変えられたら無駄骨になる……なら。相手に釣られて無闇に召喚獣を出す必要はない。ここは冷静にチャンスを待とう)


 ヨハンは相手の変身への対応をあきらめる。相手の変化に付き合っても、ジリ貧になるだけだからだ。


 【増殖】を発動し敵の攻撃を分散させつつ、チャンスを待つ。


 そして、30秒ほどの攻防の後。蜃気楼の姿が再び変化する。一端ぼやけた蜃気楼の体は、浅黒い肌のセクシーな美女へと姿を変える。


「あれはっ! よし殺す」


 敵の姿が確定する前にダークエルフだと見切ったヨハンは、すかさず召喚を実行。ダークエルフが姿を現すのと、敵の姿が確定するのは同時だった。


「うおおおおおおおおお!」


 ヨハンは召喚したダークエルフの腕を掴むと、敵に向かって投げた。


 ダークエルフはレーザーのような軌道で敵に激突する。


「……」


 投げられたダークエルフはどこか諦めたような、達観したような表情のまま空中で姿勢を整える。


 そして、自身と同じ姿をした蜃気楼に跳び蹴りを決めた。

 すかさず蜃気楼からの反撃があり、ダークエルフはあっけなく消滅してしまったが、それでも蜃気楼のHPを削ることには成功した。


「ふぅ……なんとか冷静に対処することができたわ。さて、次は何に変身するのかしら?」


 ダークエルフと化した蜃気楼の輪郭がぼやけ、ふたたび姿を変える。


「がうおおおおおおおん」


 現れたのは竜のような羽と尾を持った巨大な白いライオンの召喚獣クリスタルレオ。


 クリスタルレオとなった蜃気楼はスキル【ダイヤモンドダストバースト】を放つ。氷のエネルギー波がヨハンを襲う。

 だが対するヨハンも同じ【ダイヤモンドダストバースト】を放ち、その攻撃を相殺する。


「ふふ、流石に吐き出したスキルには攻撃できるようね」


 だんだんと蜃気楼攻略のコツを掴んできたヨハン。心なしか悔しそうな蜃気楼は、次の変身を開始する。蜃気楼は半透明の人型に形を変える。そして、その体に漆黒の鎧を纏う。


「もしかして、カオスアポカリプス?」


 蜃気楼はヨハンが持つ最強の装備カオスアポカリプスに変化を遂げた。だが、それは驚異ではなく、ヨハンにとってはチャンスであった。


 装備としてのカオスアポカリプスが持つスキルは【暗黒の遺伝子】と【暗黒の因子】の二つ。


 この二つのスキルはどちらも召喚可能な召喚獣がいなければ意味をなさないスキル。例えこの鎧をコピーしたとしても、蜃気楼は強力な二つのスキルを発動することができないのだ。防御50上昇の恩恵しか受けることができない。


 だがヨハン側は違う。


 蜃気楼がカオスアポカリプスの鎧を装備した都合上、ヨハンは殴るだけで蜃気楼のHPを削ることができる。


 それだけではない。ヨハンが使う召喚獣のスキルは全て【暗黒の遺伝子】のスキル効果として処理される。


 つまりこの状況に限り、ヨハンの攻撃は全て通用するということだ。


「今しかないわね! ――グレイプニール!! ――デモンフリーズ!!」


 蜃気楼の足下から鎖が出現し、全身を拘束する。さらにデモンフリーズによって、耐久力の数値が0になり、あらゆるスキルの発動が封じられた。


 蜃気楼の変身はスキルによるものなので、次の変身が封じられた。


 チェックメイト。


 超強力な装備カオスアポカリプスに変身したことが、逆に蜃気楼の敗因となってしまった。


 ヨハンは【氷分身】を発動させ、自身と同じステータスを持つ三体の氷人形を出現させると、身動きの取れない蜃気楼を襲わせる。


 氷人形たちは鎖で縛り上げられた蜃気楼に殴る蹴るの暴行を加える。この攻撃も全て【暗黒の遺伝子】のスキル効果という扱いのため、蜃気楼のHPは物凄いスピードで減少し、そして0になった。


「……ぐ」


 蜃気楼の体は光の粒子となって消滅する。半透明ではなく、完全に。


「ふぅ……最後はあっけなかったわね。それにしても、嫌らしい敵だったわ」


 未知の敵との戦いの中で、ヨハンは初め、蜃気楼の攻略法を見つけた。同じ武器、召喚獣をぶつけるという攻略法を。


 だが、それこそが罠だったと、途中で気が付いた。【換装】スキルの使えるギルティアならともかく、数十秒~一分程度で姿を変える蜃気楼相手に、後追いで召喚獣を召喚していては追いつけない。

 かならずどこかで息切れし、トドメを刺されていただろう。


 目の前にぶら下げられた攻略法を敢えて捨て、決定的なチャンスを待つ。


「それが鍵だったのかしらね。さて、それじゃあ脱出を……あら?」


 ヨハンがふと気が付くと、蜃気楼が消滅した辺りの場所に宝箱が置いてあった。それも七つ。


「こ、こんなに貰っていいのかしら?」


 言いつつ、ヨハンはひとつずつ宝箱を開けていく。


【ムゲン砂漠の笛】

・使用することで砂漠の入り口かピラミッド前までワープできる。使用後、確率で壊れる


「やったわ! これでみんなに追いつける。後は……何か召喚石があると嬉しいんだけど」


 ヨハンは宝箱を次々と開けていく。


「素材……お金……お金……素材……あっ!」


 そこから四つは全て素材アイテムとゴールドだったが、六つ目の宝箱にはアイテムが入っていた。


「これは……片手剣ね。【熱砂の剣】。ゼッカちゃんへのお土産にしましょう」


 機嫌を良くしたヨハンは最後の宝箱を開く。


「最後は召喚石ね。えっと」


 手に取った召喚石に触れ、中に居る召喚獣の情報を表示する。


【ミラージュマジシャン】


ランク:中級


スキル

【幻影複製】:他のプレイヤー及びNPCが使用した召喚師専用スキルを対象に発動できる。この召喚獣の持ち主のスキル欄にそのスキルを追加する。その後、この召喚獣は消滅する。但し、この効果で得たスキルは使用直後、又はログアウト後に消滅する。


「えっと……つまり召喚師専用スキルに限り、他の人が使ったスキルを私も使えるということなのね? 一回だけだけど。これはつまり……」


 おそらく相手だけが【融合召喚】を使ってくるであろうピラミッドの攻略が楽になるということ。上手くいけば、先に融合を試すことができるということだ。


「うふふ。遅れてしまったけど、コンちゃんたちにいいお土産ができたわね。それじゃ」


 ヨハンはムゲン砂漠の笛を使い、ピラミッドへとワープした。

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